6.1 各 t に対する極限

この節では、定理 5.2 で得た評価から、 Glimm 差分近似解の収束性について考える。 一般に定理 5.2 の評価では、 $\Delta x\rightarrow +0$ のときに $U^\Delta (t,x)$ が強い意味で収束することまでは言えないが、 0 に収束するある部分列 $\Delta x_n$ を取って、 それに対する近似解 $U^{\Delta_n}(t,x)$ をある意味で収束させることはできる。 そこで使われるのが、次の Helly の選出定理である。


定理 6.1 (Helly の選出定理)

$\{f_n(x)\}_{n=1,2,\ldots}$$R$ 上の有界変動関数列で、 $f_n(x)$ の値とその全変動が一様有界、すなわち

\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R f_n\leq A_1<\infty,
\hspace{1zw}
\sup_{x\in R}\vert f_n(x)\vert\leq A_2<\infty
\end{displaymath}

となるような定数 $A_1$, $A_2$ が存在するならば、 $\{f_n(x)\}_n$ のある部分列 $\{f_{n_j}(x)\}_j$ と、 ある有界変動関数 $f(x)$ が存在して、次を満たす:
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
f_{n_j}(x)\rightarrow f(x)\hspace{...
...space{1zw}\sup_{x}\vert f(x)\vert\leq A_2,
\end{array}\right. \end{displaymath}


この定理の証明はそれほど難しいものではないが、 有界変動関数の性質がいくつか使われるので、 証明は B 節で紹介する。

定理 5.2 の (5.28), (5.29) より、 $U^\Delta (t,x)$$t$ を固定して $x$ の関数と見ると、 この Helly の定理 6.1 の条件を満たしていることがわかる。 よって、各 $t$ に対して、 $U^\Delta$ のある部分列が $x$ に関して各点収束することになる。 しかし、その部分列は $t$ 毎に異なる可能性があり、 共通に取れるとは限らないので、 それを定理 5.2 の (5.30) と 対角線論法によって結びつける。

まず、$(0,\infty)$ の、稠密で可算な部分集合 $\{t_k\}_{k=1,2,\ldots}$ を取る (例えば正の有理数全体とすればよい)。 Helly の定理 6.1 により、 $t=t_1$ に対して、0 に収束する列 $\{\Delta x_n(1)\}_{n}$ を取り、 それに対する近似解 $U^{\Delta_n(1)}$ が ある有界変動関数 $p_{t_1}(x)$ に収束するようにできる:

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}U^{\Delta_n(1)}(t_1,x)= p_{t_1}(x)\hspace{1zw}(\mbox{各点収束})
\end{displaymath}

そして、$t=t_2$ に対しては、 再び Helly の定理 6.1 により この $\{\Delta x_n(1)\}_{n}$ の部分列 $\{\Delta x_n(2)\}_{n}\subset \{\Delta x_n(1)\}_{n}$ を取って、

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}U^{\Delta_n(2)}(t_2,x)= p_{t_2}(x)\hspace{1zw}(\mbox{各点収束})
\end{displaymath}

とすることができる。以下同様にして、
\begin{displaymath}
\{\Delta x_n(1)\}_{n}\supset\{\Delta x_n(2)\}_{n}\supset\ldots
\end{displaymath}

のように部分列を取って、すべての $k$ に対して
\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}U^{\Delta_n(k)}(t_k,x)= p_{t_k}(x)\hspace{1zw}(\mbox{各点収束})
\end{displaymath}

となるようにすることができる ($p_{t_k}$ は Helly の定理 6.1 にあるような 有界変動関数)。

このとき、 $\{\Delta x_k(k)\}_{k}$ という列を考えると、 $k\geq m$ に対しては

\begin{displaymath}
\{\Delta x_k(k)\}_{k\geq m}\subset\{\Delta x_n(m)\}_{n}
\end{displaymath}

であるので、よってこの列に対してはすべての $t_m$ に対して
\begin{displaymath}
\lim_{k\rightarrow\infty}U^{\Delta_k(k)}(t_m,x)= p_{t_m}(x)\end{displaymath} (6.87)

となることが言える (いわゆる対角線論法)。

次に、 $t\in (0,\infty)\setminus\{t_k\}$ に対する収束性を考える。 定理 5.2 の (5.30) より、 任意の正数 $M$ に対して、

$\displaystyle {\int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_n(n)}(t,x)-U^{\Delta_m(m)}(t,x)\vert dx}$
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_n(n)}(t,x)-U^{\Delta_n(n)}(t_k,x)\vert dx$  
    $\displaystyle {}+\int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_n(n)}(t_k,x)-U^{\Delta_m(m)}(t_k,x)\vert dx$  
    $\displaystyle {}+\int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_m(m)}(t_k,x)-U^{\Delta_m(m)}(t,x)\vert dx$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle C_2(\Lambda\vert t-t_k\vert+2\Delta x_n(n))\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R U_0$  
    $\displaystyle {}+\int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_n(n)}(t_k,x)-U^{\Delta_m(m)}(t_k,x)\vert dx$  
    $\displaystyle {}+C_2(\Lambda\vert t-t_k\vert+2\Delta x_m(m))\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R U_0$ (6.88)

となる。この式 (6.2) で $n,m\rightarrow\infty$ に関する 上極限を取ると、$\Delta x_n(n)$, $\Delta x_m(m)$、および右辺の積分項は、 (6.1) と $U^\Delta$ の一様有界性により 0 に収束するので、
\begin{displaymath}
\limsup_{n,m\rightarrow\infty}
\int_{\vert x\vert\leq M}\v...
...2C_2\Lambda\vert t-t_k\vert\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R U_0\end{displaymath} (6.89)

となる。$\{t_k\}_k$$(0,\infty)$ 内で稠密であるから、 ($t_k$ を含む) 任意の $t\in(0,\infty)$ に対し (6.3) の右辺はいくらでも小さくできる。 ゆえに
\begin{displaymath}
\lim_{n,m\rightarrow\infty}
\int_{\vert x\vert\leq M}\vert U^{\Delta_n(n)}(t,x)-U^{\Delta_m(m)}(t,x)\vert dx
=0
\end{displaymath}

が成り立つ。これは、任意の $M$ に対して $U^{\Delta_n(n)}(t,\cdot)$$L^1(-M,M)$ の Cauchy 列であることを意味するので、
\begin{displaymath}
U^{\Delta_n(n)}(t,\cdot)\rightarrow q_t \hspace{1zw}\mbox{in $L^1(-M,M)$}\end{displaymath} (6.90)

となるような ($M$ によらない) $g_t(x)\in L^1_{loc}(R)$ が取れることが容易に示される。

さらに、 $\{U^{\Delta_n(n)}(t,x)\}$ は、 各 $t$ に関して Helly の定理 6.1 の条件を満たすから、 $\{\Delta x_n(n)\}_n$ のある部分列 $\{\Delta x'_n(t)\}_n$ ($t$ 毎に変わりうる) と、ある有界変動関数 $p_t(x)$ が取れて

\begin{displaymath}
U^{\Delta'_n(t)}(t,x)\rightarrow p_t(x) \hspace{1zw}(\mbox{各点収束})\end{displaymath} (6.91)

とできる ((6.1) より $\{t_k\}$ に対しては 部分列を取る必要はない) ので、 (6.4), (6.5) より、 この $p_t(x)$$q_t(x)$ はすべての $t(>0)$ に対して
\begin{displaymath}
p_t(x)=q_t(x)\hspace{1zw}\mbox{a.e. in $R$}\end{displaymath} (6.92)

を満たすことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日