それは、(5) の数値計算を通常の差分で考えると、 その計算方法は が 1 より大きいか小さいかとは 無関係に計算できてしまうからで、つまり差分の作り方によって
の 4 通りがあることになるが、 6 節の考察により 1. と 4. は正しく、 2. は無用な境界条件を与えていることになっていて、 逆に 3. は 必要な境界条件がない状態になっているはずである。 本節では、これらの計算方法を実際にどのように行うのか、 そしてその結果と 6 節の考察との関係について紹介する。
方程式 (5) を普通に差分化すると
よって、 を
(30)
残る 1 階微分の の項は、(29) では前進差分としているが、 その場合には での境界条件は必要なく、 これを後退差分とすると での境界条件が必要となる。
結局、方程式 (5) を、
以下にその数値計算結果を示すが、いずれも 、初期値は
まずは、境界条件をつけた差分 (32) による結果を示す。 この差分では、 の場合は適切で、 の場合は不適切、 すなわち境界条件が余計になっているはずである。
図 1 を見ると、 の付近では境界条件に引きずられて 糸が不自然に折れ曲がっているように見えなくもないが、 の付近を拡大した図 2 を見ると、 そうでもない感じがする。
それに対して、 (図 3, 4), (図 5, 6) と が大きくなるにつれ、 糸がかなり不自然に境界条件に引きずられ、 の近くで急に曲がっていることがわかる。 つまり、 の付近では境界条件に拘束されて 不自然に急激に折れ曲がっていて、 それは本来は余計な境界条件のために そのように不自然な形になっているのだと想像される。
次は、境界条件の不要な差分 (31) による結果を示す。 この差分では、 の場合が適切で、 の場合は境界条件が足りないはずである。
図 7, 8 は、 その の場合のグラフであるが、 が大きい方が でのしなり (変動) が大きいと感じる ( 軸の目盛りに注意) が、特に問題は見られない。
一方、 の場合は、 (図 9)、 (図 10) も、 での振動が小さくなっているように感じるが、 それほど問題があるようには見えない。
しかし、 をさらに小さくして負の値にすると、 境界条件なしの差分 (31) では解の有界性が崩れて、 どんどん負の方に絶対値が大きくなっていく (図 11)。 これを、同じ の値に対する境界条件つきの差分 (32) の結果 (図 12) と比較すると、 これもやや変わった感じのグラフではあるが、 安定性という点では境界条件つきの差分 (32) の方がましなように思う。 この不安定性は、本来必要な境界条件が足りないために起きているのであろうが、 この図 11 がそれを明確に表しているのかどうかは、 しかしよくはわからない。
竹野茂治@新潟工科大学