5 一意可解性

最後に、一意可解性について述べておく。

最速降下線問題の場合 ([1]) は、 出発点は逆さサイクロイドの最高点 (傾きが無限大のところ) なので、 $L$ が大きい場合の $x$ 軸の下にもぐりこむ解を含めて、 すべての $L$, $H$ ($L>0$, $H>0$) に対して一つの最適解が求まったが、 この等時降下曲線の方は出発点 A は必ずしも逆さサイクロイドの最高点ではなく、 むしろ終点 O が最下点 (傾きが 0 のところ) と固定されるので、 解が求まらない場合もある。

より具体的には、境界条件は $p(0)=0$, $p(H)=L$ であるから、 $p(H)=c_0^2F(H/c_0^2)=L$ とならなければいけないので、 これを満たす $c_0$、すなわち、

\begin{displaymath}
L = \gamma(\theta + \sin\theta),
\hspace{1zw}
H = \gamma(1-\cos\theta)
\hspace{1zw}
(0<\theta\leq\pi)\end{displaymath} (11)

となるような $\gamma$ ($>0$), $\theta$ が存在する必要がある ( $\gamma=c_0^2/2$)。

単純に考えて、この逆さサイクロイド曲線の右半分では、 $y/x \leq 2/\pi$ なので、 $H/L\leq 2/\pi$ ならば解が求まるが $H/L>2/\pi$ の場合は解がないだろうと予想される。

今、 $H/L=(1-\cos\theta)/(\theta+\sin\theta)=\tau(\theta)$ とすると、

\begin{displaymath}
\tau'(\theta)
=
\frac{\sin\theta(\theta+\sin\theta)-(1-\cos\...
...eta)^2}
=
\frac{\theta\sin\theta}{(\theta+\sin\theta)^2}\ > 0
\end{displaymath}

となるので、$\tau(\theta)$$0<\theta<\pi$ で増加関数で、 $\theta=+0$ では $1-\cos\theta=O(\theta^2)$, $\theta+\sin\theta = O(\theta)$ なので $\tau(+0)=0$ であり、 $\tau(\pi)=2/\pi$ であるから、 よって確かに $H/L\leq 2\pi$ ならば (11) を満たす $\theta$ が 一意的に存在することが言える。そこから $\gamma$ も求まる。

逆に、$H/L>2/\pi$ の場合は (11) の解がないので、 滑らなかな等時降下曲線 (サイクロイド) で O と A を結ぶことはできず、 A から降ろした逆さサイクロイドは原点まで届かない。 A を通り、$y$ 軸上で最下点 (B とする)、すなわち傾きが 0 となるような 逆さサイクロイドは一意には決まらないが、 その B の $y$ 座標は $H-2L/\pi$ 以上となる。

しかしあえて言えば、この場合は B から原点 O まで 落し穴を掘ってまっすぐ真下に落ちる道を作って、 そのサイクロイドと落し穴道をつないだものが 解らしきものになるといえなくもない (図 3)。

図 3: 落し穴つき解
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{fig-cyc2-hole.eps}
AB の間は逆さサイクロイドなので どこからスタートしても同じ時間で B までくるし、 落し穴 BO を落ちる時間を考えると、 逆さサイクロイドの高いところからすべってきた場合は当然 B での 速度は大きいのであるが、B では逆さサイクロイドは水平なので B での $y$ 方向の速度成分は 0 だから、 BO を落ちる時間はすべて同じになるはずだからである。

しかし、厳密に言えばこの曲線では AB 間をスタートした場合は等時降下性を満たすが、 BO 間をスタートした場合は等時降下性を満たさないので、 やはりこの落し穴つきの解は元の問題の解とは言えないだろう。

なお、A を通って $y$ 軸で最下点になる 逆さサイクロイドの中で $y$ 軸に最も早く達するのは、 $A$ で傾きが無限大になるもので、 しかもその場合 B の $y$ 座標が最も小さくなる ($=H-2L/\pi$)。 これが BO の通過時間を合わせても一番早く落ちてくる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年3月22日