4.2 膨張 front 接続の後方一意性

[1] の p138 では $\sigma_\alpha(t)$ として、 $t=t_0$ で発生した「rarefaction front」としているが、 これは本稿の「front 接続」を指している。

また、「rarefaction front」と呼んでいるが、 膨張 front からの front 接続がずっと膨張 front でつながるわけではない。 例えば、[A-1] の場合は、 3.5 節の (5) より 流入 front と同じ特性族に出る front の符号は同じになり、 膨張 front は膨張 front につながるが、 [A-2] の場合は、3.6 節で見たように、 同じ特性族の接触不連続 front 同士、および膨張 front 同士は 衝突しないとしているから、 膨張 front に衝突する他方は衝撃 front となり、 3.6 節の 2. のように 生成する front は $\bar{\sigma}_j<0$、 すなわち衝撃 front につながることもありうる。

[S-1] の場合も、膨張 front は膨張 front で延長されるが、 [S-2] の場合はやはり衝撃 front との衝突となるので、 $\bar{\sigma}_j=\sigma'_j+\sigma''_j$ より負になって 衝撃 front につながりうる。 [S-3] の場合は膨張 front は膨張 front のままである。

この p138 5. の (7.61) の評価は、すべての膨張 front に対して 成り立つことを示すもので、しかもその証明より、 出発点からずっと膨張 front であることが重要である。 よって、むしろ前方に front を延長するよりも、 front 接続を「後方」に膨張 front で延長できるかを考えてみよう。

膨張 front が新たに生成するのは、$t=0+$ での初期階段関数に対する近似解、 および [A-1]$\sim$[S-3] のうち、 [A-1] と [A-2] の流入 front とは異なる特性族に発生する膨張 front のみ であり、それ以外は流入 front と同じ特性族の front のみで、 流入 front 自身に膨張 front が含まれていなければ膨張 front は生成されない。

これらの新たな膨張 front は、流入 front とは別の特性族なので 要請 (P), (P') の影響は受けず、 よって front の大きさは必ず $\delta$ 以下であることに注意する。

次に、$t>0$ にある膨張 front は、それが新たな膨張 front でなければ、 後方、すなわち $t$ の減る方向には必ず一意に膨張 front につながることを 示そう。

$t=\tau$ の衝突時刻でその膨張 front が生成され、 かつそれが新たなものでない場合、

以上により、膨張 front は、新規の膨張 front に行きあたるまで、 膨張 front のまま後方に一意的に延長できることがわかった。

今、そのように後方にのばした膨張 front 接続を $\sigma_\alpha(t)$ ($t_0\leq t<t_1$) と書くことにする。 先の方はわからないが、少なくとも

  $\displaystyle
\sigma_\alpha(t)>0\hspace{0.5zw}(t_0\leq t<t_1),
\hspace{1zw}0<\sigma_\alpha(t_0)\leq \delta$ (24)
であることがわかる。以下、[1] に従って、(7.61) の証明を考える。 なお、p139 (7.62) にある $\mathcal{A}(\alpha)$, $V_\alpha(t)$ は、 本稿の記号では
  $\displaystyle
\mathcal{A}(\alpha)=Aw(\sigma_\alpha(t)),
\hspace{1zw}V_\alpha(t)=Sw(\sigma_\alpha(t))$ (25)
を意味する。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03