7 ベッセルホーン

最後に、いわゆる「ベッセルホーン」について考察する。 これは、
$\displaystyle A(x) = A_0(M-x)^{-2\tau}\hspace{1zw}(\tau>0,\ M\geq L)
$
の場合である。 $M=L$ だと、開口端 $x=L$$A(x)=\infty$ となるので現実的ではないし、 大きい $A(x)$ に対しては方程式そのものの妥当性も薄れてしまうが、 近似的な状況を考えるにはシンプルで、考えやすいモデルかもしれない。 しばらくは、$M>L$ として考える。 $A_0=1$ としてよい。

この場合は、

  $\displaystyle
g(x) = (M-x)^{\tau+1/2}\hat{g}(M-x)$ (21)
とし、$\nu=\tau+1/2$, $y=M-x$ とすると、$\tau=\nu-1/2$ より、
\begin{eqnarray*}Ag'
&=&
y^{-2\tau}\frac{d}{dx}(y^\nu\hat{g}(y))
\\ &=&
-\nu...
...k^2 y^{-2\tau}y^{\nu}\hat{g}(y)
\ =\
-k^2 y^{-\nu+1}\hat{g}(y)\end{eqnarray*}
となるので、$\hat{g}(y)$ が満たす方程式は、
  $\displaystyle
\hat{g}''(y) + \frac{1}{y}\hat{g}'(y)
+\left(k^2-\frac{\nu^2}{y^2}\right)\hat{g}(y) = 0$ (22)
となる。これは、 $\hat{g}(y)=\bar{g}(ky)$, $ky=\xi$ とすると、
$\displaystyle k^2\bar{g}''(\xi)+\frac{k^2}{\xi}\bar{g}'(\xi)
+\left(k^2-\frac{\nu^2k^2}{\xi^2}\right)\bar{g}(\xi) = 0
$
となり、よって $\bar{g}(\xi)$ は、いわゆるベッセルの微分方程式
$\displaystyle \bar{g}''(\xi)+\frac{1}{\xi}\bar{g}'(\xi)
+\left(1-\frac{\nu^2}{\xi^2}\right)\bar{g}(\xi) = 0
$
を満たすことになる。その一般解は、特殊関数の $\nu$ 次ベッセル関数 $J_{\nu}$$\nu$ 次ノイマン関数 $N_{\nu}$ を用いて
$\displaystyle \bar{g}(\xi)=C_1J_{\nu}(\xi)+C_2N_{\nu}(\xi)
$
と書ける (例えば [1] 第 VI 篇 36、[2] 等)。 よって $\hat{g}(y)$ は、
  $\displaystyle
\hat{g}(y)=C_1J_{\nu}(ky)+C_2N_{\nu}(ky)$ (23)
となる。

(21) より、境界条件 (8) を $\hat{g}$ に書き直すと、

$\displaystyle g(L) = (M-L)^{\nu}\hat{g}(M-L)=0,
\hspace{1zw}
g'(0) = -\nu M^{\nu-1}\hat{g}(M)-M^{\nu}\hat{g}'(M) = 0
$
より
$\displaystyle \hat{g}(M-L) = 0,\hspace{1zw}\nu\hat{g}(M)+M\hat{g}'(M) = 0
$
となる。これを (23) に代入すると、 前者は
  $\displaystyle
C_1 J_{\nu}(k\delta))+C_2 N_{\nu}(k\delta) = 0
\hspace{1zw}(\delta=M-L>0)$ (24)
となり、後者は
$\displaystyle {\nu\hat{g}(M)+M\hat{g}'(M)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle C_1(\nu J_{\nu}(kM) + kMJ_{\nu}'(kM))
+C_2(\nu N_{\nu}(kM) + kMN_{\nu}'(kM)) = 0$ (25)
となる。ところで、ベッセル関数、ノイマン関数は、 次の公式を満たすことが知られている ([1] 第 VI 篇 38)。
  $\displaystyle
(\xi^{\nu} J_{\nu}(\xi))' = \xi^{\nu}J_{\nu-1}(\xi),
\hspace{1zw}
(\xi^{\nu} N_{\nu}(\xi))' = \xi^{\nu}N_{\nu-1}(\xi)$ (26)
これにより、
$\displaystyle \nu J_{\nu}(\xi)+\xi J_{\nu}'(\xi) = \xi J_{\nu-1}(\xi),
\hspace{1zw}
\nu N_{\nu}(\xi)+\xi N_{\nu}'(\xi) = \xi N_{\nu-1}(\xi)
$
となるので、これにより条件 (25) は、
  $\displaystyle
C_1 J_{\nu-1}(kM) + C_2 N_{\nu-1}(kM)=0$ (27)
と書き換えられる。ここで、
$\displaystyle W_{\nu}(X,Y) = \left\vert\begin{array}{ll}
J_{\nu}(X) & N_{\nu}(X)\\
J_{\nu-1}(Y) & N_{\nu-1}(Y)
\end{array} \right\vert
$
と書くことにすると、$C_1$, $C_2$ の条件式 (24), (27) の 係数行列の行列式は $W_{\nu}(k\delta, kM)$ となるので、 この行列式が 0 でなければ $C_1=C_2=0$ となって 0 以外の解が求まらないことになるので、 0 でない解が求まるためには
  $\displaystyle
W_{\nu}(k\delta, kM)
=
\left\vert\begin{array}{ll}
J_{\nu}(...
..._{\nu}(k\delta)\\
J_{\nu-1}(kM) & N_{\nu-1}(kM)
\end{array} \right\vert
= 0$ (28)
が必要となる。そしてこれを満たす $k$ が存在すれば、その $k$ に対し
$\displaystyle C_1 = C_3 N_{\nu-1}(kM), \hspace{1zw}C_2 = -C_3 J_{\nu-1}(kM)
$
となるので、解 $g(x)$
$\displaystyle g(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle (M-x)^{\nu}\hat{g}(M-x)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle C_3(M-x)^{\nu}(N_{\nu-1}(kM)J_{\nu}(k(M-x))-J_{\nu-1}(kM)N_{\nu}(k(M-x))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle C_3(M-x)^{\nu}W_{\nu}(k(M-x),kM)$ (29)
と書けることになる。

