6 アーベルの問題

(2017 年 3 月 22 日追加)

ここまで考察してきた「等時降下曲線」の問題を発展させた 「アーベルの問題」というものがあることを知ったので ([2] 13.4 節)、それもついでに紹介する。 これは、2 節の設定に対し、

$0<y<H$ で正の値を取る関数 $\xi(y)$ を与えたときに、 OA の経路の中の、高さ y の地点から O までに滑り落ちる時間が $\xi(y)$ に等しくなるような曲線 $y=f(x)$ を求めよ」
という問題のことであるらしい。 等時降下曲線は、$\xi(y)=定数$ の場合であるから アーベルの問題に含まれることになる。

この問題は、(4) より、

\begin{displaymath}
\xi(y) = \frac{1}{\sqrt{2g}}\int_0^y
\sqrt{\frac{1+(p'(z))^2}{y-z}}\,dz\end{displaymath} (12)

となるような $x=p(y)$ ($y=f(x)$ の逆関数) を求めることになる。 そして、(6) から (8) までと同等の 計算により、
\begin{displaymath}
\int_0^t G(y) dy
= \frac{\sqrt{2g}}{\pi}
\int_0^t \frac{\xi(y)}{\sqrt{t-y}}\,dy
\end{displaymath}

から、
\begin{displaymath}
G(y)
= \sqrt{1+(p'(y))^2}
= \frac{\sqrt{2g}}{\pi}\,\frac{d}{dy}\int_0^y
\frac{\xi(h)}{\sqrt{y-h}}\,dh\end{displaymath} (13)

となるので、この $G(y)$ が求まれば
\begin{displaymath}
p'(y) = \sqrt{G(y)^2-1}
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
p(y) = \int_0^y\sqrt{G(y)^2-1}\,dy\end{displaymath} (14)

$p(y)$ が求まることになる。なお、(13) より
\begin{displaymath}
G(y) \geq 1\end{displaymath} (15)

である必要があるので、$\xi(y)$ はなんでもよいわけではない。

いくつか具体例を紹介する。 まず、等時の問題 $\xi(y) = c_1$ の場合には、

\begin{displaymath}
G(y)
= \frac{\sqrt{2g}}{\pi}\left(\int_0^y\frac{c_1dh}{\sqr...
...\sqrt{2g}}{\pi}(2\sqrt{y})'
= \frac{c_1\sqrt{2g}}{\pi\sqrt{y}}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
p(y) = \int_0^y\sqrt{\frac{2gc_1^2}{\pi^2y}-1}\,dy
\end{displaymath}

となり、(9) と同じ形になって確かにサイクロイドになる。

また、 $\xi(y) = c_1\sqrt{y}$ の場合は、

\begin{eqnarray*}G(y)
&=&
\frac{\sqrt{2g}}{\pi}\left(\int_0^y\frac{c_1\sqrt{h...
...left(\frac{3}{2},\frac{1}{2}\right)
\ =\
c_1\sqrt{\frac{g}{2}}\end{eqnarray*}


となるので、 $c_1\geq \sqrt{2/g}$ のときに $p(y)=(gc_1^2/2-1)y$ となる。 $p(H)=L$ を課すことにすれば、$p(y)=Ly/H$ となり、$c_1$
\begin{displaymath}
c_1 = \sqrt{\frac{2}{g}\left(1+\frac{L}{H}\right)}
\end{displaymath}

のように $H$, $L$ によって一意に決定する。 すなわち $p(H)=L$ を課すと、$\xi(y)$ の定数 $c_1$ も それによって決まってしまい、アーベルの問題が解けるための $\xi(y)$ の自由度は高くないことがわかる。

一方、$\xi(y)=c_1y$ の場合は、

\begin{displaymath}
\int_0^y\frac{h\,dh}{\sqrt{y-h}}
= y^{3/2}\int_0^1\frac{tdt}...
...-t}}
= B\left(2,\frac{1}{2}\right)y^{3/2}
= \frac{4}{3}y^{3/2}
\end{displaymath}

より $Q(y) = 2c_1\sqrt{y}$ となるので、$y=0$ の近くでは条件 (15) を満たすことができない。 よって、この場合は $y=0$ の近くまで含めた解は存在しないことになる。

一般に $\xi(y)=c_1y^p$ ($p>0$) の場合は、$p>1/2$ だと $y=0$ の近くでは条件 (15) を満たさず、 $0\leq p\leq 1/2$ の場合に

\begin{displaymath}
Q(y) = c_2y^{p-1/2}
\hspace{1zw}\left(c_2 = c_1\left(p+\frac{1}{2}\right)B\left(p+1,\frac{1}{2}\right)
\right)
\end{displaymath}

となり、よって $c_2\geq H^{1/2-p}$ のときに
\begin{displaymath}
p(y) = \int_0^y\sqrt{c_2^2h^{2p-1}-1}\,dh
\end{displaymath}

により $p(y)$ が求まることになる。$p(H)=L$ を課せば、 $c_2$ はやはり $H$, $L$ により一意に決まることになるだろう。

なお、$\xi(y)$ は必ずしも単調でなくてもよい。例えば、 $\xi(y) = c_1 \sqrt{y}(2H-y)$ とするとこれは単調ではなく $y=2H/3$ で極大を持つ関数で、そして、

\begin{displaymath}
\int_0^y \frac{\sqrt{h}(2H-h)dh}{\sqrt{y-h}}
=\int_0^1 \frac...
...},\frac{1}{2}\right)
-y^2B\left(\frac{5}{2},\frac{1}{2}\right)
\end{displaymath}

となるが、
\begin{displaymath}
B\left(\frac{3}{2},\frac{1}{2}\right)
=\frac{\Gamma(3/2)\Gam...
...t)
=\frac{\Gamma(5/2)\Gamma(1/2)}{\Gamma(3)}
= \frac{3\pi}{8}
\end{displaymath}

なので、よって
\begin{displaymath}
Q(y)
= c_1\sqrt{2g}\left(Hy-\frac{3}{8}\,y^2\right)'
= c_1\sqrt{2g}\left(H-\frac{3y}{4}\right)
\end{displaymath}

となる。$0<y<H$ では
\begin{displaymath}
Q(y)\geq Q(H) = \frac{c_1\sqrt{2g}}{4}\,H
\end{displaymath}

なので、この場合条件 (15) は $c_1\geq 4/(\sqrt{2g}H)$ となり、この条件のもと
\begin{displaymath}
p(y) = \int_0^y \sqrt{2gc_1^2(H-3h/4)^2-1}\,dh
\end{displaymath}

で求まることになる。この積分は、
\begin{displaymath}
\int\sqrt{x^2-1}\,dx = \frac{1}{2}\,x\sqrt{x^2-1}+\log\vert x+\sqrt{x^2-1}\vert+C
\end{displaymath}

を使えば計算できなくはないが、煩雑になるので省略する。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年3月22日