11 初速度が正の場合

次は、初速度が 0 ではない場合を考える。 少し勢いをつけて斜面に投げるようなイメージである。 この場合は、元の式 (1)$\sim$(5) の うち、(4) が、
\begin{displaymath}
v(0)=\sqrt{(\dot{x}(0))^2+(\dot{y}(0))^2}=v_0\hspace{0.5zw}(>0)\end{displaymath} (71)

に変わるが、それにより (10) が、
\begin{displaymath}
\frac{1}{2}\{(\dot{x})^2+(\dot{y})^2\}+gy=\frac{1}{2}\,v_0^2 + gH\end{displaymath} (72)

に変わるので、(11) は
\begin{displaymath}
T = \int_0^L\sqrt{\frac{1+(f')^2}{2g(H-f) + v_0^2}}\,dx\end{displaymath} (73)

となる。この場合は、オイラー方程式 (19) は、
\begin{displaymath}
(1+(f')^2)\left(H-f+\frac{v_0^2}{2g}\right)=c_0\end{displaymath} (74)

となるので、 $H-f+v_0^2/(2g)=h$ とすれば (20) と 同じ方程式
\begin{displaymath}
(1+(h')^2)h=c_0\end{displaymath}

が得られる。この場合、 $h(0)=H-f(0)+v_0^2/(2g)=v_0^2/(2g)$ となるので、 (22) は、
\begin{displaymath}
\int_{h(0)}^h\sqrt{\frac{h}{c_0-h}}\,dh = x
\end{displaymath}

となり、
\begin{displaymath}
d_0
= \int_0^{h(0)}\sqrt{\frac{h}{c_0-h}}\,dh
= \frac{c_0}{2}(\theta_5-\sin\theta_5)\end{displaymath} (75)

とすれば
\begin{displaymath}
\int_0^h\sqrt{\frac{h}{c_0-h}}\,dh = x + d_0
\end{displaymath}

となり、よって、
\begin{displaymath}
h = \frac{c_0}{2}(1-\cos\theta),
\hspace{1zw}x+d_0 = \frac...
...theta-\sin\theta),
\hspace{1zw}f(x) = H - h + \frac{v_0^2}{2g}\end{displaymath} (76)

となる。これは、前の逆さサイクロイドを $x$ 方向に $-d_0$ 平行移動したものになっている。

$\hat{H} = H + v_0^2/(2g)$ とすると、

\begin{displaymath}
\frac{m}{2}\,v_0^2 + mgH = mg\hat{H}
\end{displaymath}

となるので、(76) より、 これは曲線を負の方に少し伸ばして $(x,y)=(-d_0,\hat{H})$ から 速度 0 でスタートして、$x=0$ の場所で速さが $v_0$ になったものと同じ 状況になっていることがわかる。 また、この解は $x=0$ では $f'(+0)=-\infty$ ではなく、 有限な傾きになっている (図 9)。
図 9: $\alpha _0$, $d_0$ の条件
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-init-v0-d0.eps}

次に、この解が一つに決まるかを考えてみよう。 すなわち、与えられた $H$, $L$, $v_0$ に対して、

\begin{displaymath}
f(x) = H + \frac{v_0^2}{2g}
- \alpha_0\mathrm{cyc}\left(\frac{x+d_0}{\alpha_0}\right) \end{displaymath} (77)

となる $\alpha_0>0$, $d_0>0$ が一意に存在するか どうかを調べてみる。実際には、 (77) の $x=0$$x=L$ で境界条件 (5) を満たすことが $\alpha _0$, $d_0$ の条件なので、
\begin{displaymath}
\frac{v_0^2}{2g} = \alpha_0\mathrm{cyc}\left(\frac{d_0}{\al...
...{2g} = \alpha_0\mathrm{cyc}\left(\frac{L+d_0}{\alpha_0}\right) \end{displaymath} (78)

となる $\alpha _0$, $d_0$ が一意に存在するかどうかを考えればよい (図 10)。
図 10: $\alpha _0$, $d_0$ の条件
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-init-h-d0.eps}

(78) を 2 つのパラメータを用いて

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{v_0^2}{2g} = ...
...
L + d_0 = \alpha_0(\theta_7-\sin\theta_7)
\end{array}\right.\end{displaymath} (79)

と表し、それを 4 未知数 $\alpha _0$, $d_0$, $\theta_6$, $\theta_7$ の 4 本の方程式と考え、逆関数定理を用いて解の存在を示す、 という方針もあるが、 ここでは、別の形で (78) の解を 考えていくことにする。

まず、$\alpha _0$ は、サイクロイドが $\hat{H}$ まで達しなければ いけないので、

\begin{displaymath}
2\alpha_0\geq \hat{H} = H + \frac{v_0^2}{2g}\end{displaymath} (80)

である必要がある。 このとき、サイクロイド $y=\alpha_0\mathrm{cyc}(x/\alpha_0)$ ( $0\leq x\leq 2\pi$) と 水平線 $y=v_0^2/(2g)$, $y=\hat{H}$ との交点の $x$ 座標を、 小さい方から順に $x_1(\alpha_0)$, $x_2(\alpha_0)$, $x_3(\alpha_0$), $x_4(\alpha_0)$ とすると (図 11)、
図 11: $x_j(\alpha _0)$
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-init-xj.eps}

サイクロイドは $\alpha_0\pi$ で左右に対称なので、

\begin{displaymath}
\alpha_0\pi \leq x_3(\alpha_0)=2\alpha_0\pi-x_2(\alpha_0)
<x_4(\alpha_0)=2\alpha_0\pi-x_1(\alpha_0)
<2\alpha_0\pi
\end{displaymath}