これまでのように、(28) を満たす $k$ が 無数に存在するかどうか、 そしてそのとき周波数 $f=ck/(2\pi)$ はどうなるかを考えたいが、 一般の $\nu=\tau+1/2$ の場合には少し難しいので、 ここでは簡単のため、$\tau$ が整数 $n$ の場合を考えてみる。 ベッセル関数、ノイマン関数は $\nu=n+1/2$ の場合は半ベッセル関数と呼ばれ、 $\sin$, $\cos$ で表現されることが知られている ([1] 第 VI 篇 39)。 本節では主に $n=1$ の場合を紹介するが、 これは断面の半径が $R(x)=R_0(M-x)^{-1}$ の円である場合に相当する。

[1] (第 VI 篇 39) によれば、 $J_{n+1/2}$, $N_{n+1/2}$ ( $n=0,1,2,\ldots$) は、

$\displaystyle \begin{array}{ll}
J_{n+1/2}(\xi) &= \displaystyle \sqrt{\frac{2}...
...
\left(\frac{1}{\xi}\,\frac{d}{d\xi}\right)^n\frac{\cos \xi}{\xi}
\end{array}$
と表されるので、$J_{1/2}$, $J_{3/2}$, $N_{1/2}$, $N_{3/2}$ は、
  $\displaystyle
\begin{array}{ll}
\displaystyle J_{1/2}(\xi) = \sqrt{\frac{2}{\...
...2}(\xi)
= -\sqrt{\frac{2}{\pi\xi}}\,\frac{\cos\xi+x\sin\xi}{\xi}
\end{array}$ (30)
となる。よって $W_{3/2}(X,Y)$ は、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{W_{3/2}(X,Y)
\ =\
J_{3/2}(X)N_{1/2}(Y)-N_{3/2}(X)J_...
...sin Y)\}
\\ &=&
\frac{2}{\pi X\sqrt{XY}}\{\sin(Y-X)+X\cos(Y-X)\}\end{eqnarray*}
となる。条件 (28) は、 $kM-k\delta = kM-k(M-L) = kL$ より、
$\displaystyle W_{3/2}(k\delta, kM)
= \frac{2}{\pi k^2\delta\sqrt{\delta M}}(\sin kL+k\delta \cos kL) = 0
$
となるので、(28) を満たす $k$ は、
  $\displaystyle
k = k_n = \frac{(2n-1)\pi}{2L}+\frac{1}{L}T_n\left(\frac{\delta}{L}\right)$ (31)
となり、無数に存在することがわかる。 そして、(29) より解 $g(x)$ は、
$\displaystyle g(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle C_3(M-x)^{3/2}W_{3/2}(k(M-x),kM)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle C_3\frac{2(M-x)^{3/2}}{\pi k^2(M-x)\sqrt{(M-x) M}}(\sin kx+k(M-x)\cos kx)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle C_4(\sin kx+k(M-x)\cos kx)$ (32)
となる。これは、三角関数で表現されているが、 例えば (20) のような 単純にその振幅を変更したものではなく位相も変動し、 その位相のずれも $x$ に依存する。 よって (32) の $g(x)$ に対して「波長」という 呼び方はもはやこの解に対しては適切ではないが、
$\displaystyle g'(x)=-C_4k^2(M-x)\sin kx
$
となるから、$g(x)$ の極大極小の位置は、$x=M$ の前後で反転はするが、 $\cos kx$ のその位置とほぼ同じになる。 つまり $\cos kx$ の波長と同じ「波長」らしきものが $g(x)$ にも 存在すると見ることができ、その「波長」は (31) の $k=k_n$ に対して
$\displaystyle \lambda = 2\pi/k_n
$
となる。

