B Helly の選出定理

この節では、Helly の選出定理 6.1 の証明を行う。

まず、系 A.2, A.5 より、

$\displaystyle \mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _{(-\infty,x]}f_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle P_{(-\infty,x]}f_n + N_{(-\infty,x]}f_n,
%\label{eq:Helly:TV_P_N}
$ (B.142)
$\displaystyle f_n(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle P_{(-\infty,x]}f_n - N_{(-\infty,x]}f_n+f_n(-\infty)$ (B.143)

となる。 $\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R f_n\leq A_1$ の仮定より、
\begin{displaymath}
0\leq P_{(-\infty,x]}f_n\leq A_1,
\hspace{1zw}
0\leq N_{(-\infty,x]}f_n\leq A_1\end{displaymath} (B.144)

なので、 まず一様有界な単調増加関数列 $\{g_n(x)\}_n$ に対して収束性を示し、 それを $P_{(-\infty,x]}f_n$, $N_{(-\infty,x]}f_n$ に適用することで $f_n(x)$ に対して示す、という方針で証明する。

まず、$g_n(x)$

\begin{displaymath}
B_1\leq g_n(x)\leq B_2\hspace{1zw}(x\in R)
\end{displaymath}

を満たし、かつ単調増加であるとする。 今、有理数全体を $\{x_k\}_k$ とすると $\{g_n(x_k)\}_n$ は有界列だから その部分列を取ってある実数に収束させることができる。 よって、対角線論法を使うことで、 すべての $x_k$ に対し収束するような $\{g_n(x)\}_n$ の部分列 $\{g_{n_j}(x)\}_j$ を取ることができる:
\begin{displaymath}
\lim_{j\rightarrow\infty}g_{n_j}(x_k)=\alpha_k
\end{displaymath}

今、$h(x)$
\begin{displaymath}
h(x)=\left\{\begin{array}{ll}
\alpha_k & (x=x_k),\\
\sup_{x_k<x}\alpha_k & (x\not\in\{x_k\}_k)\end{array}\right.\end{displaymath}

と定めると、$g_n$ の単調性より $x_i<x_k$ ならば $\alpha_i\leq \alpha_k$ なので、$h(x)$ は単調増加であり、 かつ
\begin{displaymath}
B_1\leq h(x)\leq B_2\hspace{1zw}(x\in R)
\end{displaymath}

を満たす。 よって、命題 A.4 より $h(x)$ の不連続点の集合 $P$ は 高々可算な集合である。

今、 $x\in R\setminus P$ とすると、 $x\in\{x_k\}_k$ ならば $g_{n_j}(x)\rightarrow h(x)$ であるが、 $x\not\in\{x_k\}_k$ の場合も $g_{n_j}(x)\rightarrow h(x)$ となることを示そう。 $x_i<x<x_k$ に対し、

\begin{displaymath}
g_{n_j}(x_i)\leq g_{n_j}(x)\leq g_{n_j}(x_k)
\end{displaymath}

であるから、 $j\rightarrow\infty$ とすれば
\begin{displaymath}
h(x_i)\leq\liminf_j g_{n_j}(x)\leq \limsup_j g_{n_j}(x)\leq h(x_k)
\end{displaymath}

となるが、 $\{x_k\}$ は稠密なので $x_i$, $x_k$$x$ に収束するように取ると、 $h$$x$ で連続だから $h(x_i)$, $h(x_k)$$h(x)$ に収束し、
\begin{displaymath}
h(x)=\liminf_j g_{n_j}(x)=\limsup_j g_{n_j}(x)
\end{displaymath}

となり、よって確かに $g_{n_j}(x)\rightarrow h(x)$ となる。

つまり、 $x\in R\setminus P$ ならば $g_{n_j}(x)\rightarrow h(x)$ となるが、 $P$ は高々可算集合で $g_{n_j}$ は一様有界なので、 $\{g_{n_j}\}_j$ の部分列 $\{g_{n'_k}\}_k$ を取ることで $P$ 上でも $g_{n'_k}$ を収束させることができる。 よってその極限を $g(x)=\lim_{k\rightarrow\infty}g_{n'_k}(x)$ とすれば、 すべての $x$ に対して $g_{n'_k}(x)$$g(x)$ に収束することになる。 これで $g_n$ に対する収束性が示された。

この議論と (B.3) により、 自然数列のある部分列 $\{n_j\}_j$ を取って、 関数列 $\{P_{(-\infty,x]}f_{n_j}\}_j$, $\{N_{(-\infty,x]}f_{n_j}\}_j$ と数列 $\{f_{n_j}(-\infty)\}_j$ を すべての $x$ に対し各点収束させることができる。 その極限を、

\begin{displaymath}
\lim_{j\rightarrow\infty}P_{(-\infty,x]}f_{n_j}=g_1(x),
\hsp...
...,
\hspace{1zw}
\lim_{j\rightarrow\infty}f_{n_j}(-\infty)=\beta
\end{displaymath}

とすると、(B.2) より、
\begin{displaymath}
\lim_{j\rightarrow\infty}f_{n_j}(x)=g_1(x)-g_2(x)+\beta
\end{displaymath}

となる。よってこの右辺を $f(x)=g_1(x)-g_2(x)+\beta$ とすると $\lim_{j\rightarrow\infty}f_{n_j}(x)=f(x)$ であり、 定理 6.1 の仮定より
\begin{displaymath}
-A_2\leq f_{n_j}(x)\leq A_2
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
-A_2\leq f(x)\leq A_2
\end{displaymath}

が従う。最後に $f(x)$ の全変動であるが、 これは (B.3) より
\begin{displaymath}
0\leq g_1(x)\leq A_1,\hspace{1zw}
0\leq g_2(x)\leq A_1
\end{displaymath}

であり、かつ $g_1(x)$, $g_2(x)$ は単調なので、
\begin{eqnarray*}\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R f
&=&
\mathop{\mathrm{TV}}\n...
...ts _R g_1+ \mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R g_2
 &\leq &
2A_1\end{eqnarray*}


となる。これで定理 6.1 が示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日