この、恒等式から方程式の本数を増やす、という手順には、 関数が微分可能である場合は、 「微分」によって増やすという方法もあり、 その場合の係数行列の行列式が、本節で考える「ロンスキー行列式」である。
区間 上の関数
が
回
微分可能であるとき、行列式
今
とする。当然、(2) は定義域
例えば、「2 次方程式」 は、
という 2 点でのみ
成立する式なので、この両辺を微分した
をその
が
満たすことはない。
それは、導関数の定義には極限が用いられているためであり、
微分ができるためには、考えている 1 点だけ
でなく、
の周辺でも式が成立していなければいけないからである。
そのため、離散的な 2 点でしか成立しない 2 次方程式を微分する
ことはできない。
の境界以外の
には
に含まれる
の周囲の点もあり、
恒等式ならばその周囲の
の点でも等式が成立するので、
両辺を微分しても等式がそのまま成立し、その式もまた恒等式となる、
ということになる。
より詳しく言えば、(2) で を
(
は十分小) と変えても
ならば (2) は成立し、
そして が
回まで微分可能であれば、(3) を
繰り返し微分することで以下の
本の連立方程式を得ることができる。
ただ、この定理 5 についてネットでも見受けられた 誤解しやすい点を 2 点指摘する。
まず [a] であるが、
(6) は、あくまで
の
方程式であり、それが 0 に等しくなるためには、方程式の
はなんでもよく、
例えば、もし
で
であれば、それで
が言え、一次独立であることがいえる。
つまり、一次独立であるためには、
となる
が、
の境界以外にひとつでもあればよい。
ネットでは、「 を計算したら、
以外では 0 にならないから
一次独立だが、
では
となってしまうが、そこでは
一次独立ではないのでは」などという質問が見受けられたが、
そういうことではない。すべての
で
である必要は
全くなく、一点でも
となる点があれば、
それで一次独立であることがいえる。
次に [b] であるが、
「少なくとも一つの点で 」の否定は
「すべての
で
」、すなわち「
が恒等的に 0」
であるが、[b] はそれに関係する誤解と思われる。
言えるのはあくまで「少なくとも一つの点で
ならば、一次独立」
であり、定理 5 の対偶も成立するがそれは、
「一次従属ならば、すべての
で
」であり、この逆の
「すべての
で
ならば、一次従属」は一般には成立しない。
その反例も作れるが、それについては 6 節で紹介する。
なお、工学の教科書でこのロンスキー行列式が登場するのは、
主に高階線形の常微分方程式の一般論の箇所であり、
例えば一つの微分方程式の解が作るベクトル空間の解の
一次独立性の判定に、このロンスキー行列式が用いられる。
その「一つの高階線形斉次常微分方程式の解である関数群
」という限定された条件下では、
ロンスキー行列式についても、一般的な性質よりもかなり
強いことが言えてしまうため、
その命題を一般的なロンスキー行列式の性質だと覚えてしまった場合も
[a],[b] のような誤解が起きてしまうことになる。
ちなみに、常微分方程式の解に対して成立してしまう強い性質とは
以下のようなものである。
この性質からもわかるが、ロンスキー行列式の線形微分方程式での 役割はかなり重要で、さらにこの一次独立性の判定以外にも、 解の表現にも使われている。
竹野茂治@新潟工科大学