6 展開式への変形

5 節では、 最初にいくつかの $F_n$$p$ の式として展開したが、 考察は $p$, $q$ の式のままでの計算を行った。 この節では、その $p$ の式としての展開式の計算を行ってみることにする。

5 節では、$F_5$ まで計算したが、 実際には (14) より偶数次の方のみを考えればよい。 $F_6/6$ の展開を (15) により行ってみると、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{F_6(p)}{6}}
\\ &=&
q^6+p^6+\left\{\left(\begin...
...2-4p^3+6p^4-4p^5+p^6+p^4-2p^5+p^6)
\\ &=&
1-2p+10p^4-12p^5+4p^6\end{eqnarray*}


のようになる。5 節の $F_2$, $F_4$ とこの $F_6$ を見ると、 $F_{2m}/(2m)$ はいずれも、$1-2p$ で始まり、 $p$ の 2 次から $m$ 次までの項がすべて消えている。 これが一般に言えるかどうかを考えてみよう。

(15) に $q=1-p$ を代入して 二項定理 (5) で展開すると、

$\displaystyle \frac{F_{2m}(p)}{2m}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{k=0}^{m-1}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\  k \end{arr...
...k\sum_{j=0}^{2m-k}\left(\begin{array}{c} 2m-k \\  j \end{array}\right)(-1)^jp^j$  
    $\displaystyle +\sum_{k=0}^{m-1}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\  k \end{ar...
... p^{2m-k}\sum_{j=0}^k\left(\begin{array}{c} k \\  j \end{array}\right)(-1)^jp^j$ (23)

となる。この前半の和に対して $2m-k=t$ とすると、その和は
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{t=m+1}^{2m}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\...
...}\left(\begin{array}{c} k \\ j \end{array}\right)(-1)^jp^{2m-k+j}\end{eqnarray*}


となるので、
\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ k-1 \end{array}\right)-\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ k \end{array}\right)
\end{displaymath}

$k\geq m+1$ では正、$k\leq m-1$ では負、$k=m$ では 0 となることを考えると、 (23) は結局
\begin{displaymath}
\frac{F_{2m}(p)}{2m}
=
\sum_{k=0}^{2m}\left\vert\left(\begin...
...eft(\begin{array}{c} k \\ j \end{array}\right)(-1)^jp^{2m-k+j}
\end{displaymath}

と書けることがわかる。この式で $k-j=i$ とし、和の順序交換を行えば、
$\displaystyle \frac{F_{2m}(p)}{2m}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{k=0}^{2m}\left\vert\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\  k \end{a...
...um_{i=0}^k\left(\begin{array}{c} k \\  k-i \end{array}\right)(-1)^{k-i}p^{2m-i}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{i=0}^{2m}(-1)^i p^{2m-i}
\sum_{k=i}^{2m}\left\vert\left(\b...
...y}\right)\right\vert
\left(\begin{array}{c} k \\  i \end{array}\right)(-1)^{k}$ (24)

となる。この内側の和を $b_{m,i}$ とおく:
\begin{displaymath}
b_{m,i}=\sum_{k=i}^{2m}\left\vert\left(\begin{array}{c} 2m-...
...} k \\ i \end{array}\right)(-1)^k
\hspace{1zw}(0\leq i\leq 2m)\end{displaymath} (25)

まず、$i\geq m$ の場合を考えると、それはこの節最初の例による考察から、
\begin{displaymath}
b_{m,i}=0\ (m\leq i\leq 2m-2),
\hspace{1zw}b_{m,2m-1}=2,
\hspace{1zw}b_{m,2m}=1\end{displaymath} (26)

であることが予想される。

$i\geq m$ の場合は、

\begin{displaymath}
b_{m,i}=\sum_{k=i}^{2m}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\...
...right\}
\left(\begin{array}{c} k \\ i \end{array}\right)(-1)^k
\end{displaymath}

であるが、今、$x^k$$i$ 階微分を考えると
\begin{displaymath}
(x^k)^{(i)} = k(k-1)\cdots(k-i+1)x^{k-i}=\left(\begin{array}{c} k \\ i \end{array}\right)i!\, x^{k-i}
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c} k \\ i \end{array}\right) = \left.\frac{1}{i!}(x^k)^{(i)}\right\vert _{x=1}
\end{displaymath}

