3 3 次元オイラー方程式からの導出

2 節では、 積分形での質量保存、運動量保存、エネルギー保存を考えて そこからノズル方程式 (1) を導いた。

一方、空間 3 次元の未知関数 $\rho=\rho(x,y,z,t)$, $P=P(x,y,z,t)$, および 3 次元速度ベクトル $\mbox{\boldmath {$v$}}=\mbox{\boldmath {$v$}}(x,y,z,t)$ に対する 圧縮性オイラー方程式

  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{l}
\rho_t + \nabla\mathop{・}(\rho\mbox{\bo...
... \nabla\mathop{・}\{(\rho E + P)\mbox{\boldmath {$v$}}\} = 0
\end{array}\right.$ (6)
も (1) と同様に 積分形での保存則から発散定理を用いて導かれていて、 一度その段階は通っているから、 それを行わずに (6) から ノズル方程式 (1) が直接得られないかを考えてみる。

そのためには、3 次元方程式 (6) を $S(x)$$y,z$ に関して積分すればよさそうであるが、 実は少し面倒なところがあるので、本節ではその前段階として、 3 次元方程式 (6) を $V(a,b)$ で積分することで 改めて積分方程式を導き、そこから (1) に対応する 方程式を導いてみる。$S(x)$ での積分による直接の導出については、 4 節で考察する。

まず、議論を少し簡単にするため、密度 $\rho$ と圧力 $P$$y$, $z$ によらない $S(x)$ 内で一様な関数であるとする。

$\displaystyle \rho(x,y,z,t) = \hat{\rho}(x,t),
\hspace{1zw}P(x,y,z,t) = \hat{P}(x,t)
$
また、以後 $x,y,z,t$ の関数 $f(x,y,z,t)$ の、$y,z$ に関する 断面平均を $\bar{f}(x,t)$ と書くことにする。
$\displaystyle \bar{f}(x,t) = \frac{1}{A(x)}\int_{S(x)}f(x,y,z,t)dydz
$

$B(a,b)$ では、 $\mbox{\boldmath {$v$}}$ は境界条件

  $\displaystyle
\mbox{\boldmath {$v$}}\perp\mbox{\boldmath {$n$}}\hspace{1zw}((x,y,z)\in B(a,b))$ (7)
を満たす必要がある。

(6) の 1 本目を、$V(a,b)$ で積分する。 $\rho=\hat{\rho}(x,t)$$y,z$ に依らないので、

$\displaystyle \int_{V(a,b)}\rho_t\,dv
= \int_a^b\hat{\rho}_t\,dx\int_{S(x)}dydz
= \int_a^bA(x)\hat{\rho}_t\,dx
$
と書ける。 一方、 $\mbox{\boldmath {$v$}}=(v_x,v_y,v_z)=(u,v,w)$ とすると、発散定理より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{V(a,b)}\nabla\mathop{・}(\rho\mbox{\boldmath {$v$...
...\rho}(a,t)u(a,y,z)dydz
+ \int_{S(b)}\hat{\rho}(b,t)u(b,y,z)dydz\end{eqnarray*}
と書ける。境界条件 (7) よりこの $B(a,b)$ 上の 面積分は 0 となるので、 結局 (6) の 1 本目の積分は、
$\displaystyle \int_a^bA(x)\hat{\rho}_t\,dx
+ \left[\hat{\rho}\int_{S(x)}udydz\right]_a^b = 0
$
となり、
$\displaystyle \int_{S(x)}udydz
= A(x)\frac{1}{A(x)}\int_{S(x)}udydz
= A(x)\bar{u}(x,t)
$
なので、
$\displaystyle \int_a^bA(x)\hat{\rho}_t\,dx
+ \left[\hat{\rho}A(x)\bar{u}\right]_a^b
= \int_a^b\{A(x)\hat{\rho}_t +(\hat{\rho}A(x)\bar{u})_x\}dx = 0
$
となり、よって $a,b$ の任意性により
  $\displaystyle
A(x)\hat{\rho}_t + (A(x)\hat{\rho}\bar{u})_x = 0$ (8)
が得られる。これは、$\hat{\rho}$, $\bar{u}$ に関する (1) の 1 本目の式に対応する。

