4 II の解と楕円関数

本節では II の場合の方程式 (12) を考える。 (12) は書きかえると、
$\displaystyle (\theta')^2
= 4\omega_0^2\left(\sin^2\frac{\theta_0}{2}-\sin^2\frac{\theta}{2}\right)
$
となり、 $\alpha=\sin(\theta_0/2)$ とすると $0<\theta_0<\pi$ より $0<\alpha<1$ となり、 $\theta$ の動く範囲は $-\theta_0\leq\theta\leq\theta_0$ だったので、
$\displaystyle
\xi = \frac{1}{\alpha}\sin\frac{\theta}{2}
= \frac{\sin(\theta/2)}{\sin(\theta_0/2)}$ (14)
とすると $\theta$$\xi$ は 1 対 1 に対応し、 $-1\leq\xi\leq 1$ で、
$\displaystyle (\xi')^2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{4\alpha^2}(\theta')^2\cos^2\frac{\theta}{2}
\ =\
\frac{...
...2}{\alpha^2}\cos^2\frac{\theta}{2}
\left(\alpha^2-\sin^2\frac{\theta}{2}\right)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\omega_0^2}{\alpha^2}(1-\alpha^2\xi^2)(\alpha^2-\alpha^2\xi^2)
\ =\
\omega_0^2(1-\alpha^2\xi^2)(1-\xi^2)$(15)
となる。

まず、(15) の $\omega_0=1$ に対する方程式

$\displaystyle
(z')^2 = (1-z^2)(1-\alpha^2z^2)\hspace{1zw}(z=z(t))$ (16)
の解を考える。これは、変数分離形で、よってその解は、
$\displaystyle
E_1(z,\alpha) = \int_0^z \frac{ds}{\sqrt{(1-s^2)(1-\alpha^2s^2)}}$ (17)
により表されることになる。 この $E_1(z,\alpha)$ は第 1 種楕円積分と呼ばれ、 この逆関数が通常楕円関数と呼ばれる。 その状況を少し詳しく考える。

$0<\alpha<1$ では (17) は $z=\pm 1$ でも収束するので、 $E_1(z,\alpha)$ $-1\leq z\leq 1$ で定義された関数となる。 その $z=1$ での値

$\displaystyle
E_1(1,\alpha)=K_1(\alpha)
=\int_0^1 \frac{ds}{\sqrt{(1-s^2)(1-\alpha^2s^2)}}$ (18)
は第 1 種完全楕円積分と呼ばれる。


命題 1

  1. $E_1(z,\alpha)$$-1\leq z\leq $ で単調増加な奇関数で、 値域は $[-K_1(\alpha),K_1(\alpha)]$
  2. $E_1(z,\alpha)$ の変曲点は $z=0$ のみで、$0<z<1$ では下に凸。
  3. $E_1(z,+0)=\arcsin z$, $K_1(+0) = \pi/2$, $(E_1)_z(1-0,\alpha)=\infty$


証明

1. は容易。

2. は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left(\{(1-z^2)(1-\alpha^2z^2)\}^{-1/2}\right)'}
\\ &...
...=&
\{(1-z^2)(1-\alpha^2z^2)\}^{-3/2}z(1+\alpha^2-2\alpha^2z^2)
\end{eqnarray*}
と、$0<\alpha<1$ より $(1+\alpha^2)/(2\alpha^2)>1$ から得られる。

3. は、Lebesgue 単調収束定理から容易に示される。


この命題 1 より、$E_1(z,\alpha)$ のグラフは $\arcsin z$ のグラフと同様の形となることがわかる。 そして、この $E_1(z,\alpha)$ の逆関数

$\displaystyle
E_1(z,\alpha)=u\Leftrightarrow z=G(u,\alpha)$ (19)
を通常 $z=\mathrm{sn}(u,\alpha)$ と書く。 これが楕円関数の一つである。

