単独方程式で見たように、
実は必ずしもたくさんのエントロピーが必要なのではなく、
丁度良いエントロピーが一つでもあれば Young 測度を追いつめることが
できる可能性はある。
また、 でも例えば気体の方程式では自然なエントロピーが存在し、
それによって完全には Young 測度を決定できないかも知れないが
ある程度の性質を知ることができるのではないか、と考えている。
補完測度法は近似解の収束の証明に使われるが、 そこで使われる近似解は、Glimm の差分近似や波面追跡法のように 衝撃波を強く保持するようなものではなく、 人工粘性近似解や Lax-Friedrichs 型差分近似解のようにむしろ 衝撃波をなだらかにするようなものであるが、 例えば圧縮性 Navier-Stokes 方程式の解を圧縮性 Euler 方程式に対する 自然粘性近似解とみて、 その収束性を補完測度法で証明できないかと考えている。
この場合、通常の補完測度法でなく、 での補完測度法の方が
使いやすいだろうと思われるが、Euler 方程式に対する
-補完測度法での
Tartar 方程式に関する研究は現在のところほとんど行われていないようである。
例えば典型的な非線形振動
のような
(
) となるような弾性体の
方程式に対しては、それが持つ有界性は弱く (
)、
-補完測度法
(
) でも 間に合っていない。
しかし、
での議論は困難で、今のところ Young 測度についてしか
解決してはおらず、
-補完測度法をさらに
にまで
拡張することは難しいだろうと思われる。
現在一般のバロトロピックモデルの方程式
最近、その制約をゆるめた結果が相次いで報告された ([31,30]) が、まだかなり強い条件がついている ように思われる。
圧力項の形を一般にすると、エントロピーの性質があいまいになり、 それで Tartar 方程式を解くことが困難になり、 そのため通常は Tartar 方程式を解くために圧力項にある程度条件をつけ エントロピーが必要な性質を持つようにしているのであるが、 使用するエントロピーの数を少なくする、 あるいは具体的に式で表現できるようなエントロピーのみで Tartar 方程式を解く、といったことはできないだろうかと考えている。
DiPerna が使ったエントロピーは、Darboux の公式で書けるエントロピーで、
Chen, Makino, Lions, Perthame らもこの Darboux の公式を元にしている。
しかし、
DiPerna が後に指摘しているように ([47]) 必ずしも
たくさんのエントロピーは必要ではなく、少ないエントロピーでもある程度の
結果を導くことができる。
同様の考察は Chen,Lu ([48]) らによっても試みられている。
一方で一般の に対しても例えば
に関して多項式である
エントロピーは具体的な式で表現することができ、
これは
の次数に対して独立なものが一つずつ存在し
全部で可算個存在するので、
例えばこの可算個のエントロピーを組み合わせて
Tartar 方程式を解くことができれば、
圧力項に関する制限を多少は緩めることができるのではないだろうかと
考えている。
また、具体的な であっても、例えば Van der Waals 方程式の
ようなものについては、以前補完測度法に関する研究もされたようだが
(cf. [49])
取り扱いが困難でまだ成功には至っていないようである。
3 次元の気体の方程式を球対称とみて 1 次元化したものは原点で 特異性を持ち、そのままでは弱解を構成するのは難しく、 補完測度法では今のところその原点での特異性を外した問題しか解かれていない (Makino,Takeno [50], Chen,Glimm [51])。 原点の特異性の部分を考慮した新たな近似解 (例えば差分近似解) を構成して、 補完測度法を適用できないかと考えている。
なお補完測度法で解ける方程式を増やす、という方向のほかにも、 Tartar 方程式が解かれている方程式に対して、 初期値境界値問題や、外力項や履歴項、別な方程式などが追加された方程式、 周期解の存在などへの補完測度法の応用なども行われていて、 そちらの方向での興味深い話題や未解決問題なども色々ある。 これらについてはここでは省略し、 やや情報が古いが [66] を紹介するにとどめることとする。