4 連立漸化式
次に、連立の定数係数線形漸化式について考えてみる。
例えば、フィボナッチ数列の 2 つの解
には、 が含まれているが、
これらを展開すればいずれも有理数と の有理数倍の和で書ける。
実際、二項定理により
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(13) |
(, は有理数) の形になることが容易にわかる。
この , の満たす漸化式を考えてみよう。
であるから、
となる。よって、
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(14) |
となることがわかる。
これに , を与えることで、
順次 , , , ,...と数列の値が決まっていくことになる。
一般に、 次元列ベクトルの列
と、成分が定数である 行列 に対して、
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(15) |
を 定数係数連立線形同次漸化式 と呼ぶ。(14) は、
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(16) |
の場合になっている。
(15) より、 は、
のようになるから、一般に
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(17) |
と書けることがわかる。
よって、
この行列の 乗の を行列の対角化などを使って求めれば、
(17) によって一般項 が求まることになるが、
それは少し難しい。
一方で、(15) を 2, 3 節で
考察した単独の (連立でない) 線形同次漸化式に帰着させる方法もある。
ここではそちらの方を説明する。
行列 の固有方程式を
とすると、 は の係数が 1 の 次式になる。
この を
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(18) |
と書く () と、良く知られているようにケーリー・ハミルトンの関係式
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(19) |
(ただし、) が成り立つ。
この両辺を右から 倍すると
となるが、(17) よりこれは
と書ける。そしてこれは、
の成分 すべてが、同じ線形同次漸化式
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(20) |
を満たすことを意味している。
なお、この は、 の定数項であるから、
となっている。
よってこれが条件 (4) を満たすことは 、
すなわち が正則であることと同値となる。
以下、 は正則であるとして考える。
この場合は、3 節で見たように特性方程式により解が求まる。
(20) の特性方程式は、
(18) より固有方程式 自体であるから、
つまり の固有方程式の解である固有値によって (20) の解が求まることになる。
それによる (20) の 個の一次独立な解を
とし、
とすると、次が言える。
補題 3
(
) が一次独立なら 次元列ベクトル , , ... も一次独立。
証明
, , ... が一次独立でないとすれば、
行列
の行列式の値は 0 となる。よって、この行列の行ベクトル
, , ..., も一次独立ではないことになる。
ここで、
であるから、これらが一次従属ならば、
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(21) |
である定数 に対して、
と書けることになる。成分で見ればこれは、
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(22) |
が
に対して成り立つことを意味する。
(20) を考えれば、この (22) は に対しても成り立つことになる。
例えば に対しては、
が (22) から言える。以下同様である。
そして (21) と (22) は、
(
) が一次従属であることを意味する。
(
) は、
(20) の 個の一次独立な解であるから、
命題 1 によって の成分 はそれらの
一次結合で表される。よって、
のようになるので、
これにより はこの係数による行列 と により
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(23) |
と書けることになる。後は、この係数行列 を初期値から決めればよい。
すなわち、 を と を用いて表せばよいことになる。
(23) の
の式を行列にまとめて書けば、
となるが、補題 3 より
行列
は正則であり、
また (17) を用いて左辺を書き直せば、結局 は
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(24) |
と書けることになる。
この (23) と (24) により、
行列 の 乗の計算をせずに連立漸化式の解が求められることになる。
例として、今の方法を (14) に適用してみる。
初期値は、題意より , とする。
この場合、 は (16) より、固有方程式は
となって、結局フィボナッチ数列の特性方程式と同じになる。
よって、一次独立な二つの解は
であり、よって
つまり、
と書ける。この係数行列を求めるには、, を考えれば、
より、
となるので、
より、結局、
となる。
は、, に対するフィボナッチ数列の解、
は , に対するフィボナッチ数列の解となっていて、
これらは 2 節の最後の , を用いれば、
と書けることもわかる。
なお、この最後の と ( 元々のフィボナッチ数列 ) との関係は、(13) からもわかる。すなわち、
(2) および (13) より、
だからである。つまり、元のフィボナッチ数列の値は、
の の係数である有理数の 2 倍であることになる。
さらに、(9) より、
であるから、
となり、そして
は
フィボナッチ数列 を用いて
と書けることになる。
竹野茂治@新潟工科大学
2009年8月5日