5 オイラーの公式を用いた積の公式の証明

[2] では、 オイラーの公式を用いた考察もしているが、 その方法を用いれば (10), (11) は、 前節の方法よりはかなり易しく示すことができる。 本節ではその証明を紹介する。

そしてついでに (12), (13) も 同じ方法で証明するが、 多分 [2] で触れている (12) の 証明 (証明自体は書かれていない) も同様の方法を用いるのだろうと思う。

なお、この方法の場合は、前節で扱った (11) よりも (10) の方が取り扱いは易しいので、こちらを考えることにする。 オイラーの公式を用いて $\sin$ を指数関数で表せば、

\begin{eqnarray*}F_n(x)
&=&
\prod_{k=0}^{n-1}\sin\left(x + \frac{2\pi}{n}\,k\r...
.../n\}}
\times
\prod_{k=0}^{n-1}\left(e^{2i(x+2\pi k/n)}-1\right)\end{eqnarray*}


と変形できる。ここで、$\prod$ の前の部分は、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{2^{-n}i^{-n}e^{-i\{nx+(2\pi/n)\cdot n(n-1)/2\}}
\ =\ ...
...-1}
\ =\
-2^{-n}i^ne^{-inx}
\ =\
-2^{-n}e^{-inx}e^{in\pi/2}\end{eqnarray*}


であり、また $\prod$ の部分は、
\begin{displaymath}
\prod_{k=0}^{n-1}\left(e^{2i(x+2\pi k/n)}-1\right)
=
\pro...
...t(1-e^{i(x+2\pi k/n)}\right)
\left(-1-e^{i(x+2\pi k/n)}\right)\end{displaymath} (19)

と変形できるが、 $e^{i(x+2\pi k/n)}$ は、$y$ に関する $n$ 次方程式 $y^n=e^{inx}$$n$ 個の解であるから、代数学の基本定理により恒等式
\begin{displaymath}
y^n-e^{inx} = \prod_{k=0}^{n-1}\left(y-e^{i(x+2\pi k/n)}\right)\end{displaymath} (20)

が成り立つはずである。 これを用いれば、(19) は、(20) に $y=1$ を 代入したものと $y=-1$ を代入したものの積なので、 これらを合わせると $F_n(x)$
\begin{displaymath}
F_n(x)
=
-2^{-n}e^{-inx}e^{in\pi/2}(1-e^{inx})\left((-1)^n-e^{inx}\right)
\end{displaymath}

と書けることになる。ここで、 $(-1)^n=e^{-in\pi}$ とすると、
$\displaystyle F_n(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -2^{-n}e^{in\pi/2}(e^{-inx}-1)(e^{-in\pi}-e^{inx})$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -2^{-n}e^{in\pi/2}(e^{-in(x+\pi)}-1-e^{-in\pi}+e^{inx})$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -2^{-n}(e^{-in(x+\pi/2)}+e^{in(x+\pi/2)}-e^{in\pi/2}-e^{-in\pi/2})$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -2^{1-n}\left\{\cos n\left(x+\frac{\pi}{2}\right)
- \cos\frac{n\pi}{2}\right\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2^{n-1}}\left\{\cos\frac{n\pi}{2}
-\cos n\left(x+\frac{\pi}{2}\right)\right\}$ (21)

となることがわかる。

ここで、$n$ が奇数なら $\cos(n\pi/2)=0$ なので $\cos(n\pi/2)=(-1)^n\cos(n\pi/2)$ であるし、 また加法定理により、

\begin{eqnarray*}\cos n\left(x+\frac{\pi}{2}\right)
&=&
\cos\left(n\left(x-\fr...
...t)\cos n\pi - 0
\\ &=&
(-1)^n\cos n\left(x-\frac{\pi}{2}\right)\end{eqnarray*}


となるので、よって (21) は、
\begin{eqnarray*}F_n(x)
&=&
\frac{(-1)^n}{2^{n-1}}\left\{\cos\frac{n\pi}{2}
-...
...\{\cos n\left(x-\frac{\pi}{2}\right)
-\cos\frac{n\pi}{2}\right\}\end{eqnarray*}


と書き直すことができ、これで (10) が示されたことになる。

$F_n(x+\pi/2)=G_n(x)$ であるから、(11) は (10) に $x+\pi/2$ を代入すれば得られる。

(12) は、(10) から得られなくもない が ($F_{2n}(x)$ を用いればよい)、 ここでは $F_n(x)$ と同様の手法で直接示すことにする。 (12) の左辺を $\hat{F}_n(x)$ とすると、

\begin{eqnarray*}\hat{F}_n(x)
&=&
\prod_{k=0}^{n-1}\sin\left(x + \frac{k\pi}{n...
...1)\pi/2}(-1)^n
\prod_{k=0}^{n-1}\left(1-e^{i(2x+2k\pi/n)}\right)\end{eqnarray*}


となるが、(20) の $x$$2x$ としたものに $y=1$ を代入すれば、
\begin{eqnarray*}\hat{F}_n(x)
&=&
2^{-n}(-i)^ne^{-inx}e^{-i(n-1)\pi/2}(-1)^n(1...
...inx}-e^{inx})
\\ &=&
2^{-n}i(-2i\sin nx)
\ =\
2^{1-n}\sin nx\end{eqnarray*}


となり、(12) が得られる。 さらにこの式で $x$$x+\pi/2$ とすれば (13) が 得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年12月8日