6 最後に

本稿では、懸垂線のパラメータを、 自然な境界条件から決定することはできるか、 という問題について考察してきたが、 意外に面倒な式が最後に残ることがわかった。 そして、それをなんとか式で表すこと、 そしてその値を計算する方法について考察してみた。

「解くこと」をどういう意味で考えるか、という問題は、 数学の色々な分野で出てきて、 しかもそれらは歴史とともに変化するデリケートな話でもある。

一般には「解を簡単な式で表すこと」を解くことと見るかもしれないが、 数学の分野によっては、 「簡単な式で表すこと」ができる方程式はそんなに多くはないことがわかり、 研究の方向が「簡単な式で表すこと」から、 「解をいくらでも近似計算するアルゴリズムを作ること」に変わり、 それが解くことを意味するようになったり、 そしてそのようなアルゴリズムが作れない場合は、 「解が存在することを示すこと」が解くことを 意味するように変遷している場合もある (例えば私が専門とする微分方程式など)。

そうなると、「解く (解が存在することを示す)」ということは 「計算可能であるかどうか」とは無関係な話にもなるのであるが、 一方で、その微分方程式の物理現象を仕事とする人は 「解が存在する」のは「現象として解が見えるのだから明らか」 なのでどうでもよく、むしろ「計算可能であるかどうか」の方が大事、 という立場が主となる。

私は数学者なので、 どちらかといえば「計算可能かどうか」の方には無頓着で、 普段は、解が一意に決定すれば、 逆にそれを簡単な式で表せるかどうかはあまり気にしない立場なのであるが、 今回はそうではない立場でも考えてみた。 質問自体に少し意表を突かれた形となったが、 それはある意味で、私の数学者としての意識が 一般の意識とはややずれていることを意味する。 こういう質問によって、 そういう点に気づくことができたのはよかったのかもしれない。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年11月5日