5.3 世代番号 (generation order)

この後の評価のため、[1] では世代番号 (generation order) なる ものを導入して、それに基づく場合分けを行っている。

世代番号は、すべての front (各線分部分) に対して あるレベル番号付けを行う規則であるが、 ID とは違い一意の番号をつけるわけではなく、 front から自然数への写像 $Go(\sigma)$ を作っている。

  1. 初期階段関数 $u(0+,x)$ に対する Riemann 問題の解から 作った front の世代番号は 1 とする
  2. $Go(\sigma'_i)=k'$, $Go(\sigma''_j)=k''$ である front $\sigma'_i$$\sigma''_j$ が衝突する場合、
    1. $i>j$ の場合 ([A-1],[S-1],[S-3])、 流入 front と同じ $i$-特性族、$j$-特性族に出る front $\bar{\sigma}_i$, $\bar{\sigma}_j$ の世代番号は $Go(\bar{\sigma}_i)=k'$, $Go(\bar{\sigma}_j)=k''$ とし、 それ以外の特性族に出る front の世代番号は すべて $\max\{k',k''\} + 1$ とする
    2. $i=j$ の場合 ([A-2],[S-2])、 流入 front と同じ $j$-特性族に出る front の世代番号は $\min\{k',k''\}$ とし、 それ以外の特性族に出る front の世代番号は すべて $\max\{k',k''\} + 1$ とする
すなわち、合体して 1 本の front になった場合は、 流入 front の世代番号の小さい方を取り、 ぶつかってすり抜けた場合は変更せず、 新たに発生した front の世代番号は流入 front のものよりも大きくする。 よって、front 接続を時間の進む方向に追いかければ それに沿って世代番号は増えないことになる。

そして、あらたに $V_k(t)$, $Q_k(t)$, $I_k$ ($k\geq 1$) の記号を 導入している (p140)。

$\displaystyle V_k(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum \{\vert\sigma\vert; \sigma\in F(t), Go(\sigma)\geq k\}$ (44)
$\displaystyle Q_k(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum \{\vert\sigma\sigma'\vert; \sigma,\sigma'\in F(t),
 \sigma\mathop{/ \backslash}\sigma', \max\{Go(\sigma),Go(\sigma')\}\geq k\}$ (45)
$\displaystyle I_k$ $\textstyle =$ $\displaystyle \{\max\{Go(\sigma),Go(\sigma')\}=k\mbox{ となる $\sigma$, $\sigma'$ の
衝突時刻}\}$ (46)

$V_k(t)$ は、$V(t)$ のうち、$k$ 未満の世代の front をとりのぞいたもの、 $Q_k(t)$ は、$Q(t)$ のうち、$k$ 未満の世代同士の front の積の項を とりのぞいたもの、$I_k$ は衝突時刻 $\{\tau_k\}$ の集合を交わりのない 部分集合に分割したもの、となっている。 明らかに $V_1(t)=V(t)$, $Q_1(t)=Q(t)$ となる。

$I_k$ は少しわかりにくいかもしれないが、 [1] の近似解の作り方の場合、各衝突時刻 $t=\tau$ に対して、 その時刻に衝突する front $\sigma$, $\sigma'$ の組が一意に決定し、 その両者の世代番号の大きい方を

$\displaystyle \phi(\tau)=\max\{Go(\sigma),Go(\sigma')\}
$

とすれば、これは衝突時刻集合 $\{\tau_j\}$ から自然数への写像となり、 それに対し $I_k=\phi^{-1}(\{k\})$ となる。 よって $I_k$ 同士には交わりはなく、

$\displaystyle \bigcup_{k\geq 1}I_k = \phi^{-1}(\mathbf{N}) = \{\tau_j\}
$

となる。

なお、[1] では、$Go(\sigma)$ という関数は導入せず、 全 front に「$\sigma_\alpha$」という ID を示す添字をつけ、 $\sigma_\alpha$ の世代番号を $k_\alpha$ と書くことで これらを定義しているが、その方法でも十分わかるし、 特にあいまいさがあるわけではない。

この $V_k$, $Q_k$, $I_k$ に対し、p141 には次の 5 本の評価が上げられている。

$\displaystyle \Delta V_k(\tau) = 0,$   $\displaystyle \tau\in \bigcup_{j=1}^{k-2} I_j\hspace{1zw}(k\geq 3)$ (47)
$\displaystyle \Delta V_k(\tau) + C_0\Delta Q_{k-1}(\tau)\leq 0,$   $\displaystyle \tau\in \bigcup_{j\geq k-1} I_j\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (48)
$\displaystyle \Delta Q_k(\tau)+C_0\Delta Q(\tau) V_k(\tau-)\leq 0,$   $\displaystyle \tau\in \bigcup_{j=1}^{k-2} I_j\hspace{1zw}(k\geq 3)$ (49)
$\displaystyle \Delta Q_k(\tau)+C_0\Delta Q_{k-1}(\tau) V(\tau-)\leq 0,$   $\displaystyle \tau\in I_{k-1}\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (50)
$\displaystyle \Delta Q_k(\tau)\leq 0,$   $\displaystyle \tau\in \bigcup_{j\geq k} I_j\hspace{1zw}(k\geq 1)$ (51)

しかし、[1] には、その証明は (7.56) と同様である、 としているだけで何も書かれてはいない。 本節では、ほぼ似たような作業の繰り返しになるが、順に紹介する。 なお、(47), (48) と (49), (50), (51) は、 それぞれ $V_k(t)$$Q_k(t)$ の、 衝突時刻での差分の場合分けによる評価であることに注意する。

なお、1 本目の (47) はそれほど難しくはない。 $\tau\in I_j$ ( $1\leq j\leq k-2$) より、 衝突する front の世代はいずれも $(k-2)$ 以下で、 よってその衝突で生成される front の世代もすべて $(k-1)$ 以下となり、 $V_k(\tau+)$ にも $V_k(\tau-)$ にもそれらの front は含まれず、 よって (47) となる。

以下、3 節同様、 その衝突時刻での流入 front を $\sigma'_i$, $\sigma''_j$ ($i\geq j$)、 その Riemann 問題の解を $\bar{\sigma}_\ell$、 出力 front を $\sigma_\ell$ とし、 $Go(\sigma'_i)=k'$, $Go(\sigma''_j)=k''$ とする。 なお、 $Go(\bar{\sigma}_\ell)$ という記号も用いるが、 それは $\bar{\sigma}_\ell$ が膨張波である場合は、 その分解 front の (共通の) 世代番号とする。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03