周波数の方は、(31) の $k=k_n$ に対して

  $\displaystyle
f = f_n = \frac{ck}{2\pi}
= \frac{c}{2L}\left\{\frac{(2n-1)}{2}
+\frac{1}{\pi}T_n\left(\frac{\delta}{L}\right)\right\}$ (33)
となる。これも、$\delta\ll L$ であれば $T_n/\pi\doteqdot 1/2$ となるので、 $f_n\doteqdot (cn)/(2L)$ となるから、 その自然倍音列は直開管の自然倍音列の周波数に近くなる。

最後に $M=L$ の場合の話も少し書いておく。 この場合も、(21) の変換によって ベッセルの方程式 (22) が得られ、 その一般解が (23) と表される ことまでは同じである。

境界条件の $g(L)=0$ の方は、 この場合は $g(x)=(L-x)^{\nu}\hat{g}(L-x)$ より $\nu>0$ なら 自然に $g(L)=0$ となりそうであるが、実はそんなに簡単でもない。 $J_{\nu}(x)$ $x\rightarrow+0$ $J_\nu(x)=O(x^\nu)$ な ので $J_\nu(+0)=0$ であるが、 $N_\nu(x)$ の方は $N_\nu(x)=O(x^{-\nu})$ なので $N_\nu(+0)=\infty$ となる。

ただ、

$\displaystyle \lim_{x\rightarrow +0}x^\nu N_{\nu}(x) = m_\nu \neq 0
$
なので、
$\displaystyle g(L)
= \lim_{y\rightarrow +0}y^\nu(C_1 J_\nu(ky)+C_2 N_\nu(ky))
= C_2\frac{m_\nu}{k^\nu} = 0
$
より $C_2=0$ となり、よってこの場合
$\displaystyle g(x) = C_1(L-x)^{\nu}J_\nu(k(L-x))
$
となる。$g'(0)$ は (26) より、$k(L-x)=\xi$ とすれば、
$\displaystyle g'(x)
= C_1\frac{d}{d\xi}(\xi^{\nu}J_\nu(\xi))\cdot\frac{-k}{k^\nu}
= -C_1k^{1-\nu}\xi^{\nu}J_{\nu-1}(\xi)
$
となるので、
$\displaystyle g'(0)
= -C_1k^{1-\nu}(kL)^{\nu}J_{\nu-1}(kL)
= -C_1k L^{\nu}J_{\nu-1}(kL)
= 0
$
より、
$\displaystyle J_{\nu-1}(kL) = 0
$
$k=k_n$ が満たすべき条件となる。 $\nu>0$ ならば $J_{\nu-1}(\xi)$ には、$\xi=0$ 以外に 無限個の離散的な零点 $\xi=\xi_n(\nu-1)$ ( $n=1,2,3,\ldots$) が 存在することが知られていて、正確な値を知ることは容易ではないが、 漸近公式なども知られている ([1] 第 VI 篇 36)。

特に、$\nu=3/2$ ($\tau=1$) の場合は、(30) より、 $\xi_n(1/2)=n\pi$ なので、

$\displaystyle k=k_n = \frac{n\pi}{L},
\hspace{1zw}
f = f_n = \frac{c}{2L}\,n
$
となって、完全に直開管と同じ自然倍音列を与えることになる。 なお、これは (33) で $\delta=0$ ($M=L$) とした ものにも一致している。

また、この場合の解 $g(x)$ は、

$\displaystyle g(x)
= C_1(L-x)^{3/2}J_{3/2}(k(L-x))
= C_3(\sin k(L-x) - k(L-x)\cos k(L-x))
$
となるが、$kL=n\pi$ より、
$\displaystyle g(x)
= C_3(-1)^n(\sin(-kx) - k(L-x)\cos(-kx))
= C_4(\sin kx + k(L-x)\cos kx)
$
となり、これも (32) で $M=L$ としたものに一致する。

つまり、あまり現実的ではなさそうな $M=L$ の式は、 $M-L=\delta$ が小さい場合の話を、 ある程度ちゃんと近似していることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-11