と見ることができるので、
\begin{displaymath}
B_{m,i}(x)
=\sum_{k=0}^{2m}\left\{\left(\begin{array}{c} 2...
...}{c} 2m-1 \\ k \end{array}\right)\right\}
(-1)^k\frac{x^k}{i!}\end{displaymath} (27)

とすると $b_{m,i}=B_{m,i}^{(i)}(1)$ となることがわかる ($(i-1)$ 次以下の項の $i$ 階微分は 0 となる)。

一方で、$B_{m,i}(x)$ は、

\begin{eqnarray*}B_{m,i}(x)
&=&
\sum_{k=1}^{2m}\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ ...
...)^{2m-1}-\frac{1}{i!}(1-x)^{2m-1}
=-\frac{(1+x)(1-x)^{2m-1}}{i!}\end{eqnarray*}


であるから、$i\leq 2m-2$ であれば $B_{m,i}$$i$ 階微分には必ず $(1-x)$ がすべての項に残るので、 $b_{m,i}=B_{m,i}^{(i)}(1)=0$ となることがわかる。

$i=2m-1$ のときは、

\begin{displaymath}
b_{m,2m-1}=B_{m,2m-1}^{(2m-1)}(1)
=\left.-\frac{(1+x)(2m-1)!(-1)^{2m-1}}{(2m-1)!}\right\vert _{x=1}
=2
\end{displaymath}

$i=2m$ のときは、
\begin{displaymath}
b_{m,2m}=B_{m,2m}^{(2m)}(1)
=\left.-\left(\begin{array}{c} 2...
...y}\right)\frac{(2m-1)!(-1)^{2m-1}}{(2m)!}\right\vert _{x=1}
=1
\end{displaymath}

となって、(26) が確かに言えたことになる。

次に、 $0\leq i\leq m-1$ の場合を考える。この場合は、

\begin{displaymath}
\left\vert\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ k-1 \end{array}\rig...
... 2m-1 \\ k-1 \end{array}\right) & (k\leq m-1)\end{array}\right.\end{displaymath}

であるから、
\begin{eqnarray*}b_{m,i}
&=&
\sum_{k=i}^{m-1}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-...
...egin{array}{c} k \\ i \end{array}\right)(-1)^k
+B_{m,i}^{(i)}(1)\end{eqnarray*}


となり、この最後の項は $i\geq m$ の場合と同様に 0 となるから結局
\begin{displaymath}
b_{m,i}=2\sum_{k=i}^{m-1}\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 ...
... k \\ i \end{array}\right)(-1)^k \hspace{1zw}(0\leq i\leq m-1)
\end{displaymath}

となる。これと (26) を (24) に代入すれば
$\displaystyle {\frac{F_{2m}(p)}{2m}=1-2p}$
    $\displaystyle + 2\sum_{i=0}^{m-1}(-1)^ip^{2m-i}
\sum_{k=i}^{m-1}\left\{\left(\...
...{array}\right)\right\}
\left(\begin{array}{c} k \\  i \end{array}\right)(-1)^k$ (28)

となる。この式の二重和の順序を入れかえると、その和の部分は
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{k=0}^{m-1}\sum_{i=0}^k
\left\{\left(\begin{arra...
...rray}{c} 2m-1 \\ k-1 \end{array}\right)\right\}
p^{m-1-k}(1-p)^k\end{eqnarray*}


となり、結局、
\begin{displaymath}
\frac{F_{2m}(p)}{2m}
=
1-2p + 2p^{m+1}\sum_{k=0}^{m-1}\le...
...{array}{c} 2m-1 \\ k-1 \end{array}\right)\right\}
p^{m-1-k}q^k\end{displaymath} (29)

のように書けることになる。

例えば、$F_6(p)/6$ は、この式を使えば、

\begin{eqnarray*}\frac{F_6(p)}{6}
&=&
1-2p+2p^4\left[p^2+\left\{\left(\begin{a...
...2p+p^2)\}
\\ &=&
1-2p+2p^4(5-6p+2p^2)
=
1-2p+10p^4-12p^5+4p^6\end{eqnarray*}


となり、この節の最初の計算よりだいぶ楽であることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年7月27日