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9 数値計算結果

最後に、元の問題に対する数値計算結果を紹介する。 元々の問題には、 $S=\pi r\sqrt{h^2+r^2}$ で求めて構わないか、 という要請も含まれているが、それに対する回答にもなっている。 なお、この節でも元々の問題の条件、 すなわち $a=b=p=r$, $q=0$ で考えることにする。

この場合、$S$7 節で見たように

\begin{displaymath}
S=r\int_0^\pi\sqrt{h^2+r^2(1-\cos\theta)^2}\, d\theta
\end{displaymath}

であり、この $S$ と直円錐の場合の側面積 $\pi r\sqrt{h^2+r^2}$ との比を考えて、その比 ($=$ 相対誤差) がどれくらいになるのかを見ることにする。 つまり、

\begin{eqnarray*}F &=&
\frac{S}{\pi r\sqrt{h^2+r^2}}
=
\frac{\displaystyle r...
...}{H+1}}\, d\theta\\
&& \left(H=\hat{h}^2=\frac{h^2}{r^2}\right)\end{eqnarray*}

$H$ の関数 $F=F(H)$ と見て、この値の増減を調べることにする。 容易に分かるように、

\begin{eqnarray*}\lim_{H\rightarrow+0}F(H)
&=&
\frac{1}{\pi}\int_0^\pi\sqrt{(1...
...ghtarrow+\infty}F(H)
&=&
\frac{1}{\pi}\int_0^\pi 1\, d\theta =1\end{eqnarray*}

なので、$H>0$ のどこかで最大値、または最小値を取ることはわかる。 しかし闇雲に数値計算するのも大変なので、 まずおおまかに $F(H)$ の増減を調べてみることにする。 微分と積分の順序交換の定理を使って $F(H)$ の導関数を計算する。

\begin{eqnarray*}F'(H) &=&
\frac{d}{dH}\frac{1}{\pi}\int_0^\pi\sqrt{\frac{H+(1-...
...ial}{\partial H}
\sqrt{\frac{H+(1-\cos\theta)^2}{H+1}}\, d\theta\end{eqnarray*}

ここで、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{\partial}{\partial H}\sqrt{\frac{H+(1-\cos\theta...
...-3/2}G(\cos\theta)
\hspace{1zw}(G(X)=X(2-X)\{H+(1-X)^2\}^{-1/2})\end{eqnarray*}

となる。よって、

\begin{eqnarray*}F'(H)
&=&
\frac{(H+1)^{-3/2}}{2\pi}\int_0^\pi G(\cos\theta)\...
...heta)\, d\theta
+\int_{\pi/2}^\pi G(\cos\theta)\, d\theta\right)\end{eqnarray*}

となるが、この後者の積分で $\theta=\pi-\phi$ とすると、

\begin{eqnarray*}F'(H)
&=&
\frac{(H+1)^{-3/2}}{2\pi}\left(\int_0^{\pi/2}G(\co...
...int_0^{\pi/2}
\left\{G(\cos\theta)+G(-\cos\theta)\right\}d\theta\end{eqnarray*}

となる。この $G(\cos\theta)+G(-\cos\theta)$ の符号を調べてみる。 $X=\cos\theta$ とすると、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{G(X)+G(-X)}\\
&=&
\frac{X(2-X)}{\sqrt{H+(1-X)^2}}+\...
...
&&
\times\frac{X}{(2-X)\sqrt{H+(1+X)^2}+(2+X)\sqrt{H+(1-X)^2}}\end{eqnarray*}

となるが、 $0\leq\theta\leq\pi/2$ では $0\leq X\leq 1$ なので、 最後の式の前の方の分母と後ろの方の分数式全体は 0 以上、 よって、符号は前の方の分子の式で決まる。 これを展開すると、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{(2-X)^2\{H+(1+X)^2\}-(2+X)^2\{H+(1-X)^2\}}\\
&=&
H...
...X^2)^2-(2-X-X^2)^2\\
&=&
-8XH+2X(4-2X^2)\\
&=&
4X(2-X^2-2H)\end{eqnarray*}

となる。よって、 $G(\cos\theta)+G(-\cos\theta)$ の符号は $2-X^2-2H=2-\cos^2\theta-2H$ で決まることになるので、 となる。よって、$F(H)$ の増減は後は $1/2\leq H\leq 1$ の値で決まることになり、 多分この区間内に $F(H)$ の最大値があると予想される。 つまりこの区間でだけ $F(H)$ の値を調べてみれば良い。

なお、元の出題者が必要としていた $h/r$ の値は $2\leq h/r\leq 4$ 位で あるらしいので、 $4\leq H\leq 16$ での最大値も必要となるが、 それは上の考察から $H=4$ のときの値となる。 よって、 $1/2\leq H\leq 1$、および $H=4$ (ついでに $H=16$) での $F(H)$ の 値を数値計算すればいいことになる。

積分の数値計算には、良く用いられるシンプソンの公式を使用する。 シンプソンの公式は、 $\int_a^b f(x) dx$ の積分を、 区間 $a\leq x\leq b$$2N$ 等分して、 $\Delta x=(b-a)/2N$ とするとき、

\begin{eqnarray*}\int_a^b f(x)dx &=&
\frac{\Delta x}{3}(f_0+4f_1+2f_2+4f_3+2f_5...
...2f_{2N-2}+4f_{2N-1}+f_{2N})\\
&& (x_j=a+j\Delta x,\ f_j=f(x_j))\end{eqnarray*}

によって近似計算する方法である。これを $F(H)$ に用いる。

$H=1/2+j/2000$ ( $j=0,1,\ldots,1000$) に対する $F(H)$ の値を、 $N=10000$ に対するシンプソンの公式を用いて数値計算して得た値を グラフにしたのが図 8 である。 横軸が $H$ を、縦軸が $F(H)$ を表している。

図 8: $F(H)$ のグラフ ( $1/2\leq H\leq 1$)
\includegraphics[width=0.6\textwidth]{test10.eps}
これを見て分かるように $H=0.6245$ ($h/r=0.7903$) 付近で最大値約 1.0727 をとり、 その両側では単調になっている。

また、$F(4), F(16)$ はそれぞれ $F(4)=1.0399$, $F(16)=1.0137$ 位であった。 結局、$F(H)$

ということになる。

質問者に取っては相対誤差は 1.0399 位、 その範囲を越えても高々 1.0727 位になるわけであるが、 これくらいの値になると報告してみたところ、 他の要因のためにも少し余裕を見ているのでこれくらいの誤差なら全く問題はない、 ということであった。


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Shigeharu TAKENO 2005年 2月 28日