しかし、この $G(u,\alpha)$ は、 今のところ定義域が $[-K_1(\alpha),K_1(\alpha)]$、 値域が $[-1,1]$ の単調増加な連続関数であるが、 それに対し楕円関数 $\mathrm{sn}(u,\alpha)$ は、 本来この $G(u,\alpha)$ の定義域を後で述べるように 実数全体に拡張した周期関数を指す。 本稿では、拡張前の逆関数と、それを拡張した楕円関数を区別して書くこととし、 $\mathrm{sn}$ の記号はあえて用いないこととする。


補題 2

  1. $f(x)$ $(a-\delta,a+\delta)$ $(\delta>0)$ で連続で、 $x=a$ 以外では微分可能であり、 $f'(a+0)=f'(a-0)=A$ (有限値) のとき、 $f(x)$$x=a$ でも微分可能で $f'(a)=A$ となる。
  2. $f(x)$$[-a,a]$ $(a>0)$ 上の奇関数であるとき、
    $\displaystyle
\begin{array}{l}
\bar{f}(x) = \left\{\begin{array}{ll}
f(x) & ...
....5zh]
\bar{f}(x+4a) = \bar{f}(x) \hspace{1zw}(-\infty <x<\infty)
\end{array} $ (20)
    のように実数全体で定義される周期関数に拡張した $\bar{f}(x)$ も 奇関数であり、もし $f(x)$$(-a,a)$$C^2$ 級で、 かつ $f'(a-0)=0$, $f''(a-0)=B$ (有限値) であれば $\bar{f}$$C^2$ 級となる。
  3. $f(x)$$[-a,a]$ $(a>0)$ 上の奇関数であるとき、 任意の整数 $m$ に対し、
    $\displaystyle
\hat{f}(x) = f(x-2ma) + 2mf(a)
\hspace{1zw}((2m-1)a\leq x\leq (2m+1)a)
$ (21)
    として実数全体で定義される関数に拡張した $\hat{f}(x)$ も奇関数であり、 もし $f(x)$$(-a,a)$$C^2$ 級で、 かつ $f'(a-0)=B$ (有限値), $f''(a-0)=0$ であれば $\hat{f}$$C^2$ 級となる。


証明

1. 平均値の定理より、 $-\delta<h<\delta$, $h\neq 0$ なる各 $h$ に対し

$\displaystyle \frac{f(a+h)-f(a)}{h} = f'(a+hb_h)
$
$0<b_h<1$ となる $b_h$ が取れ、 よってこの式は $h\rightarrow \pm 0$ のときいずれも $A$ に収束する。

2. まず $\bar{f}$ が奇関数であることを示す。 $(4m+1)a\leq x\leq (4m+3)a$ のときは、 $a\leq x-4ma\leq 3a$ なので、

$\displaystyle \bar{f}(x)
= \bar{f}(x-4ma)
= -f(x-4ma-2a)
$
であり、一方 $-x$ $a\leq -x+(4m+4)a\leq 3a$ で、 $f$ は奇関数なので、
$\displaystyle \bar{f}(-x)
= \bar{f}(-x+(4m+4)a)
= - f(-x+(4m+2)a)
= f(x-(4m+2)a)
$
より $\bar{f}(-x)=-\bar{f}(x)$ となる。

$(4m+3)a\leq x\leq (4m+5)a$ のときは、 $-a\leq x-(4m+4)a\leq a$ より、

$\displaystyle \bar{f}(x)
= f(x-(4m+4)a)
$
であり、$-x$ $-a\leq -x+(4m+4a)\leq a$ より
$\displaystyle \bar{f}(-x)
= f(-x+(4m+4)a)
= - f(x-(4m+4)a)
$
よりやはり $\bar{f}(-x)=-\bar{f}(x)$ となる。

次は $C^2$ 級についてであるが、$\bar{f}$ は奇関数で周期 $4a$ なので、 導関数の連続性については $x=a$ のところだけを考えればよい。

$[-a,a]$ では $\bar{f}'(x)=f'(x)$$[a,3a]$ では $\bar{f}'(x)=-f'(x-2a)$ で、 $f'(x)$ は偶関数なので、

