3 交点の極限を利用する方法

2 節とは他の考え方として、次のようなものもある。
「曲線上の $P(a,f(a))$ の近くの点 $Q(b,f(b))$ を取り、 $P$, $Q$ からそれぞれこの曲線の法線 (その点を通ってその曲線に垂直に交わる直線) を引き、 その 2 つの法線の交点 $S$ を考える。 この $b$$a$ に近づけたときの $S$ の極限が曲がり具合を表す円の中心 (すなわち曲率中心) であり、その点と $P$ との距離が曲率半径 $R$ である。」
この節では、この考え方で曲率半径を求めてみることにする。

なお、$Q$$P$ に近づけると、 それに対する 2 本の法線はだんだん平行に近くなっていくので、 その交点 $S$ もだんだん遠ざかるのでは、と思うかもしれないが、 実際にはそうではないことは円の場合を考えればすぐにわかる。 円の場合には、法線は直径であるからその交点 $S$ はその円の中心となり、 $Q$$P$ に近づけても $S$ は移動しないからである。

$P$ では接線の傾きが $f'(a)$ であるから法線の傾きは $-1/f'(a)$ となり、 よって $P$ での法線の方程式は

\begin{displaymath}
y-f(a)=-\frac{1}{f'(a)}(x-a)\end{displaymath} (12)

となる。同様に $Q$ での法線の方程式は
\begin{displaymath}
y-f(b)=-\frac{1}{f'(b)}(x-b)\end{displaymath} (13)

となる。この (12) と (13) の交点 $S$ を求める。
\begin{displaymath}
x-a = f(a)f'(a)-f'(a)y,\hspace{1zw}
x-b = f(b)f'(b)-f'(b)y
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
b-a=f(a)f'(a)-f(b)f'(b)+(f'(b)-f'(a))y
\end{displaymath}

であるから、$S$ の座標は
\begin{displaymath}
y=\frac{b-a+f(b)f'(b)-f(a)f'(a)}{f'(b)-f'(a)},\hspace{1zw}
x=a+f(a)f'(a)-f'(a)y\end{displaymath} (14)

により求まる。 $b\rightarrow a$ の極限を考えると、(14) より
\begin{eqnarray*}y
&=&
\left.\left(1+\frac{f(b)f'(b)-f(a)f'(a)}{b-a}\right)\r...
...a)f''(a)+(f'(a))^2}{f''(a)}
=
f(a)+\frac{1+(f'(a))^2}{f''(a)}\end{eqnarray*}


となるが、この極限は 2 節の (8) の $d$ と一致し、 $x$
\begin{eqnarray*}x
&=&
a+f(a)f'(a)-f'(a)y
\\ &\rightarrow &
a+f(a)f'(a)-f'(a...
...1+(f'(a))^2}{f''(a)}\right)
=
a-f'(a)\frac{1+(f'(a))^2}{f''(a)}\end{eqnarray*}


となって、この極限も 2 節の (9) の $c$ と一致する。 よってこの方法でも曲率半径 $R$2 節の (10) と同じものが得られることになる。

なお、この節の議論により、

「この曲線に $R$ より小さい半径の円が点 $P$ で (曲率中心と同じ側に) 接する場合、 その円とこの曲線との交点は、$P$ の近傍には $P$ 以外にはない」
ということも言える (詳細は B 節参照)。 これは、$R$ より小さい半径の円は、 $P$ でこの曲線に「べったり」貼り付くことはない、ということを意味している。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年3月3日