4 断面での積分のみでの導出

3 節では、 3 次元圧縮性オイラー方程式 (6) を $V(a,b)$ で 積分して、ほぼ (1) に対応するものを積分方程式から 改めて導いたが、$V(a,b)$ で積分して $a,b$ の任意性を利用して $x$ に 関する微分方程式を導くのは、(6) を導く過程から 考えれば 2 度手間になっている。

むしろ、$x$ 方向の積分を外して、 3 次元圧縮性オイラー方程式 (6) を $S(x)$ 上で $y,z$ にのみ微分するだけで 3 節と同じものが 得られるはずである。本節ではそれを紹介する。

ただし、3 節では、3 次元体積分に対する 発散定理や境界条件のおかげで断面 $S(x)$ や 壁 $B(a,b)$ などの数式表示、パラメーター表示は必要なかったが、 $S(x)$ 上での積分の場合、Green の公式は使えるものの、 発散定理が使えず、少し議論が難しくなるものがあり、 また、$S(x)$ の境界積分 (線積分) が出てくるので、 境界のパラメータ表示も必要になる。

$B(a,b)$ は、各断面 $S(x)$ の境界線 $C(x)$$x$ 毎のパラメータ表示を使って、以下のように表されているとする。

  $\displaystyle
\mbox{\boldmath {$r$}}=(x,y,z)=(x,\xi(x,\tau),\eta(x,\tau))
\hspace{1zw}(\alpha\leq\tau\leq\beta,\hspace{0.5zw}a<x<b)$ (13)
$\xi(x,\tau),\eta(x,\tau)$ は連続かつ区分的に $C^1$ な関数で、
$\displaystyle (\xi,\eta)\vert _{\tau=\alpha} = (\xi,\eta)\vert _{\tau=\beta}
$
を満たし、 $(\xi(x,\tau), \eta(x,\tau))$$x$ を 固定すれば $C(x)$ のパラメータ表示になっていて、 かつそれは $\tau$ の増加に沿って $S(x)$ を左側に見ながら 反時計回りに進むものとする。

$B(a,b)$ のパラメータ表示 (13) の 最も典型的なものは、極形式

$\displaystyle y=R(x,\theta)\cos\theta,
\hspace{1zw}
z=R(x,\theta)\sin\theta
\hspace{1zw}(0\leq\theta\leq 2\pi, \hspace{0.5zw}R>0)
$
である。 (13) は、この極形式では表せないものも含んでいる。

この場合、$C(x)$ の接線ベクトル $(\xi_\tau(x,\tau), \eta_\tau(x,\tau))$$S(x)$ が左に接するので、それを $90^\circ$ 時計回りに回転したベクトル $(\eta_\tau(x,\tau), -\xi_\tau(x,\tau))$$C(x)$ の、 $S(x)$ に対して外向きの法線ベクトルとなる。

(13) より、

  $\displaystyle
\frac{\partial \mbox{\boldmath {$r$}}}{\partial\tau}
\times\fra...
... = (0,\xi_\tau,\eta_\tau)\times(1,\xi_x,\eta_x)
= (\Delta,\eta_\tau,-\xi_\tau)$ (14)
となる。 ここで、 $\Delta=\Delta(x,\tau)=\xi_\tau\eta_x-\xi_x\eta_\tau$ とした。 これは、$B(a,b)$ の法線ベクトルで、$V(a,b)$ に関して外向きになる。 よって、$B(a,b)$ の外向き単位法線ベクトル $\mbox{\boldmath {$n$}}$
  $\displaystyle
\mbox{\boldmath {$n$}}
=
\left(\frac{\partial \mbox{\boldmat...
... \frac{(\Delta,\eta_\tau,-\xi_\tau)}{%
\sqrt{\Delta^2+\xi_\tau^2+\eta_\tau^2}}$ (15)
となる。 よって、境界条件 (7) は、
  $\displaystyle
u\Delta + v\eta_\tau - w\xi_\tau = 0$ (16)
となる。

本節でも、 $\rho(x,y,z,t)=\hat{\rho}(x,t)$ 等 は 3 節と同じとし、 まず、(6) の 1 本目を $S(x)$ で積分する。

$\displaystyle \int_{S(x)}\rho_t\,dydz = \hat{\rho}_tA(x)
$
であり、空間微分の $y$, $z$ 方向の微分は Green の公式より、
\begin{eqnarray*}I_1
&=&
\int_{S(x)}\{(\rho v)_y+(\rho w)_z\}dydz
\ =\
\oin...
..._\alpha^\beta
\{v(\xi,\eta)\eta_\tau-w(\xi,\eta)\xi_\tau\}d\tau\end{eqnarray*}
となるが、境界条件 (16) より、
$\displaystyle I_1 = -\hat{\rho}\int_\alpha^\beta u(x,\xi,\eta,t)\Delta(x,\tau) d\tau
$
となる。 一方、$x$ 方向の微分に対しては、 5 節の補題 1 を用いる。
\begin{eqnarray*}I_2
&=&
\int_{S(x)} (\rho u)_x\,dydz
\ =\
\frac{\partial}...
... +\hat{\rho}\int_\alpha^\beta u(x,\xi,\eta,t)\Delta(x,\tau) d\tau\end{eqnarray*}
となるので、
$\displaystyle I_1+I_2 = (\hat{\rho}A(x)\bar{u})_x
$
となるので、(6) の 1 本目の積分により、 (8) と同じものが得られる。

次は、(6) の 2 本目の $j=x$ の式を $S(x)$ で 積分する。1 本目同様、Green の公式と補題 1 を用いる。

\begin{eqnarray*}I_3
&=&
\int_{S(x)}(\rho u)_t\,dydz
\ =\
\left(\hat{\rh...
...\int_\alpha^\beta u^2\vert _{C(x)}\Delta\, d\tau
+ \hat{P}_xA(x)\end{eqnarray*}
よって、この $I_3$, $I_4$, $I_5$ の和 (=0) により、 (9) が得られる。

同じく、(6) の 2 本目の $j=y$ の式を $S(x)$ で 積分すると、

\begin{eqnarray*}I_6
&=&
\int_{S(x)}(\rho v)_t\,dydz
\ =\
\left(\hat{\rh...
...{uv})_x
+\hat{\rho}\int_\alpha^\beta uv\vert _{C(x)}\Delta d\tau\end{eqnarray*}
なので、$I_6+I_7+I_8=0$ より (10) が得られる。 同様に、$j=z$ の式の積分により、(11) が得られる。

最後は (6) の 3 本目の積分。

\begin{eqnarray*}I_9
&=&
\int_{S(x)}(\rho E)_t\,dydz
\ =\
\left(\hat{\rh...
...nt_\alpha^\beta (\hat{\rho}E+\hat{P})u\vert _{C(x)}\Delta\, d\tau\end{eqnarray*}
よって、 $I_9+I_{10}+I_{11}=0$ により (12) が 得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-11