3 広義積分の種類

広義積分 (広義リーマン積分) は、有界でない関数、 または無限に長い区間での積分であり、基本的なものには次の 4 種類がある。 以後、 $-\infty<a<b<\infty$ とする。 これらのように、有限区間のリーマン積分の極限として定義されるのが 広義積分 (広義リーマン積分) である。

上記の広義積分は、いずれも積分範囲の片端で通常の積分が できない場合であるが、 積分範囲の両端で積分ができない「合併型」もある。 その場合は、2 重極限で考えればよい。

これらの広義積分は、有限な 2 重極限値が存在するときのみ、 その積分値が存在すると言い、それ以外は発散する、と言う。 この 2 重極限について、例えば (10) を例に少し考えてみる。

$f(x)$$(a,b)$ 上の関数で、$a<s<t<b$ となる任意の $s,t$ に対し、 $[s,t]$$f(x)$ は有界かつ積分可能で、$(a,b)$ では有界ではないとする。

$a<c<b$ となる $c$ をひとつ取って考え、$(a,b)$ での $f(x)$ の 原始関数のひとつを $F(x)$ とする。例えば、

  $\displaystyle
F(x) = \int_c^x f(y)dy\hspace{1zw}(a<x<b)$ (14)
とすればよい。このとき (10) は、
  $\displaystyle
I_a^b
= \lim_{s\rightarrow a+0,t\rightarrow b-0} \int_s^t f(x)dx
= \lim_{s\rightarrow a+0,t\rightarrow b-0}(F(t)-F(s))$ (15)
であるから、
  $\displaystyle
I_1 = \lim_{s\rightarrow a+0}F(s),
\hspace{1zw}
I_2 = \lim_{t\rightarrow b-0}F(t)$ (16)
の極限値が両方とも有限値で存在する場合、 (15) は存在し、 $I_a^b = I_2 - I_1$ となる。

逆に、(15) の有限な極限値が存在する場合、 これは $s$, $t$ に関する独立な極限なので、 (16) の極限が両方とも存在する必要がある。 つまり、(10) が存在するかどうかは、 (16) の両方が存在するかどうかに 一致することになる。 さらにこの場合、 $I_a^b = I_2 - I_1$ は、(14) により、

$\displaystyle I_2 - I_1$ $\textstyle =$ $\displaystyle \lim_{t\rightarrow b-0}F(t) - \lim_{s\rightarrow a+0}F(s)
\ =\
\lim_{t\rightarrow b-0}\int_c^t f(x)dx
- \lim_{s\rightarrow a+0}\int_c^s f(x)dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \lim_{s\rightarrow a+0}\int_s^c f(x)dx
+ \lim_{t\rightarrow b-0}\int_c^t f(x)dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_a^c f(x)dx + \int_c^b f(x)dx$ (17)

となり、基本型の広義積分 (6), (7) の和の形に 書けることになる。

つまり、(10) の 2 重極限による定義を、 $a<c<b$ なるひとつの $c$ に対して、 (17) の両方の広義積分が有限値で存在するときに (17) によって定義する、としても同じことになる。 実際 (10) の広義積分をそのように定義している本も多い。

なお、この $c$$(a,b)$ 内であればなんでもよく、 ひとつの $c$ に対して広義積分が存在すれば 他の $c$ に対しても当然積分は存在して同じ値になるし、 ひとつの $c$ に対して存在しなければ、他の $c$ に対しても存在しない。

これは、(11), (12), (13) についても同様であり、

\begin{eqnarray*}I_a^\infty
&=& \int_a^\infty f(x) dx
\ =\ \int_a^c f(x) dx ...
...y f(x) dx
\ =\ \int_{-\infty}^c f(x) dx + \int_c^\infty f(x) dx\end{eqnarray*}

のように片端の広義積分の和で書け、 いずれも右辺の 2 つの広義積分が両方とも存在するときに、 そしてそのときに限り左辺の広義積分が存在し、両者の値は一致する。

ただし、注意しなければいけないのは、 (10) の 2 重極限を、簡単にひとつにまとめて、

  $\displaystyle
I_a^b = \lim_{\varepsilon\rightarrow+0}
\int_{a+\varepsilon}^{b-\varepsilon}f(x) dx$ (18)
とやってはいけないことである。 2 つの極限の近づき方が独立でないと (10) とは違うものになる。 (10) が存在すれば、(18) も存在して、 確かに両者は同じ値になるが、逆は必ずしもそうではなく、 すなわち (18) は有限値で存在しても、 (10) が存在しない例が作れる。 例えば、$[0,2]$ の関数 $f(x)$
  $\displaystyle
f(x) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{1}{x} & (0<x\leq 1)\\
\displaystyle \frac{1}{x-2} & (1<x<2)
\end{array}\right.$ (19)
とすると、

$\displaystyle \int_\varepsilon^{2-\varepsilon}f(x) dx
= \int_\varepsilon^1\frac...
...x}{x-2}
= \int_\varepsilon^1\frac{dx}{x} + \int_\varepsilon^1\frac{dt}{-t}
= 0
$

となるので (18) は存在して 0 となるが、

$\displaystyle \int_\varepsilon^1 f(x) dx
=\int_\varepsilon^1\frac{dx}{x}
=[\log x]_\varepsilon^1
= -\log\varepsilon
\rightarrow\infty
$

となるので $(0,1]$ の広義積分は存在しないし、 同様に $[1,2)$ の広義積分も存在しない。 よって、この $f(x)$ に対して (10) は存在しない。

なお、(10) が存在せず (18) が 存在する場合、(18) を (10) の 「主値」や「有限部分」などと呼ぶ場合がある。

また、もうひとつの合併型として、積分区間 $[a,b]$ の内部 $c$ ($a<c<b$) で 有界でない場合も考えられるが、その場合は

$\displaystyle \int_a^b f(x) dx
= \int_a^c f(x) dx + \int_c^b f(x) dx
$

と考えればよい。

合併型の広義積分の具体例としては、ベータ関数

$\displaystyle B(p,q) = \int_0^1 x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\hspace{1zw}(p>0,q>0)
$

やガンマ関数

$\displaystyle \mathit{\Gamma}(x) = \int_0^\infty e^{-t}t^{x-1} dt\hspace{1zw}(x>0)
$

などが有名である。 ベータ関数は $0<p<1$, $0<q<1$ のときに $I_a^b$ 型の広義積分、 ガンマ関数は $0<x<1$ のときに $I_a^\infty$ 型の広義積分となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-06-25