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6 弱解と衝撃波

不連続な関数をも微分方程式 (17) の解とみるにはどうしたら よいだろうか。 ひとつには超関数の理論を用いて不連続関数を微分する、という方法が あるが、ここではこの方程式 (17) の積分形を導き、それを 利用して考えてみることにする。

まず $0<t_1<t_2$, $a<b$ となるような $t_1$, $t_2$, $a$, $b$ を勝手に 取る。これに対して長方形領域

\begin{displaymath}
Q = \{(t,x);\ t_1\leq t\leq t_2, \ a\leq x \leq b\}
\end{displaymath}

で、方程式 (17) 全体を 2 重積分する。 合成関数の微分法則

\begin{displaymath}
g(u)_x = \frac{\partial g(u)}{\partial x} = \frac{d g(u)}{d u}\frac{\partial u}{\partial x} = g'(u)u_x
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
uu_x = \left(\frac{u^2}{2}\right)_x
\end{displaymath}

であること、および 2 重積分の公式

\begin{displaymath}
\int\hspace{-6pt}\int _Q g(t,x)\ dtdx
= \int_{t_1}^{t_2}\le...
...\} dt
= \int_a^b \left\{\int_{t_1}^{t_2} g(t,x)\ dt\right\} dx
\end{displaymath}

に注意する。これらを用いて積分を計算すると

\begin{eqnarray*}
\lefteqn{\int\hspace{-6pt}\int _Q u_t(t,x) dtdx} \\
& = & \...
...frac{u(t,b)^2}{2} dx
- \int_{t_1}^{t_2} \frac{u(t,a)^2}{2} dx
\end{eqnarray*}



となるので、結局次の式が成り立つ。
\begin{displaymath}
\int_a^b u(t_2,x) dx - \int_a^b u(t_1,x) dx
+ \int_{t_1}^{...
...c{u(t,b)^2}{2} dx
- \int_{t_1}^{t_2} \frac{u(t,a)^2}{2} dx =0\end{displaymath} (22)

この式にはもはや微分は含まれていない。しかも $u$ が微分可能な関数ならば (17) と、すべての $t_1$ ,$t_2$, $a$, $b$ に対して (22) を満たすこととは同値になる。 よって $u$ が不連続な関数の場合、すべての $t_1$ ,$t_2$, $a$, $b$ に対して (22) を満たすならば、その関数 $u$ は微分方程式 (17) の 弱解 (weak solution) である、ということにする。

弱解は、その関数が微分可能な部分では、普通の意味での解、つまり微分方程式 (17) を満たす関数である。よって弱解は普通の解よりも広い概念 である。この弱解の、不連続な部分での様子を見てみる。

今、$u=u(t,x)$ が弱解であり、そのグラフは $x=\phi(t)$ の上で不連続で その両側ではそれぞれ連続になっているとする。

図 15: 不連続な弱解
\includegraphics[width=\textwidth]{image/shock3d.eps}

つまり関数のグラフは、断層が走っているような図になるわけであるが、 この断層 $x=\phi(t)$ と不連続の段差との関係を調べてみる。

$t=t_0>0$ を一つ取り、$x_0=\phi(t_0)$ とする。また、$\Delta t$, $\Delta x$ を非常に小さい正の数とし、$\Delta t$$\Delta x$ に 比べて非常に小さいとする。このとき、上の長方形領域として

\begin{displaymath}
Q=\{(t,x);\ t_0\leq t\leq t_0+\Delta t,
\ x_0-\Delta x\leq x \leq x_0+\Delta x\}
\end{displaymath}

を取る。すなわち $t_1=t_0$, $t_2=t_0+\Delta t$, $a=x_0-\Delta x$, $b=x_0+\Delta x$ とする。

図 16: 領域 $Q$
\includegraphics{image/Q.eps}

$\Delta t$, $\Delta x$ が非常に小さいとすれば、この領域内の 断層の左側 $x<\phi(t)$ での $u$ の値は

\begin{displaymath}
u_{\ell} = u(t_0,x_0-0) = \lim_{x\rightarrow x_0-0} u(t_0,x)
\end{displaymath}

