5 円錐管

本節以降、いくつか具体的な $A(x)$ に対して、 $\alpha < 0$ の場合の方程式 (7)、 すなわち、$\alpha = -k^2$ ($k>0$) での $g(x)$ に対する 2 階常微分方程式の境界値問題
  $\displaystyle
(A(x)g'(x))' = -k^2 A(x)g(x)\hspace{0.5zw}(0<x<L),
\hspace{1zw}g(L) = 0,\hspace{1zw}g'(0)=0$ (11)
と、$h(t)$ の解
$\displaystyle h(t) = C_1\sin(ckt + \beta)
\hspace{1zw}(\mbox{$C_1$, $\beta$\ は定数})
$
について考察する。

まず本節では $A(x) = A_0(x+\delta)^2$ $(\delta > 0$) とする。 これは、管が円錐の一部の場合に相当する。 なお、(11) の両辺で $A_0$ は消えてしまうので、 最初から $A_0=1$ として構わないことに注意する。

ちなみに、管楽器のうち、オーボエは円錐管であるらしい。

今、

$\displaystyle g(x)=(x+\delta)^{-1}\hat{g}(x)
$
とすると、
\begin{eqnarray*}Ag'
&=&
(x+\delta)^2((x+\delta)^{-1}\hat{g})'
\ =\
(x+\de...
... =\ (x+\delta)\hat{g}'',
\\
-k^2Ag
&=&
-k^2(x+\delta)\hat{g}\end{eqnarray*}
より、$\hat{g}$ に関する方程式は
$\displaystyle \hat{g}'' = -k^2\hat{g}
$
となり、よって
  $\displaystyle
\hat{g} = C_2\sin kx + C_3\cos kx = C_4\sin(kx+\gamma)$ (12)
が一般解となる。境界条件を $\hat{g}$ の条件に書き直すと、
$\displaystyle g(L) = (L+\delta)^{-1}\hat{g}(L) = 0,
\hspace{1zw}
g'(0) = -\delta^{-2}\hat{g}(0)+\delta^{-1}\hat{g}'(0) = 0
$
より、
$\displaystyle \hat{g}(L) = 0,\hspace{1zw}\hat{g}(0)-\delta\hat{g}'(0) = 0
$
となる。よって (12) より、
$\displaystyle \hat{g}(L) = C_4\sin(kL+\gamma) = 0,
\hspace{1zw}
\hat{g}(0) -\delta\hat{g}'(0) = C_4(\sin\gamma -\delta k\cos\gamma) = 0
$
となるので、
  $\displaystyle
kL+\gamma = n\pi\hspace{0.5zw}(\mbox{$n$\ は整数}),
\hspace{1zw}\tan\gamma = \delta k$ (13)
となる。ここから $\gamma$ を消去すると、
  $\displaystyle
\delta k = \tan(n\pi - KL) = -\tan kL$ (14)
となる。この (14) を満たす $k$ により $\lambda$, $f$ が決定する。 $\alpha=kL$ とすると、(14) は、
$\displaystyle \tan\alpha = -\,\frac{\delta}{L}\,\alpha
$
となる。

この形の超越方程式は今後も出てくるので、

  $\displaystyle
\tan x = -p x\hspace{1zw}(p>0)$ (15)
$x>0$ の解について、ここに少しまとめておく。 $y=\tan x$ のグラフと直線 $y=-p x$ の交点の $x$ 座標が (15) の解となるので、その解は無限に存在し、
  $\displaystyle
x = \frac{(2n-1)\pi}{2} + T_n(p)\hspace{1zw}(n=1,2,3,\ldots)$ (16)
の形になる。ここで $T_n(p)$ は以下の性質を満たす。 これらはグラフから容易にわかる。

(16) より、(14) を 満たす $k=k_n$

  $\displaystyle
k=\frac{\alpha}{L}
= \frac{(2n-1)\pi}{2L} + \frac{1}{L}T_n\left(\frac{\delta}{L}\right)$ (17)
となる。(11) の解 $g(x)$ は、 (13) より $\gamma = n\pi-KL$ なので、
\begin{eqnarray*}g(x)
&=&
(x+\delta)^{-1}\hat{g}(x)
\ =\
C_4(x+\delta)^{...
...^{-1}\sin(kx-kL+n\pi)
\ =\
C_4(-1)^n(x+\delta)^{-1}\sin(kx-kL)\end{eqnarray*}
より、(17) の $k=k_n$ に対して
$\displaystyle g(x) = C_5\,\frac{\sin k_n(x-L)}{x+\delta}
$
が (11) の解となる。 そして、波長 $\lambda$ と周波数 $f$ は、
$\displaystyle \lambda = \lambda_n = \frac{2\pi}{k_n},
\hspace{1zw}f = f_n = \f...
...}\left\{\frac{2n-1}{2}
+\frac{1}{\pi}T_n\left(\frac{\delta}{L}\right)\right\}
$
となる。

$T_n$ の性質により、 $n$ がかなり大きければ $f_n$$T_n/\pi$ は 0 に近くなるが、 $\delta/L$ がかなり小さければ $T_n/\pi$$1/2$ に近い。 よって $\delta\ll L$ であれば、 円錐管の自然倍音列の最初の方は、 直閉管の自然倍音列よりも直開管の自然倍音列に近くなることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-11