5 一般のベッセル関数の場合

3 節で示した関係式 (12) は、 言い換えれば、 半ベッセル関数に対して
$\displaystyle \mathcal{L}\left[\left(\frac{t}{2}\right)^{k+1/2}J_{k+1/2}(t)\rig...
... \frac{k!}{\sqrt{\pi}}\,\frac{1}{(s^2+1)^{k+1}}
\hspace{1zw}(k=0,1,2,\ldots)
$
が成り立つことを示しているが、このようなベッセル関数のラプラス変換の 公式も当然既にあるのではと思い、 数学辞典 [3] のラプラス変換表を見たらやはり次のような公式が 載っていた。
  $\displaystyle
\mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)] = \frac{2^\nu}{\sqrt{\pi}}\,
\matho...
...left(\nu+\frac{1}{2}\right)\frac{1}{(s^2+1)^{\nu+1/2}}
\hspace{1zw}(\nu>-1/2) $ (14)
なお、数学辞典 [3] には $t^\nu J_\nu(at)$ のラプラス変換の 形で載っているが、(14) をその形に拡張すること は容易である。 本節では、この一般の公式 (14) を証明する。

まず、一般のベッセル関数 $J_\nu(x)$ は、

  $\displaystyle
J_\nu(x) = \left(\frac{x}{2}\right)^\nu
\sum_{m=0}^\infty\frac{...
...op{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}
\left(\frac{x}{2}\right)^{2m}
\hspace{1zw}(x>0)$ (15)
の無限級数で与えられる。2 階の常微分方程式の解、 あるいは積分の式で表現する方法もあるが、本節ではこの形を用いる。

まず (15) の無限級数部分であるが、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{
\left\vert
\left.
\frac{(-1)^{m+1}}{(m+1)!\mathop{...
... \right\vert
}
\\ &=&
\frac{x^2}{4(m+1)(\nu+m+1)}\hspace{10zw}\end{eqnarray*}
なので、ダランベールの判定法より収束半径は無限大、 すなわちすべての $x>0$ で絶対収束する。

まずは、ラプラス変換

  $\displaystyle
\mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)]
= \mathcal{L}\left[
\left(\frac{t...
...m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}
\left(\frac{t}{2}\right)^{2m}
\right]$ (16)
と無限和との順序交換、すなわち
$\displaystyle {\int_0^\infty
\sum_{m=0}^\infty\frac{(-1)^m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}
\,\frac{t^{2m+2\nu}}{2^{2m+\nu}}\,e^{-st}dt}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{m=0}^\infty\int_0^\infty
\frac{(-1)^m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}
\,\frac{t^{2m+2\nu}}{2^{2m+\nu}}\,e^{-st}dt$(17)
とできるかを考える。

一般に、区間 $I$ 上の積分に対し、

$\displaystyle \int_{I}\sum_{n=1}^\infty f_n(x)dx
=\sum_{n=1}^\infty\int_{I}f_n(x)dx
$
が成り立つための十分条件として、ルベーグ収束定理を考えれば、 すべての $N$ に対し、
  $\displaystyle
\left\vert\sum_{n=1}^N f_n(x)\right\vert\leq S(x)\hspace{0.5zw}(x\in I),
\hspace{1zw}\int_I S(x)dx < \infty$ (18)
となる、$N$ によらない非負の関数 $S(x)$ が取れればよい。 今、
$\displaystyle S_N(t) = \sum_{m=0}^N\frac{(-1)^m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}\,
\frac{t^{2m+2\nu}}{2^{2m+\nu}}\,e^{-st}
$
とすると、 $\mathop{\mathit{\Gamma}}(x)$$x\geq 2$ では単調増加なので、 $\nu>-1/2$, $m\geq 2$ に対し、
$\displaystyle \mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)\geq \mathop{\mathit{\Gamma}}(m)=(m-1)!
$
となる。よって、
\begin{eqnarray*}\vert S_N(t)\vert
&\leq&
\frac{e^{-st}}{\mathop{\mathit{\Gamm...
...thit{\Gamma}}(\nu+2)}
+\frac{t^{2\nu+1}}{2^{\nu+1}}\,e^{-(s-1)t}\end{eqnarray*}
となる。この最後の式 $S(t)$ とすれば、これは $N$ にはよらず 非負で、$\nu>-1/2$, $s>1$ に対し、
\begin{eqnarray*}\int_0^\infty S(t)dt
&=&
\frac{1}{2^\nu\mathop{\mathit{\Gamm...
...+\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+2)}{2^{\nu+1}(s-1)^{2\nu+2}}\end{eqnarray*}
となりこれは有限値となる。 これで (18) の条件が満たされ、 (17) の順序交換が可能となり、(16) は、 $\nu>-1/2$, $s>1$ に対して、
$\displaystyle \mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)]$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{m=0}^\infty\frac{(-1)^m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1)}\,
\frac{1}{2^{2m+\nu}}\mathcal{L}[t^{2m+2\nu}]$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{m=0}^\infty\frac{(-1)^m}{m!\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+m+1...
...\frac{1}{2^{2m+\nu}}\,\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2m+2\nu+1)}{s^{2m+2\nu+1}}$(19)
となる。ここで、 $\mathop{\mathit{\Gamma}}(x+1)=x\mathop{\mathit{\Gamma}}(x)$ ($x>0$) より、
$\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+2m+1)}{\mathop{\mathit{\Gamma...
...ma}}(2\nu+1)}%
{(m+\nu)(m+\nu-1)\cdots(\nu+1)\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1)}
$
となるが、この右辺の分母は $\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1)$ を除いてすべて約分でき、 それをさらに変形すると、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{
\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+2m+1)}{\mathop{\...
...mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+1)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1)}\end{eqnarray*}
と書ける。よって (19) は、
$\displaystyle \mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)]
= 2^{-\nu}\,\frac{\mathop{\mathit{\Ga...
...eft(\!\begin{array}{c} -\nu-1/2\\ m\end{array}\!\right)\frac{1}{s^{2m+2\nu+1}}
$
となるが、 $s>1$ では、$0<1/s^2<1$ なので、一般二項定理より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{m=0}^\infty
\left(\!\begin{array}{c} -\nu-1/2\...
...^{2\nu+1}}{(1+s^2)^{\nu+1/2}}
\ =\
\frac{1}{(1+s^2)^{\nu+1/2}}\end{eqnarray*}
となり、よって
$\displaystyle \mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)]
= 2^{-\nu}\,\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+1)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1)}
\,\frac{1}{(1+s^2)^{\nu+1/2}}
$
が得られる。あとは、
  $\displaystyle
2^{-\nu}\,\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+1)}{\mathop{\mathi...
... \frac{2^\nu}{\sqrt{\pi}}\mathop{\mathit{\Gamma}}\left(\nu+\,\frac{1}{2}\right)$ (20)
を示せば (14) が言えることになる。

