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8 根号内が完全平方になる場合

7 節で述べたように、 一般には (17) を簡単な式で表すことはできないが、 根号の中が完全平方式である場合は簡単に計算できる式になる。 この節では、まずその条件を考えてみることにする。

式 (17) の完全平方性を考える場合、以下の 2 つの考え方がある。

しかし容易に分かるようにこの両者は同等である (一方が成り立てば他方も成り立つ) ので、 どちらか一方のみを考えれば良い。 いずれにしても恒等式を考えるわけだが、前者は関数

\begin{displaymath}
1,\cos\theta,\sin\theta,\cos2\theta,\sin2\theta
\end{displaymath}

の一次独立性を、後者は

\begin{displaymath}
1,t,t^2,t^3,t^4
\end{displaymath}

の一次独立性を用いて両辺の係数比較を行なうことになる。 今回は前者の三角関数を使った計算で考えることにする。

まず、

$\displaystyle {h^2(a^2\sin^2\theta+b^2\cos^2\theta)
+(ab-pb\cos\theta-qa\sin\theta)^2}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (A+B\cos\theta+C\sin\theta)^2$ (21)

と置いて両辺を展開して整理する。倍角の公式を用いると

\begin{eqnarray*}\mbox{左辺}&=&
h^2(a^2\sin^2\theta+b^2\cos^2\theta)
+(a^2b^2-...
...in\theta
+\frac{1}{2}(B^2-C^2)\cos2\theta\\
&&
+BC\sin2\theta\end{eqnarray*}

となるので、係数比較して次の式を得る。
$\displaystyle 2A^2+B^2+C^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle 2a^2b^2+b^2(h^2+p^2)+a^2(h^2+q^2)$ (22)
$\displaystyle AB$ $\textstyle =$ $\displaystyle -ab^2p$ (23)
$\displaystyle AC$ $\textstyle =$ $\displaystyle -a^2bq$ (24)
$\displaystyle B^2-C^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle b^2(h^2+p^2)-a^2(h^2+q^2)$ (25)
$\displaystyle BC$ $\textstyle =$ $\displaystyle abpq$ (26)

$p\geq0$, $q\geq0$, $h>0$, $a>0$, $b>0$ として、 これらの式が成り立つ (つまり完全平方になる) ために $a,b,h,p,q$ が満たす条件を求め、そのときの $A,B,C$ を求めることが目標である。

まず、(21) より、$A\geq 0$ として構わないことに注意する。 $A<0$ の場合は $A,B,C$ をすべて $(-1)$ 倍すれば同じことになる。

(23)$\times$(24)$\times$(26) より

\begin{displaymath}
A^2B^2C^2 = a^4b^4p^2q^2
\end{displaymath}

となるので、もし $pq\neq 0$ ならば、(26) より $BC\neq 0$ なので、この式を (26) の 2 乗で割ると $A^2=a^2b^2$, よって $A\geq 0$ より $A=ab$ を得る。よって $A>0$ なので、 (23), (24) より

\begin{displaymath}
B=-bp,\hspace{1zw}C=-aq
\end{displaymath}

となる。しかし、これらを (22) に代入すると、

\begin{eqnarray*}&& 2a^2b^2+b^2p^2+a^2q^2 = 2a^2b^2+b^2(h^2+p^2)+a^2(h^2+q^2),\\
&& h^2(b^2+a^2)=0\end{eqnarray*}

となるが、これは $h>0$, $a>0$, $b>0$ に矛盾する。 よって、$pq\neq 0$ のときは完全平方にはなりえないことが分かる。

今度は $q=0$ とすると、(24), (26) より $AC=0$, $BC=0$ なので、もし $C\neq 0$ ならば $A=B=0$ となり、 (23) より $p=0$ となる。ところがこの場合も (22)$+$(25) を考えると、

\begin{displaymath}
0=2a^2b^2+2b^2h^2
\end{displaymath}

となり、これも $h>0$, $a>0$, $b>0$ に矛盾するので、 $C=0$ でなければならない。 $q=0$, $C=0$ を (22), (25) に代入すると

\begin{eqnarray*}2A^2+B^2 &=& 2a^2b^2+b^2(h^2+p^2)+a^2h^2,\\
B^2 &=& b^2(h^2+p^2)-a^2h^2\end{eqnarray*}

より、
\begin{displaymath}
A^2 = a^2(b^2+h^2)\end{displaymath} (27)

となる。この $A^2$$B^2$ を (23) の 2 乗に代入したものが 完全平方のための条件となる。代入して展開、整理すると
$\displaystyle A^2B^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle a^2b^4p^2$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle a^2(b^2+h^2)(b^2h^2+b^2p^2-a^2h^2),$  
$\displaystyle b^4p^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle b^4h^2+b^4p^2-a^2b^2h^2+b^2h^4+b^2h^2p^2-a^2h^4,$  
$\displaystyle 0$ $\textstyle =$ $\displaystyle b^4-a^2b^2+b^2h^2+b^2p^2-a^2h^2,$  
$\displaystyle b^2p^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle a^2b^2+a^2h^2-b^2h^2-b^4$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle (b^2+h^2)(a^2-b^2)$ (28)

となる。 この最後の式は $q=0$ と合わせて、4 節で求めた、 この図形が直円錐の一部となる条件 (16) ($a\geq b$) に等しい。 $p=0$ としたときも同様に $a\leq b$ のときの直円錐の一部になる条件が 得られる。

さて、このとき $A$ は (27) より $A=a\sqrt{b^2+h^2}$ ($A\geq 0$) であり、 $B$ は (23) と (28) より、 $a>b$, $p>0$ のときは ($a=b$, $p=0$ のときは単なる直円錐になる)、

\begin{displaymath}
B=-\frac{ab^2p}{A}=-\frac{b^2p}{\sqrt{b^2+h^2}}
=-b\sqrt{a^2-b^2}
\end{displaymath}

となるので、(21) の右辺のカッコの中は
\begin{displaymath}
A+B\cos\theta = a\sqrt{b^2+h^2}-b\sqrt{a^2-b^2}\cos\theta
...
...t(\frac{a}{b}\sqrt{\frac{b^2+h^2}{a^2-b^2}}
-\cos\theta\right)\end{displaymath} (29)

となる。ここで、 $a>\sqrt{a^2-b^2}$, $\sqrt{b^2+h^2}>b$ なので、

\begin{displaymath}
\frac{a}{b}\sqrt{\frac{b^2+h^2}{a^2-b^2}}>1
\end{displaymath}

となり、(29) は正の値となる。

結局この場合は、公式 (17) は

\begin{displaymath}
S=\frac{1}{2}\int_0^{2\pi}
b\sqrt{a^2-b^2}\left(\frac{a}{b}\sqrt{\frac{b^2+h^2}{a^2-b^2}}
-\cos\theta\right)\, d\theta
\end{displaymath}

となるので、これを計算すれば

\begin{displaymath}
S=\frac{1}{2}\times 2\pi\times b\sqrt{a^2-b^2}
\times\frac{a}{b}\sqrt{\frac{b^2+h^2}{a^2-b^2}}
=\pi a\sqrt{b^2+h^2}
\end{displaymath}

となる。 この最後の式は、通常の直円錐の場合の公式 (1) に よく似た式となっているが、 つまり直円錐の一部の場合には綺麗な性質が成り立つ、ということを意味する。

以上をまとめると、4 節で考察したように、 この図形が直円錐の一部になる場合には、

となることになる。

この、直円錐の一部になる場合以外にも $S$ が楕円積分にならない場合があるかも知れないが、 それは今のところは不明である。


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Shigeharu TAKENO 2005年 2月 28日