5 考察

4 節の (9), (11) により $\bar{k}$, $\bar{a}$ が求められたので、 よって $k$, $a$ は (6) より
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle k=2\bar{k}= \frac{2}...
...0^{-1}\left(\frac{\sqrt{L^2-H^2}}{A}\right)
\end{array}\right.\end{displaymath} (12)

と求まることになる。

さて、これが最初の Q2, Q3 に答えているかどうかを考えてみよう。

まず Q2 であるが、「解くのが難しそうな方程式」とは 多分 (10) のことを指している。 これは、いわゆる「超越方程式」であり、 累乗根や三角関数、指数・対数関数などの簡単な関数で 答え ($\bar{k}$) を表すことはできない。 よって、左辺を $f_0$ のように置いてその逆関数によって答を表す、 ということを行ったのであるが、 それは Q2 の質問者には「ごまかし」のように見えるかもしれない。

しかし、個人的には必ずしもそうは思わない。 数学は新たな値を式で表すために色々な関数を導入してきた。 累乗根は 2 次方程式や 3 次方程式の根を表現するのに導入された、 と言っても過言ではない。 指数関数や対数関数、三角関数や逆三角関数も同様である。 特に、逆三角関数は、三角比から角を求める、 ということを式で表現するために無理矢理作られているような逆関数である。 だから、「逆三角関数を許容できる」程度には、 今回の「$f_0^{-1}$ も許容できる」のではないかと思う。

ただ、「逆関数を用いずに」三角関数、指数・対数関数、 累乗根などで表現することは確かに無理なので、 その意味では、Q2 の質問に対しては「解けない」という答えになる。 すなわち Q2 は、「『解く』ということの意味をどういう範囲で考えるか」 によって答の変わる質問だと言えるだろう。

なお、(12) の式のうち、 $\mathop{\rm arctanh}$

\begin{displaymath}
\mathop{\rm arctanh}x = \frac{1}{2}\,\log\frac{1+x}{1-x}
\end{displaymath}

(詳しくは [1] 参照) なので、 この部分は逆関数を用いなくても簡単な関数で表現可能である。

そして Q3 であるが、 上にあるように $\mathop{\rm arctanh}$ は簡単に関数電卓などで値を計算できるが、 問題は $f_0^{-1}$ である。 これは関数電卓では直接計算はできないが、 ニュートン法などの数値計算が必要かと言えば、 それは必ずしも必要ではないと思う。

$x=f_0(y)=\sinh y/y = (e^y-e^{-y})/(2y)$ の値は、 関数電卓でも簡単に計算できるので、 それによって $y$ から $x$ への「数表」を作成することは難しくない。 しかも、多分実用的には、$H$$A$ よりもだいぶ小さく、 そして $L<2A$ 位までで十分だと思われるので、

\begin{displaymath}
\frac{\sqrt{L^2-H^2}}{A}
\leq \frac{L}{A} <2
\end{displaymath}

より $1<x<2$ 位の表があれば十分である。 $f_0(y)$ は、 $f_0(2.2)=2.026$ 位なので、 よって $0<y<2.2$ の範囲の表を作ればよいことになる。 この範囲を必要な桁数だけ分割し、関数電卓などで計算すればよい。 コンピュータを使えば、数表は一瞬で作ることもできる。

ただ、$f_0'(+0) = 0$ であるから、 実は $y=0$ 付近での $x$ の変化は小さい。 もしそれで問題がある場合は、$f_0(y)$ の代わりに $f_1(Y) = f_0(\sqrt{Y})$ の表を作るといいかもしれない。 それは、

\begin{displaymath}
f_1(Y) = f_0(\sqrt{Y})
= 1+\frac{Y}{3!}+\frac{Y^2}{5!}+\frac{Y^3}{7!}+\cdots
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
f_1'(Y) = \frac{1}{3!}+\frac{2Y}{5!}+\frac{3Y^2}{7!}+\cdots
\end{displaymath}

すなわち $f_1'(+0)=1/6$ となり、$Y=0$ の付近でも線形に変化するからである。

また、2 節でも述べたが、 $k=\rho g/\alpha$ のうち $\rho$, $g$ はあらかじめわかるが、 $\alpha$ は実際にひもを張ってみないとわからない。 しかし、もし張った後でわかればいいのであれば、 その張力を実測することで $\alpha$ を求めることはできる。 $\alpha$ の値は張力の水平成分であるので張力の値自身ではないが、 張力は曲線の接線方向を向くベクトルなので、 その張力を測定する点での曲線の傾きを測定すれば、 その水平成分は求めることができる。 別な方向ではあるが、このような方法で $k$ を求めることも できないわけではない。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年11月5日