$\displaystyle \bar{f}'(a-0)=f'(a-0)=0,
\hspace{1zw}\bar{f}'(a+0)=-f'(-a+0)=-f'(a-0) = 0
$
となり、1. より $\bar{f}'(a)$ も 0 となり、 よって $\bar{f}$$C^1$ 級となる。

$[-a,a]$ では $\bar{f}''(x)=f''(x)$$[a,3a]$ では $\bar{f}''(x)=-f''(x-2a)$ で、 $f''(x)$ は奇関数なので、

$\displaystyle \bar{f}''(a-0)=f''(a-0)=B,
\hspace{1zw}\bar{f}''(a+0)=-f''(-a+0)=f''(a-0)=B
$
となり、1. より $\bar{f}''(a)$$B$ となり、よって $C^2$ 級となる。

3. 連続性は容易。奇関数であることは、 $(2m-1)a\leq x\leq (2m+1)a$ の ときは、 $(-2m-1)a\leq -x\leq (-2m+1)a$ より

$\displaystyle \hat{f}(-x) = f(-x+2ma) - 2mf(a) = -f(x-2ma)-2mf(a) =-\hat{f}(x)
$
となることからわかる。$C^2$ 級であることも $x=a$ のところだけを 考えればよい。 $a\leq x\leq 3a$ では $\hat{f}(x)=f(x-2a)+2f(a)$ より $\hat{f}'(x)=f'(x-2a)$,
$\hat{f}''(x)=f''(x-2a)$ となる。 よって、$f'(x)$ が偶関数、$f''(x)$ が奇関数であることにより、
\begin{eqnarray*}\hat{f}'(a+0)
&=&
f'(-a+0) = f'(a-0) = B = \hat{f}'(a-0),
...
...hat{f}''(a+0)
&=&
f''(-a+0) = -f''(a-0) = 0 = \hat{f}''(a-0)
\end{eqnarray*}
より、1. により $\hat{f}'(a)=B$, $\hat{f}''(a)=0$ となり $C^2$ 級 となる。


$E_1(z,\alpha)$ の逆関数 $G(u,\alpha)$ は、 $u$ に関して単調増加な奇関数で、 命題 1 の 3. により $G_u(K_1(\alpha)-0,\alpha)=
G_u(-K_1(\alpha)+0,\alpha)=0$ となる。 これは $\sin u$ $-\pi/2\leq u\leq \pi/2$ でのグラフに似た形となる。

そして、この $G(u,\alpha)$ を、補題 2 の 2. により 周期関数に拡張した $\bar{G}(u,\alpha)$ が、 いわゆる楕円関数 $\mathrm{sn}(u,\alpha)$ である。 よって、 $\bar{G}(u,\alpha)$$C^2$ 級であることを示すには、 あとは $G_{uu}(K_1(\alpha)-0,\alpha)$ が有限な値であることを示せばよい。

$\displaystyle E_1(G(u,\alpha))=u
$
より、$u$ で微分すると
$\displaystyle (E_1)_z(G(u,\alpha),\alpha)G_u(u,\alpha) = 1
$
だから
$\displaystyle
G_u(u,\alpha)
= \frac{1}{(E_1)_z(G(u,\alpha),\alpha)}
= \sqrt{(1-G^2)(1-\alpha^2G^2)}$ (22)
となる。よって、
$\displaystyle
G_{uu}(u,\alpha)
=
\frac{(-2G-2\alpha^2G+4\alpha^2G^3)G_u}{2\sqrt{(1-G^2)(1-\alpha^2G^2)}}
=
-(1+\alpha^2)G+2\alpha^2G^3$ (23)
となるから、
$\displaystyle G_{uu}(K_1(\alpha)-0,\alpha)
= -(1+\alpha)^2+2\alpha^2
= \alpha^2-1
$
となり、よって補題 2 の 2. により $G(u,\alpha)$$C^2$ 級であることがわかる。 実際は、さらに上の階数の導関数も連続で、解析的につながることが 知られている。