となり、 $\alpha_0=\hat{H}/2$ のときは、 そしてそのときだけ $x_2(\hat{H}/2)=x_3(\hat{H}/2)=\pi\hat{H}/2$ となる。 そして、満たすべき条件 (78) は、 $x_1(\alpha_0)=d_0$$x_2(\alpha_0)$$x_3(\alpha_0)$ のいずれかが $L+d_0$ となればよいので、結局任意の $H>0$, $L>0$, $v_0>0$ に対して、
\begin{displaymath}
x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)=L,
\hspace{1zw}\mbox{または}\hspace{1zw}
x_3(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)=L\end{displaymath} (81)

となるような $\alpha _0$ が存在すること、と同じことになる。 そのような $\alpha _0$ が取れれば、 $d_0$ $d_0=x_1(\alpha_0)$ とすればよい。 よって、(81) を満たす $\alpha _0$ が ただ一つ存在することを示せばよいが、 それは $x_1(\alpha_0)$$x_2(\alpha_0)$ の増減を調べればよく、 一意存在のためには以下のことが言えればよい。
$x_1(\alpha_0)$, $x_2(\alpha_0)$$\alpha _0$ に関して減少関数で、 $x_1(\infty)=x_2(\infty)=0$ であること、 および $x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)$ も減少関数であること」
もし、これが示されれば、 $p = x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)$ の (80) での値の範囲は $0\leq p\leq x_2(\hat{H}/2)-x_1(\hat{H}/2)$ で、 その対応は 1 対 1 となる。

一方 $x_3(\alpha_0)=2\alpha_0\pi-x_2(\alpha_0)$ は増加関数で $x_3(\infty)=\infty$ となるので $p = x_3(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)$ も増加関数で、 (80) での値の範囲は $x_3(\hat{H}/2)-x_1(\hat{H}/2)\leq p<\infty$ で、 やはり 1 対 1 となる。

$x_3(\hat{H}/2)-x_1(\hat{H}/2) = x_2(\hat{H}/2)-x_1(\hat{H}/2)$ であるから、よってこれにより (81) を 満たす $\alpha _0$ がただ一つ存在することがわかる。

$x_1(\alpha_0)$$x_2(\alpha_0)$ の増減や $\alpha_0=\infty$ での 値の性質は同じなので、 それについてはとりあえず $x_1(\alpha_0)$ の方のみを考える。 $x_1(\alpha_0)$ はパラメータを用いて、

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\displaystyle \frac{v_0^2}{2g} = \alpha_0...
...\alpha_0)<\alpha_0\pi,
\hspace{0.5zw}0<\phi_1<\pi
\end{array}\end{displaymath} (82)

と表される。ここから、
\begin{displaymath}
\alpha_0 = \frac{v_0^2}{2g}\,\frac{1}{1-\cos\phi_1}
\end{displaymath}

となり、 $\phi_1\in (0,\pi)$ $\alpha_0\in (v_0^2/(4g),\infty)$ が 1 対 1 に単調 (減少) に対応し、よって $x_1(\alpha_0)$ を パラメータ $\phi_1$ で表現できることになる。 (82) より
\begin{displaymath}
x_1(\alpha_0)
= \frac{v_0^2}{2g}\,\frac{\phi_1-\sin\phi_1}{1-\cos\phi_1}
= \frac{v_0^2}{2g}\,p_1(\phi_1)
\end{displaymath}

と表されるので、
\begin{eqnarray*}\frac{dx_1(\alpha_0)}{d\alpha_0}
&=&
\frac{\displaystyle \fra...
...{-\sin\phi_1}
\\ &=&
-2\,\frac{1-\cos\phi_1}{\sin\phi_1}+\phi_1\end{eqnarray*}


より、
\begin{displaymath}
x_1'(\alpha_0) = 2\left(\frac{\phi_1}{2}-\tan\frac{\phi_1}{2}\right)\end{displaymath} (83)

となる。$y=\tan x$$x=0$ での傾きは 1 なので、$(0,\pi/2)$ では $\tan x>x$ であり、 よって (83) より $0<\phi_1<\pi$ では $x_1'(\alpha_0)<0$ となることがわかる。 よって $x_1(\alpha_0)$ $(v_0^2/(4g),\infty)$ で減少する。 また、両端の値が、
\begin{displaymath}
x_1\left(\frac{v_0^2}{4g}+0\right)
= \frac{v_0^2}{2g}\,p_1(\...
...{4g},
\hspace{1zw}
x_1(\infty)
= \frac{v_0^2}{2g}\,p_1(+0)
= 0
\end{displaymath}

となることもわかる。$x_2(\alpha_0)$ の増減、端点の値も同様なので、 あとは $x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)$ の減少性を示せばよい。

$x_2(\alpha_0)$ もパラメータを用いて、

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\hat{H} = \alpha_0(1-\cos\phi_2),
\hspac...
...\alpha_0)<\alpha_0\pi,
\hspace{0.5zw}0<\phi_2<\pi
\end{array}\end{displaymath} (84)

と表せば、(83) より
\begin{displaymath}
\frac{d}{d\alpha_0}(x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0))
=
2\left(\...
...2}\right)
-2\left(\frac{\phi_1}{2}-\tan\frac{\phi_1}{2}\right)
\end{displaymath}

となる ( $0<\phi_1<\phi_2< \pi$)。ここで、
\begin{displaymath}
(x-\tan x)' = 1-(1+\tan^2 x) = - \tan^2 x < 0
\end{displaymath}

なので、ここから $(x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0))'<0$ がわかる。 これで $x_2(\alpha_0)-x_1(\alpha_0)$ が減少関数であることもわかり、 よって、以上で (81) を 満たす $\alpha _0$ がただひとつ存在することが言え、 初速が正の場合の逆さサイクロイド解が ただ一つ存在することが示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年1月8日