実はガンマ関数に (20) のような関係式が成り立つ ことは知らなかったが、[4] によればこれは「ルジャンドルの 倍数公式」と呼ばれるものらしい。 ガンマ関数とベータ関数

$\displaystyle \mathop{\mathit{B}}(p,q) = \int_0^1 x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx\hspace{1zw}(p>0,\ q>0)
$
の間の関係式
$\displaystyle \mathop{\mathit{B}}(p,q)=\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(p)\mathop{\mathit{\Gamma}}(q)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(p+q)}
$
を用いると、$a>0$ に対して、
$\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2a)}
...
...it{B}}(a,a)
=\frac{1}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a)}\int_0^1x^{a-1}(1-x)^{a-1}dx
$
となるが、この積分で $x=(1+t)/2$ と置換すると、
\begin{eqnarray*}\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2a)...
...rac{2^{2-2a}}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a)}\int_0^1(1-t^2)^{a-1}dt\end{eqnarray*}
となるが、$t^2=y$ と置換すると、
\begin{eqnarray*}\frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2a)...
...\ =\
\frac{2^{1-2a}\sqrt{\pi}}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(a+1/2)}\end{eqnarray*}
となる。 この式で、$a=\nu+1/2$ ($>0$)とすれば、
$\displaystyle \frac{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1/2)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(2\nu+1)}
= \frac{2^{-2\nu}\sqrt{\pi}}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\nu+1)}
$
となり、(20) が得られる。 よって $\nu>-1/2$, $s>1$ で (14) が 示されたことになる。

ついでに、(14) の両辺を $s$ で微分すると、 右辺の微分は、

$\displaystyle \frac{2^\nu}{\sqrt{\pi}}\,
\mathop{\mathit{\Gamma}}\left(\nu+\fra...
...mathop{\mathit{\Gamma}}\left(\nu+\frac{3}{2}\right)\frac{s}{(s^2+1)^{\nu+3/2}}
$
となり、左辺の微分は
$\displaystyle \frac{d}{ds}\mathcal{L}[t^\nu J_\nu(t)]
=-\mathcal{L}[t^{\nu+1} J_\nu(t)]
$
となるので、ここから、
$\displaystyle \mathcal{L}[t^\nu J_{\nu-1}(t)] = \frac{2^\nu}{\sqrt{\pi}}\,
\mathop{\mathit{\Gamma}}\left(\nu+\frac{1}{2}\right)\frac{s}{(s^2+1)^{\nu+1/2}}
$
が成立することがわかる。 なお、これが成立する $\nu$ は、この計算からすると $\nu>1/2$ という ことになるが、(14) の微分ではなく、 前と同様の議論で無限級数から導けば、$\nu$ の条件は $\nu>0$ まで ゆるめられることがわかる。

以上により、(12), (13) の一般化として 次が得られたことになる。

\begin{eqnarray*}\mathcal{L}^{-1}\left[\frac{1}{(s^2+1)^{p+1}}\right]
&=&
\fr...
...left(\frac{t}{2}\right)^{p+1/2}J_{p-1/2}(t)
\hspace{1zw}(p>-1/2)\end{eqnarray*}

なお、当然半ベッセル関数 ($\nu=n+1/2$) 以外のベッセル関数 $J_\nu$ は、 三角関数などの簡単な式で表すことはできない。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-07-25