さて、II の (15) の解に戻る。 特異解 $\xi(t)=\pm 1$ 以外の解は、

$\displaystyle \xi' = \pm\omega_0\sqrt{(1-\xi^2)(1-\alpha^2\xi^2)}
$
を変数分離して、
$\displaystyle E_1(\xi,\alpha)=\pm(\omega_0 t + c_2)
$
となり、よって局所的、 すなわち $-K_1(\alpha)\leq\omega_0t + c_2\leq K_1(\alpha)$ である $t$ に対しては、
$\displaystyle \xi(t) = \pm G(\omega_0 t+c_2,\alpha)
$
として解が求まることになる。 すなわち、 $G(\omega_0 t,\alpha)$, $-G(\omega_0 t,\alpha)$ と それらの平行移動が局所的な解となる。 そしてその「最大延長解」は、$G$, $-G$ とその平行移動から 構成される $C^2$ 級関数 $\bar{G}$ で表現されることになり、 また $-\bar{G}(u,\alpha)=\bar{G}(u-2K_1(\alpha),\alpha)$ より $-\bar{G}$$\bar{G}$ の平行移動として表されるから、 よって (15) の実数全体で定義される一般解は、
$\displaystyle
\xi(t) = \bar{G}(\omega_0 t + c_2,\alpha)$ (24)
と表されることがわかった。よって、(14) より $\theta$ は、
$\displaystyle
\theta(t) = 2\arcsin(\alpha\bar{G}(\omega_0 t + c_2,\alpha))$ (25)
となる。(14) より $\xi=\pm 1$ は解とはならないので、 これが (12) の一般解となる。 $0<\alpha<1$ ではこれは滑らか (少なくとも $C^2$ 級) で、周期
$\displaystyle
P_{II}
= \frac{4}{\omega_0}K_1(\alpha)
= 4K\left(\sin\frac{\theta_0}{2}\right)\sqrt{\frac{\ell}{g}}$ (26)
を持つ周期関数で、振幅は
$\displaystyle \vert\theta(t)\vert\leq 2\arcsin(\alpha) = \theta_0
$
となる。振幅 $\theta_0$ $\theta_0\doteqdot 0$ ならば、 周期 (26) は (8) の $P_\ell$ に近いが ($K_1(+0) = \pi/2$)、 そうでなければ周期は $\ell$ だけでなく振幅 $\theta_0$ にも 依存する振動となる。

特に、 $\theta_0\rightarrow\pi-0$ のときは、 $\alpha\rightarrow 1-0$ より、 $K_1(\alpha)\rightarrow K_1(1-0) = \infty$ となることが Lebesgue 単調収束定理より示される。 それは、次節の III の $c_1=2\omega_0^2$ の場合に対応する。

なお、$\theta_0$ に対する解の周期と、 $\theta_0=0$ に対する解の周期の比

$\displaystyle R(\theta_0) = \frac{K_1(\sin(\theta_0/2))}{K_1(0)}
= \frac{2}{\pi}K_1\left(\sin\frac{\theta_0}{2}\right)
$
は、 以下のようになる。
$\theta_0$ $30^\circ$ $45^\circ$ $60^\circ$ $90^\circ$ $120^\circ$ $135^\circ$ $150^\circ$
$R(\theta_0)$ 1.017 1.040 1.073 1.180 1.373 1.528 1.762
$R(\theta_0)$$\theta_0$$180^\circ$ では無限になるが、 2 を越えるのは $160^\circ$、 3 を越えるのは $176^\circ$、 4 を越えるのは $179.2^\circ$ なので、 $180^\circ$ にかなり近づかないとそれほど大きな値になるわけではない。

なお、最近の gnuplot には完全楕円関数が実装されていて、 上の値はそれで計算したものである。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-12-06