次は運動量。まずは、(6) の 2 本目の、 $j=x$ に対する式を積分する。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{V(a,b)}(\rho u)_t\,dv
\ =\ \int_a^b dx\int_{S(x...
...ydz\right)_t\,dx}
\\ &=&
\int_a^b (\hat{\rho}A(x)\bar{u})_t\,dx\end{eqnarray*}
で、発散の積分は、1 本目と同様境界条件により、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{V(a,b)}\nabla\mathop{・}(\rho u\mbox{\boldmath {$...
...ho}A(x)\overline{u^2}(x,t)\right]_a^b
+\int_a^bA(x)\hat{P}_x\,dx\end{eqnarray*}
と変形できる。よって、
$\displaystyle \int_a^bA(x)(\hat{\rho}\bar{u})_t\,dx
+\left[\hat{\rho}A(x)\overline{u^2}(x,t)\right]_a^b
+\int_a^bA(x)\hat{P}_x\,dx = 0
$
$a$, $b$ の任意性により、
  $\displaystyle
A(x)(\hat{\rho}\bar{u})_t + (A(x)\hat{\rho}\,\overline{u^2})_x
+A(x)\hat{P}_x = 0$ (9)
が得られる。これは、(1) の 2 本目と 完全に同じものではないが、 $\overline{u^2}$ が近似的に $\bar{u}^2$ に等しいと考えれば (例えば $u$$x,t$ にのみ依存する場合など)、 $\hat{\rho}$, $\bar{u}$ に関する (1) の 2 本目の式に対応する。

同様に、(6) の 2 本目の、$j=y$ に対する式を 積分してみると、

$\displaystyle \nabla\cdot(P\mbox{\boldmath {$e$}}_y) = \hat{P}_y = 0
$
および境界条件により、
\begin{eqnarray*}\int_{V(a,b)}(\rho v)_t\,dv
&=&
\int_a^b (\hat{\rho}A(x)\bar{...
...\right]_a^b
\\ &=&
\left[\hat{\rho}A(x)\overline{uv}\right]_a^b\end{eqnarray*}
となり、よって、
  $\displaystyle
A(x)(\hat{\rho}\bar{v})_t+(A(x)\hat{\rho}\,\overline{uv})_x = 0$ (10)
が得られる。同様に、$j=z$ の式を積分すれば、
  $\displaystyle
A(x)(\hat{\rho}\bar{w})_t+(A(x)\hat{\rho}\,\overline{uw})_x = 0$ (11)
が得られる。

最後はエネルギー。(6) の 3 本目を積分する。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{V(a,b)}(\rho E)_t\,dv
\ =\
\int_a^b \left(\ha...
...
\left[A(x)(\hat{\rho}\,\overline{Eu}+\hat{P}\bar{u})\right]_a^b\end{eqnarray*}
よって、
  $\displaystyle
A(x)(\hat{\rho}\bar{E})_t
+ \{A(x)(\hat{\rho}\,\overline{Eu}+\hat{P}\bar{u})\}_x = 0$ (12)
となる。ここで、$\bar{E}$, $\overline{Eu}$ は、
$\displaystyle \bar{E} = \frac{1}{2}(\overline{u^2}+\overline{v^2}+\overline{w^2...
...v^2}+\overline{uw^2})
+\frac{1}{\gamma-1}\,\frac{\hat{P}}{\hat{\rho}}\bar{u}
$
である。 よって (12) は (1) の 3 本目 とは完全には一致しないが、近似的に
$\displaystyle \overline{v^2} = \overline{w^2} = \overline{uv^2} = \overline{uw^...
...hspace{1zw}\overline{u^2} = \bar{u}^2,
\hspace{1zw}\overline{u^3} = \bar{u}^3
$
と考えれば (1) の 3 本目に対応する。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-11