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5 積の収束の証明

では、3 節の極限の定義 2 を使って、 積の収束 (3) を証明してみよう。

この場合、どんな $\varepsilon$ ($>0$) に対しても、$n>N$ ならば

\begin{displaymath}
\vert a_nb_n-\alpha\beta\vert<\varepsilon\end{displaymath} (6)

となるような $N$ が取れればいい。そのような $N$ を実際に探してみる。

まず、2 節のように、

\begin{displaymath}
c_n=a_n-\alpha,\hspace{1zw}d_n=b_n-\beta
\end{displaymath}

とすると、$a_n$, $b_n$$\alpha$, $\beta$ にそれぞれ収束する という仮定から、 極限の定義 2 により、 どんな $\tau$ ($>0$) に対しても はずである。つまり、この場合、

\begin{displaymath}
n>A \mbox{ ならば }\vert c_n\vert<\tau, \hspace{1zw}n>B \mbox{ ならば } \vert d_n\vert<\tau
\end{displaymath}

となることになる。

2 節で計算したように、

\begin{displaymath}
a_nb_n-\alpha\beta = \alpha d_n+\beta c_n+c_nd_n
\end{displaymath}

であることに注意する。 まず、$\alpha\neq 0$, $\beta\neq 0$ の場合を考える。

仮定より、 $\tau=\varepsilon/(3\vert\alpha\vert)$ と考えれば、

\begin{displaymath}
n>B_1 \mbox{ ならば } \vert d_n\vert<\frac{\varepsilon}{3\vert\alpha\vert}\end{displaymath} (7)

となるような $B_1$ が取れるはずである。 同様に、 $\tau=\varepsilon/(3\vert\beta\vert)$ と考えれば
\begin{displaymath}
n>A_1 \mbox{ ならば } \vert c_n\vert<\frac{\varepsilon}{3\vert\beta\vert}\end{displaymath} (8)

となるような $A_1$ が取れるはずであるし、 $\tau=\vert\alpha\vert$ と考えれば
\begin{displaymath}
n>A_2 \mbox{ ならば } \vert c_n\vert<\vert\alpha\vert\end{displaymath} (9)

となるような $A_2$ も取れるはずである。

この、$B_1$, $A_1$, $A_2$ の一番大きいものを $N$ としよう。 そうすると、$n>N$ ならば、もちろん $n>B_1$ だから (7) より

\begin{displaymath}
\vert\alpha\vert\vert d_n\vert<\frac{\varepsilon}{3}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
-\frac{\varepsilon}{3}<\alpha d_n<\frac{\varepsilon}{3}\end{displaymath} (10)

となる。同様に $n>A_1$ だから (8) より

\begin{displaymath}
\vert\beta\vert\vert c_n\vert<\frac{\varepsilon}{3}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
-\frac{\varepsilon}{3}<\beta c_n<\frac{\varepsilon}{3}\end{displaymath} (11)

である。そして、$n>A_2$ かつ $n>B_1$ だから、 (7) と (9) より

\begin{displaymath}
\vert c_n\vert\vert d_n\vert<\vert\alpha\vert\frac{\varepsilon}{3\vert\alpha\vert} = \frac{\varepsilon}{3}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
-\frac{\varepsilon}{3}<c_n d_n<\frac{\varepsilon}{3}\end{displaymath} (12)

である。この (10),(11),(12) を 合わせると、$n>N$ に対しては

\begin{displaymath}
-\frac{\varepsilon}{3}-\frac{\varepsilon}{3}-\frac{\varepsil...
...ac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}
\end{displaymath}

すなわち、

\begin{displaymath}
-\varepsilon<a_nb_n-\alpha\beta<\varepsilon
\end{displaymath}

が言え、(6) が言えることになる。

$\alpha=0$$\beta\neq 0$ のときは、 $\tau=\varepsilon/(2\vert\beta\vert)$ とすれば

\begin{displaymath}
n>A_3\mbox{ ならば }\vert c_n\vert<\frac{\varepsilon}{2\vert\beta\vert}
\end{displaymath}

である $A_3$ が取れ、 $\tau=\vert\beta\vert$ とすれば

\begin{displaymath}
n>B_2\mbox{ ならば }\vert d_n\vert<\vert\beta\vert
\end{displaymath}

であるような $B_2$ が取れる。 よって、$A_3$$B_2$ の大きい方を $N$ とすれば、$n>N$ であれば

\begin{displaymath}
\vert\beta c_n\vert=\vert\beta\vert\vert c_n\vert<\frac{\var...
...psilon}{2\vert\beta\vert}\vert\beta\vert=\frac{\varepsilon}{2}
\end{displaymath}

なので、

\begin{displaymath}
-\frac{\varepsilon}{2}-\frac{\varepsilon}{2}
<\beta c_n+c_nd_n
<\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}
\end{displaymath}

となり、よって

\begin{displaymath}
-\varepsilon<a_nb_n-\alpha\beta<\varepsilon
\end{displaymath}

が言える。その他の場合も同様である。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年3月31日