4 広義積分の簡易記法

ここ数年間、広義積分の講義では計算途中の簡易記法を紹介してきた。 それをここに書き残しておく。

それは、片側極限の簡易記法

  $\displaystyle
\begin{array}{lll}
\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}f(x) = ...
...),
\\
\displaystyle \lim_{x\rightarrow-\infty}f(x) = f(-\infty)
\end{array}$ (20)
を利用するもので、以後 (7) を例に説明する。 $f(x)$$(a,b]$ での原始関数を $F(x)$ とする。例えば、

$\displaystyle F(x) = -\int_x^b f(y)dy
$

とでもすればよい。 この場合、定義により、
$\displaystyle I_a$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_a^b f(x) dx
\ =\ \lim_{s\rightarrow a+0} \int_s^b f(x)dx
\ =\ \lim_{s\rightarrow a+0}[F(x)]_s^b
\ =\ \lim_{s\rightarrow a+0}(F(b)-F(s))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle F(b)-\lim_{s\rightarrow a+0}F(s)$ (21)

となるが、この最後の式は、(20) を用いれば、 形式的に以下のように書ける。
  $\displaystyle
I_a = F(b) - F(a+0) = [F(x)]_{a+0}^b$ (22)
講義で紹介した簡易記法とは、最終的にこの式を導くものである。

定義による (7) の計算 (21) の場合、 最初に lim の式に書き直すが、 実際にその lim の計算を行うのは原始関数を求めて、 そこに代入を行った後であり、 途中の計算では lim はついてるだけになる。

それに対して、(22) の $a+0$ を少し先取りし、 積分範囲の $a$ を最初に $a+0$ に変えて、 原始関数への代入までは、表面上は lim を書かずに計算するのが 簡易記法の方法である。すなわち、以下のように書く。

  $\displaystyle
\int_a^b f(x) dx
= \int_{a+0}^b f(x) dx
= [F(x)]_{a+0}^b
= F(b) - \lim_{x\rightarrow a+0}F(x)$ (23)
このように、最後の代入の際には極限を用いる。 これなら、広義積分であることはちゃんと意識しているし、 結果は (21) に一致し、 正しく計算できることになる。

例えば、(1) の $J$ の場合、定義通りに計算すると、

$\displaystyle J
= \lim_{s\rightarrow +0}\int_s^1 x^{-1/2}dx
= \lim_{s\rightarrow +0}[2x^{1/2}]^1_s
= \lim_{s\rightarrow +0}(2\sqrt{1}-2\sqrt{s})
= 2
$

となるが、(23) の簡易記法では、

$\displaystyle J
= \int_{+0}^1 x^{-1/2}dx
= [2x^{1/2}]^1_{+0}
= 2\sqrt{1}-\lim_{x\rightarrow +0}(2\sqrt{x})
= 2
$

となる。特に、途中の原始関数の計算が長い場合は lim を書く手間が省ける分だけ少し楽になる。 これは、(2) の計算よりは、 広義積分であることを意識している分、だいぶましな書き方だと思う。

この簡易記法は、他の (6), (8), (9) の 型の広義積分や、合併型の広義積分にも使える。 例えば、

$\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{dx}{x^2+1}
= [\arctan x]_{-\infty}^...
...arrow -\infty}\arctan x
= \frac{\pi}{2}\,-\left(-\,\frac{\pi}{2}\right)
= \pi
$

といった具合であり、(8), (9) 等の 積分範囲が無限の場合は下端や上端の $a+0$, $b-0$ への書き直しも必要ない。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-06-25