1 はじめに

[1] の 13 章に、つり下げられた糸の自由振動として、 次のような方程式が書かれている ($u=u(t,x)\in R$)。
    $\displaystyle u_{tt}-(xu_x)_x=0\hspace{1zw}(t>0, 0<x<L)$ (1)
    $\displaystyle u(0,x)=f(x),\hspace{1zw}u_t(0,x)=F(x)\hspace{1zw}(0<x<L)$ (2)
    $\displaystyle u(t,L)=0\hspace{1zw}(t>0)$ (3)

これは、横軸が $u$、縦軸が $x$ 軸の $(u,x)$ 平面の、 $(u,x)=(0,L)$ の位置から長さ $L$ の糸をたらしたときの 糸の微小な振動の運動方程式で、 $u=u(t,x)$ は、高さ $x$ での糸の横方向の変位を表している。

なお、元の [1] とは少し記号を変えているし、 また [1] には $u_{tt}$ の前に定数がついているのであるが、 簡単のためここではそれは 1 とした。$t$ のスケール変換を行えば、 そのようにしてよいことは容易に確認できる。

この方程式 (1) は 2 階の線形偏微分方程式で、 その主要部は

\begin{displaymath}
u_{tt}-xu_{xx}\end{displaymath} (4)

であるから、$0<x<L$ では双曲型の方程式であり、 よって通常なら (1) の方程式の境界条件 (3) はこれだけでは足りず、 もう一方の境界 $x=0$ でも境界条件を 1 つ与える必要があるように見える (2 節参照)。

しかし、境界 $x=0$ はこの方程式の特性方向になっていて (特性境界)、 しかも $x=0$ では双曲性が退化しているので、 通常の双曲型方程式とは状況はだいぶ異なる。

本稿では、(1) をやや一般化した方程式

\begin{displaymath}
u_{tt}-(xu_{xx}+\mu u_x)=0\hspace{1zw}(t>0, 0<x<L)\end{displaymath} (5)

に対して、 その境界条件が (3) で足りるのか、 それとも $x=0$ での境界条件
\begin{displaymath}
u(t,0)=p(t)\hspace{1zw}(t>0)\end{displaymath} (6)

も必要であるのかについて、 [1] の手法、及び数値計算によって考察する。 (1) は (5) の $\mu =1$ の場合になっているが、 それについては 3 節、5 節で考察する。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年6月22日