2 2 階微分まで一致する円の利用

$xy$ 平面上の曲線 $y=f(x)$ に対して、 その上の点 $P(a,f(a))$ での曲がり具合を考えることにしよう。 それにはいくつかの考え方があるが、 まずこの節では「2 階微分まで一致する円を利用する」という方法を紹介する。

この考え方は、

「曲線の曲がり具合を円に当ててはめたいのであるから、 実際にその部分に一番近い円をみつける」
というものである。

曲線 $y=f(x)$ に対し、 1 階微分 $f'(a)$ の値は $x=a$ での傾きを表すもので、 曲がり具合とは直接は関係はない。 一方、$f''(a)$ の値は、$f'(x)$ 、 すなわちその曲線の傾きの $x=a$ での変化率であり、 これはある意味で曲がり具合を表している。 通常、初等的な解析では 2 階微分 $f''(a)$ の値は、 この値が正か負かで上に凸か下に凸かの判別を行う位にしか利用しないが、 この値の絶対値が大きい場合は傾きが急激に変化することを意味しているので、 曲がり具合が急であることになり、 逆に絶対値が小さい場合は緩やかであることになる。

ただし、この $f''(a)$ の値は A 節で見るように回転不変ではなく、 グラフ全体を形を変えずにそのまま回転すると変化してしまう値なので、 その値を曲がり具合を表す定量的な尺度として 直接使うことはできないことに注意する1

以上の考え方により、曲がり具合を表すような円として、 $y=f(x)$$P$ で接し、 かつそこでの 2 階微分の値も一致するようなものを求めることにする。

今、求める円の中心を $C(c,d)$、半径を $R$ とすると、 その円の方程式は、

\begin{displaymath}
(x-c)^2+(y-d)^2=R^2\end{displaymath} (1)

となる。 これを $y$ の関数と見たものを $y=g(x)$ とすると、 (1) に $g(x)$ を代入して $x$ で微分すれば、 合成関数の微分により
\begin{displaymath}
2(x-c)+2(g(x)-d)g'(x)=0\end{displaymath} (2)

すなわち
\begin{displaymath}
g'(x)=-\frac{x-c}{g(x)-d}\end{displaymath} (3)

が得られる。これは、円周上の点 $(x,g(x))$ での接線 (傾き $g'(x)$) と、 そこへ向かう半径 (傾き $(g(x)-d)/(x-c)$) が垂直である、 という条件から求めることもできる。

まず $y=g(x)$$P$$y=f(x)$ と接する、 すなわち $P$ を通って、傾きが $f'(a)$ に一致する必要があるので、 $g(a)=f(a)$, $g'(a)=f'(a)$ であるから (1), (3) より

    $\displaystyle (a-c)^2+(f(a)-d)^2=R^2,$ (4)
    $\displaystyle f'(a)=-\frac{a-c}{f(a)-d}$ (5)

が得られる。これが接する条件である。

次は 2 階微分であるが、 (2) を 2 で割って $x$ で微分すれば、 積の微分法により、

\begin{displaymath}
1+(g'(x))^2+(g(x)-d)g''(x)=0
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
g''(x)=-\frac{1+(g'(x))^2}{g(x)-d}\end{displaymath} (6)

が得られる。よって、2 階微分まで等しい円は、 $g''(a)=f''(a)$, および $g'(a)=f'(a)$, $g(a)=f(a)$ より
\begin{displaymath}
f''(a)=-\frac{1+(f'(a))^2}{f(a)-d}\end{displaymath} (7)

を満たすことになる。 この (5), (7) から $c$, $d$ を求め ($f$ で表し)、 それを (4) に代入すれば $R$ を求めることができる。 つまり、(4), (5), (7) から求める円が一つに決まり、それによって曲率半径 $R$ が得られることになる。 (7) より、
\begin{displaymath}
d=f(a)+\frac{1+(f'(a))^2}{f''(a)}\end{displaymath} (8)

なので (5) より、
\begin{displaymath}
c=a+f'(a)(f(a)-d)=a-f'(a)\frac{1+(f'(a))^2}{f''(a)}\end{displaymath} (9)

となる。この (8),(9) を (4) に代入すると、
\begin{displaymath}
R^2
=(f'(a))^2\frac{\{1+(f'(a))^2\}^2}{(f''(a))^2}
+\frac{\{...
...'(a))^2\}^2}{(f''(a))^2}
=\frac{\{1+(f'(a))^2\}^3}{(f''(a))^2}
\end{displaymath}

となるから、結局曲率半径 $R$ は、
\begin{displaymath}
R=\frac{\{1+(f'(a))^2\}^{3/2}}{\vert f''(a)\vert}\end{displaymath} (10)

と表されることになる。

なお、この曲率半径の逆数の絶対値を外したもの

\begin{displaymath}
\mu=\frac{f''(a)}{\{1+(f'(a))^2\}^{3/2}}\end{displaymath} (11)

曲率、(8),(9) で与えられる円の中心 $C(c,d)$曲率中心 と呼ぶことがある。

曲率が正の場合は $f''(a)>0$ であるから下に凸で、 曲率中心は曲線の上の方にあり、 $x$ の増加方向に曲線に沿って考えれば曲線は左に曲がっていることになる。 逆に曲率が負の場合は $f''(a)<0$ で上に凸で、曲率中心は曲線の下、 曲線は $x$ の増加方向に右に曲がることになる。

なお、曲率が 0 のときは曲率半径は無限大となってしまうが、 数学ではそれを避けるため、 そして上に述べたように符号により曲がる方向を知ることもできるために、 曲率半径よりも曲率を主に考えることが多いようである。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年3月3日