4 不変領域

Riemann 不変量 $w$, $z$ に対して、後で「不変領域」として使用する 次のような領域を考える。
  $\displaystyle
\Sigma(w_0,z_0) = \{U;\ w(U)\leq w_0,\ z(U)\geq z_0\}$ (14)
なお、本稿ではこの $w_0$, $z_0$ は、 ある $U_0$ に対して $w_0=w(U_0)$, $z_0=z(U_0)$ であるもののみを考える。 $G(+\infty)=\infty$ であれば任意の $w_0$, $z_0$ ($w_0>z_0$) に 対してそのような $U_0$ が常にみつかるが、 $G(+\infty)<\infty$ の場合はそうとは限らないことに注意せよ (本稿では、$P$ に関する条件として $G(+\infty)=\infty$ は仮定していない)。

領域 $\Sigma (w_0,z_0)$$U$ が入る条件は、$\rho$, $u$ で考えると

\begin{displaymath}
u+G(\rho)\leq w_0 = u_0 + G(\rho_0),
\hspace{1zw}u-G(\rho)\geq z_0 = u_0 - G(\rho_0)
\end{displaymath}

という不等式となり、これは

\begin{displaymath}
\vert u-u_0\vert\leq G(\rho_0)-G(\rho)
\end{displaymath}

と書ける。 $G'(\rho)=C(\rho)/\rho>0$ ($\rho>0$) なので、 この不等式は $0\leq\rho\leq\rho_0$ の範囲のみで意味を持ち、 よって (14) は
  $\displaystyle
\Sigma(w_0,z_0) = \{U;\ \vert u-u_0\vert\leq G(\rho_0)-G(\rho),
\ 0\leq\rho\leq\rho_0\}$ (15)
と書くこともできる。 この領域は、$(w,z)$, $(\rho ,u)$, $(\rho ,m)$ の座標軸では、それぞれ 図 1$\sim$3 のように なる (厳密な図ではなく、おおよその図)。

図 1: $(w,z)$ 座標での $\Sigma (w_0,z_0)$
\includegraphics[width=0.9\textwidth]{Sigma-wz.eps}
図 2: $(\rho ,u)$ 座標での $\Sigma (w_0,z_0)$
\includegraphics[width=0.9\textwidth]{Sigma-rhou.eps}
図 3: $(\rho ,m)$ 座標での $\Sigma (w_0,z_0)$
\includegraphics[width=0.9\textwidth]{Sigma-rhom.eps}
これらの図からもわかるが、 $(w,z)$, $(\rho ,u)$ 座標系での $w=z$、すなわち $\rho=0$ 上の線分は、 本来の $U$ である $(\rho ,m)$ 座標系では原点 1 点に対応することに 注意する。

今、この領域 $\Sigma (w_0,z_0)$ での固有値の絶対値の上限を、 $\Lambda(w_0,z_0)$ と書くことにする:

  $\displaystyle
\Lambda(w_0,z_0) = \sup\{\vert\lambda_j(U)\vert;\ j=1,2,\ U\in\Sigma(w_0,z_0)\}$ (16)
(15) より、 $\Sigma (w_0,z_0)$ での $\max\{\vert\lambda_1(U)\vert,\vert\lambda_2(U)\vert\}=\vert u\vert+C(\rho)$ の最大値は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\max\{u_0+G(\rho_0)-G(\rho)+C(\rho),
-u_0+G(\rho_0)-G(\rho)+C(\rho)\}}
\\ &=&
\vert u_0\vert+G(\rho_0)+C(\rho)-G(\rho)\end{eqnarray*}

$0\leq\rho\leq\rho_0$ での最大値に等しく、 よって $\Lambda(w_0,z_0)$
  $\displaystyle
\Lambda(w_0,z_0)
= \vert u_0\vert+G(\rho_0)+\sup\{C(\rho)-G(\rho);\ 0\leq\rho\leq\rho_0\}$ (17)
となることがわかる。例えば $P=A\rho^\gamma$, $\gamma>1$ (等エントロピー) の場合は、

\begin{displaymath}
C(\rho) = \alpha\rho^\theta,
\hspace{1zw}G(\rho)=\frac{\alph...
...=\sqrt{A\gamma},\hspace{0.5zw}\theta=\frac{\gamma-1}{2}\right)
\end{displaymath}

なので、$\gamma\leq 3$ ならば $0<\theta\leq 1$ より

\begin{displaymath}
C(\rho)-G(\rho) = -\alpha\frac{1-\theta}{\theta}\rho^\theta\leq 0
\end{displaymath}

となり、よって
  $\displaystyle
\Lambda(w_0,z_0) = \vert u_0\vert+G(\rho_0) = \max\{w_0,-z_0\}$ (18)
に等しい。また、$\gamma>3$ ならば $\theta>1$ より

\begin{displaymath}
C(\rho)-G(\rho) = \alpha\frac{\theta-1}{\theta}\rho^\theta
\in [0,C(\rho_0)-G(\rho_0)]
\end{displaymath}

なので、
  $\displaystyle
\Lambda(w_0,z_0) = \vert u_0\vert+C(\rho_0) = \max\{-\lambda_1(U_0),\lambda_2(U_0)\}$ (19)
となる。しかし、一般には $(C-G)$ は単調とは限らず、 よって、(17) は (18), (19) のような易しい式 になるとは限らない。

最後に、6 節で利用する以下の性質を示しておく。


命題 1

$\Sigma (w_0,z_0)$ は、$(\rho ,m)$ の座標系では凸図形、すなわち、
  $\displaystyle
\Sigma(w_0,z_0)
= \{U;\ f_1(\rho)\leq m\leq f_2(\rho),\ 0\leq\rho\leq\rho_0\}
$ (20)
で、$f_1(\rho)$ は下に凸、$f_2(\rho)$ は上に凸。
証明

$m=f_2(\rho)$$w(U)=w_0$ なので、

\begin{displaymath}
f_2(\rho) = \rho u = \rho(w_0-G(\rho))
\end{displaymath}

となり、その導関数は

\begin{eqnarray*}\frac{d m}{d\rho}
&=&
w_0 - (\rho G(\rho))'
=
w_0 - (G(\rho) + C(\rho))
=
w_0 - H(\rho)
\end{eqnarray*}

となる。よって、(6) により $d^2 m/d\rho^2\leq 0$ だから この曲線は上に凸となる。 $m=f_1(\rho)$$z(U)=z_0$ なので、

\begin{displaymath}
f_1(\rho) = \rho u = \rho(z_0 + G(\rho))
\end{displaymath}

だから、上と同様にして下に凸であることがわかる。


竹野茂治@新潟工科大学
2020-02-28