4 変数分離と境界条件

本稿では、ホーン方程式 (3) から得られる楽音の周波数を 考えるため、定在波のような解を主に考察する。

定在波は、通常は時間的に周期的な解で、 左右に移動せず振幅のみ変化する解を指すが、 それは、変数分離形の解

  $\displaystyle
P(x,t) = P_0 + h(t)g(x)$ (4)
で ($P_0$ は大気圧)、$h(t)$ が周期的なものとして表現される。 必ずしもこのような解が存在することは明かではないが、 線形の波動方程式では良くこの形の解が利用され、 さらにその形の解の重ね合わせで、 より一般的な解を構成すること (フーリエ級数解など) も良く行われている。

方程式 (3) の境界条件は、 $x=0$ が息の入る口で、$x=L$ が息や音の出口とすると、出口では、

  $\displaystyle
P(L,t) = P_0$ (5)
と考えるのが自然だろう。 これは、定在波では $x=L$ が圧力の節であることも意味する。 つまり管楽器のほぼ出口付近では音は最小であることになる。

一方もう一つの境界である入口 $x=0$ では、 マウスピースによる圧力振動を入力するという条件

$\displaystyle P(0,t) = P_0 + p_1\sin\omega t
$
がよいのかもしれないが、本稿では $x=0$ が圧力の腹であること、 すなわち
  $\displaystyle
P_x(0,t) = 0$ (6)
を課すことにする。 これは、振動を与える入力口が最も振動の激しいところ、ということを 意味するが、一応閉管の反射壁の条件とも対応する。しかし、 こう考えることが現象と比較して適切なのかどうかはよくわからない。

(4) を (3) に代入すると、

$\displaystyle \frac{1}{c^2}h''(t)g(x) = h(t)\,\frac{1}{A(x)}(A(x)g'(x))',
\hspace{1zw}
\frac{1}{c^2}\frac{h''(t)}{h(t)} =\frac{1}{A(x)g(x)}(A(x)g'(x))'
$
となり、左辺は $t$ のみの式、右辺は $x$ のみの式となるので、 結果としてこの式は定数となり、よって
  $\displaystyle
h''(t)=\alpha c^2h(t),
\hspace{1zw}(A(x)g'(x))' = \alpha A(x)g(x)$ (7)
の 2 本の常微分方程式に分離できる。 境界条件 (5), (6) は、 $h(t)$, $g(t)$ で書くと、
$\displaystyle P(L,t) = P_0 + h(t)g(L) = P_0,
\hspace{1zw}P_x(0,t) = h(t)g'(0) = 0\hspace{1zw}(t>0)
$
より、
  $\displaystyle
g(L) = 0,\hspace{1zw}g'(0) = 0$ (8)
となる。

$\alpha\geq 0$ の場合は、(7) の $h(t)$ は指数関数で表されるか ($\alpha>0)$、 または 1 次式 となり ($\alpha=0$)、周期関数にはならないし、 その場合の $g(x)$ の解も 境界条件 (5), (6) を満たすものは 自明なもの $g(x)\equiv 0$ 以外にはない。

それを示す簡単な例として、直管の場合 $A(x)=A_0\ (>0)$ の場合を考えてみる。

この場合は、(7) は

  $\displaystyle
h''(t)=\alpha c^2h(t),
\hspace{1zw}g''(x) = \alpha g(x)$ (9)
となる。$\alpha > 0$ ならば、この解は良く知られているように、
$\displaystyle h(t) = C_1e^{c\sqrt{\alpha}\,t}+C_2e^{-c\sqrt{\alpha}\,t},
\hspace{1zw}g(x) = C_3e^{\sqrt{\alpha}\,x}+C_4e^{-\sqrt{\alpha}\,x}
$
となる。(8) より、
  $\displaystyle
g(L) = C_3e^{\sqrt{\alpha}\,L}+C_4e^{-\sqrt{\alpha}\,L} = 0,
\hspace{1zw}g'(0) = C_3\sqrt{\alpha}-C_4\sqrt{\alpha} = 0$ (10)
となる。$C_3$, $C_4$ の連立方程式の係数行列の行列式は、
$\displaystyle \left\vert
\begin{array}{ll}
e^{\sqrt{\alpha}\,L} & e^{-\sqrt{\...
...ight\vert
=
-\sqrt{\alpha}(e^{\sqrt{\alpha}\,L} + e^{-\sqrt{\alpha}\,L}) < 0
$
なので、(10) を満たす解は $C_3=C_4=0$ しかない。 よって $g(x)\equiv 0$ となり、解は必然的に自明な定数解 $P(x,t)=P_0$ に なってしまう。

$\alpha=0$ の場合は、(9) の解は、

$\displaystyle h(t) = C_1 t + C_2,\hspace{1zw}g(x) = C_3 x + C_4
$
となるが、この場合は
$\displaystyle g(L) = C_3L + C_4 = 0,\hspace{1zw}g'(0) = C_3 = 0
$
なのでやはり $C_3=C_4=0$ となってしまう。

$\alpha < 0$ の場合は、$\alpha = -k^2$ ($k>0$) とすると、

$\displaystyle h''(t)= -k^2c^2h(t),
\hspace{1zw}g''(x) = -k^2 g(x)
$
より、この解は、
$\displaystyle \begin{array}{l}
h(t) = C_1\sin ck t + C_2\cos ck t = C_3\sin(ckt + \beta),\\
g(x) = C_4\sin kx + C_5\cos kx
\end{array}$
となる。境界条件 (8) より、
$\displaystyle g'(0) = C_4 k \cos 0 + C_5 k\sin 0 = C_4 k = 0
$
より $C_4 = 0$、よって $g(x) = C_5\cos kx$
$\displaystyle g(L) = C_5\cos kL = 0
$
より、 $kL = k_nL = (n-1/2)\pi$ ( $n=1,2,3,\ldots$) となり、
$\displaystyle P(x,t) = P_n(x,t) = P_0 + C_6\sin(ck_nt+\beta)\cos k_n x
\hspace{1zw}\left(k_n = \frac{(2n-1)\pi}{2L}\right)
$
となる。この場合波長、すなわち $x$ 方向の周期 $\lambda=\lambda_n$ と、 周波数、すなわち $t$ 方向の周期の逆数 $f=f_n$ は、
$\displaystyle \lambda_n = \frac{2\pi}{k_n} = 2L\,\frac{2}{2n-1},
\hspace{1zw}f_n = \frac{ck_n}{2\pi} = \frac{c}{2L}\,\frac{2n-1}{2}
$
となり、2 節で述べた直閉管の波長と周波数に確かに 一致する。

本稿では定在波を考察するため、$\alpha < 0$ の場合を考えることとし、 以後 $\alpha = -k^2$ ($k>0$) とする。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-11