の値に非常に近い。同様に、断層の右側 $x>\phi(t)$ での $u$ の値は

\begin{displaymath}
u_r = u(t_0,x_0+0) = \lim_{x\rightarrow x_0+0} u(t_0,x)
\end{displaymath}

の値に非常に近い。 これらを考えると、(22) の各項に対して

\begin{eqnarray*}
\lefteqn{\int_a^b u(t_2,x) dx - \int_a^b u(t_1,x) dx}\\
& =...
...\ell}^2}{2} dt \\
& = & \frac{1}{2}(u_r^2-u_{\ell}^2)\Delta t
\end{eqnarray*}



のような近似式が成り立つので、(22) により

\begin{displaymath}
-u_r\Delta \phi + u_{\ell}\Delta \phi
+\frac{1}{2}(u_r^2-u_{\ell}^2)\Delta t \approx 0
\end{displaymath}

となり、

\begin{displaymath}
(u_r- u_{\ell})\frac{\Delta \phi}{\Delta t}
\approx\frac{1}{2}(u_r^2-u_{\ell}^2)
= \frac{1}{2}(u_r-u_{\ell})(u_r+u_{\ell})
\end{displaymath}

が成り立つが、$u_r-u_{\ell}$ は段差であるから仮定により 0 ではなく、 よって

\begin{displaymath}
\frac{\Delta \phi}{\Delta t} \approx\frac{u_r+u_{\ell}}{2}
\end{displaymath}

が成り立つ。ここで、 $\Delta t\rightarrow 0$ とすると、 この近似式は等式となり、 $\Delta\phi/\Delta t\rightarrow \phi'(t_0)$ だから、結局
\begin{displaymath}
\phi'(t_0)=\frac{u_r+u_{\ell}}{2}\end{displaymath} (23)

という関係式が成り立つこととなる。 弱解は不連続の所でこの関係式を満たす必要がある。この関係式を ランキン-ユゴニオ条件 (the Rankine-Hugoniot condition) と呼んでいる。

$\phi'(t_0)$$t=t_0$ での $x=\phi(t)$ の時間微分、 すなわち断層の進行速度を表しているので、(23) の式は、 それが $(u_r+u_{\ell})/2$, すなわち断層の両側の値の平均値に等しいことを 意味している。

特性曲線の進行速度は、方程式 (17) の $u_x$ の係数である $u$ に等しいから、この断層の進行速度は、断層の両側の特性曲線の進行速度 の平均になる、と考えることもできる。 このことから特性曲線と、断層の関係は以下の 2 つのいずれかであることが 分かる。

    $\displaystyle u_{\ell} < \phi'(t_0) < u_r$ (24)
    $\displaystyle u_{\ell} > \phi'(t_0) > u_r$ (25)

図 17: 断層と特性曲線 (左が (24), 右が (25) に対応)
\includegraphics[width=0.47\textwidth]{image/nonLax.eps} \includegraphics[width=0.47\textwidth]{image/Lax.eps}

しかし、元々この不連続な解は、特性曲線がぶつかることにより $u$ の値が 一つに決まらなくなることを解消するために導入されたものであるから、 (24) のような、特性曲線がぶつからないものは 不適切とみなし、このような場合はむしろ交わらない特性曲線による滑らか な解を採用することとするのが自然である。 すなわち、弱解に対して、その不連続な所では (25) の不等式が成り立つことを条件として課すこととする。 この条件を ラックス条件 (Lax's condition)、または エントロピー条件 (entropy condition) と呼んでいる。 そして、このエントロピー条件を満たす不連続な断層を 衝撃波 (shock wave) と呼ぶ。

衝撃波、エントロピー条件、ランキン-ユゴニオ条件といった用語は、 いずれも元々気体力学において用いられたものである。


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Shigeharu TAKENO
2001年 9月 21日