3 設定

一般の $n$ 次方程式は、本稿では
$\displaystyle
x^n+a_1x^{n-1}+\cdots +a_n = 0$ (1)
の形のものを指すが、この根を $x=x_1,x_2,\ldots,x_n$ とするとき、 (1) の解の公式とは、 どんな $a_1,\ldots,a_n$ に対しても、(1) の根を $a_1,\ldots,a_n$ を用いて表す式
$\displaystyle
x_j = \phi_j(a_1,\ldots,a_n)\hspace{1zw}(j=1,\ldots,n)$ (2)
のことを指す。例えば、$n=2$ の場合は、
$\displaystyle
x^2+a_1 x +a_2 = 0$ (3)
の解を表す式
$\displaystyle
x_1 = \frac{-a_1+\sqrt{a_1^2-4a_2}}{2},\hspace{0.5zw}x_2 = \frac{-a_1-\sqrt{a_1^2-4a_2}}{2}$ (4)
のことを解の公式と呼ぶわけである。

なお、これを見てもわかるが、(2) の 特定の $x_j$ に特定の $\phi_j$ が対応する、ということはなく、 解の公式が示す $n$ 個の解の式 $\phi_1,\ldots,\phi_n$ の集合が $x_1,\ldots,x_n$ になる、ということになっている。 例えば、上の 2 次方程式で $x_1$ を根号の $+$ の方、 $x_2$ を根号の $-$ の方と取ったが、そこに特に意味はなく、 逆でも全く問題はない。 その意味で代数的には根の $x_1,\ldots,x_n$ のそれらを区別することはできない。

累乗根による「解の公式」とは、 この $\phi_j$ が $a_1,\ldots,a_n$ の有理式、およびその累乗根、 およびそれらの有理式、およびそれらの累乗根、 といった操作を何段か繰り返して作られる式、を意味する。

3 次、4 次方程式にはそのような解の公式が知られているが、 5 次以上の方程式には「一般には」そのような解の公式はない、 というのがアーベルの定理 (アーベル=ルフィニの定理とも呼ばれる) である。

「一般には」というのは、具体的な数の $a_1,\ldots,a_n$ の組に対しては、 累乗根ですべての解が求まる方程式もあるが (例えば $x^5=1$ など)、 どんな $a_1,\ldots,a_n$ に対しても解を与えるような公式を作ることは できない、ということである。 そしてその立場では、 $a_1,\ldots,a_n$ を「変数」と考えて、 その関数 $\phi_j(a_1,\ldots,a_n)$ が、 $a_1,\ldots,a_n$ に関して恒等的に方程式 (1) を満たす もの、という形で考える。

一方、解と係数の関係、すなわち

$\displaystyle x^n+a_1x^{n-1}+\cdots +a_n = (x-x_1)(x-x_2)\cdots(x-x_n)
$
より、各 $a_j$ は逆に根 $x_1,\ldots,x_n$ の対称式として表される:
$\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
a_1 & \displaystyle = -\sum_{i=1}^n x_...
...2,\\
\cdots\\
a_n & = (-1)^n x_1\cdots x_n = (-1)^n s_n
\end{array}\right.$ (5)
ここで、$s_j$ ($j=1,\ldots,n$) は $x_1,\ldots,x_n$ の $j$ 次の 「基本対称式」として知られているもので、 $x_1,\ldots,x_n$ のうちの $j$ 個の異なるものの積の、すべての組み合わせに対する和となる:
$\displaystyle
s_j = s_j(x_1,\ldots,x_n) = \sum_{i_1<\cdots<i_j} x_{i_1}\cdots x_{i_j}$ (6)
なお、便宜的に $s_0=1$ と定めておく。

上では「 $a_1,\ldots,a_n$ を変数として」と書いたが、 (5) を考えると、 むしろ「 $x_1,\ldots,x_n$ を独立変数」として考え、 そこから (5) によって作られる 従属変数 $a_1,\ldots,a_n$ に対して その関数としての解の公式 $\phi_j(a_1,\ldots,a_n)$ を作り、 それが恒等的に方程式を満たす、 すなわち $\phi_j(a_1,\ldots,a_n)$ を (5) を 代入して $x_1,\ldots,x_n$ の式にしたときに、 それがある $x_{k_j}$ に恒等的に一致するような $\phi_j$ を作る、 というのが解の公式であると言いかえることができる:

$\displaystyle \phi_j(a_1(x_1,\ldots,x_n),\ldots,a_n(x_1,\ldots,x_n)) = x_{k_j}
$
例えば 2 次方程式 (3) で言えば、 (4) の右辺が解の公式であるということは、 その右辺に解と係数の関係
$\displaystyle a_1 = -(x_1+x_2), \hspace{1zw}a_2 = x_1x_2
$
を代入したときに、
$\displaystyle \sqrt{a_1^2-4a_2}
= \sqrt{(x_1+x_2)^2-4x_1x_2}
= \sqrt{(x_1-x_2)^2}
= \pm(x_1-x_2)
$
となるから、 $\sqrt{a_1^2-4a_2}$ としてこの $+$ の方の $x_1-x_2$ を 取れば、
$\displaystyle \frac{-a_1+\sqrt{a_1^2-4a_2}}{2}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{x_1+x_2 + (x_1-x_2)}{2} = x_1,$ 
$\displaystyle \frac{-a_1-\sqrt{a_1^2-4a_2}}{2}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{x_1+x_2 - (x_1-x_2)}{2} = x_2$ 
が恒等的に成立する、ということを意味しているわけである。

なお、 $\sqrt{(x_1-x_2)^2}$ は、 通常の実数の世界では $\vert x_1-x_2\vert$ となって、 大小関係で場合分けをすることで符号を決定するのであるが、 複素数の世界ではその区別ができないので、 平方根は 2 種類あり、そのどちらかを任意に選択することになる。

同様に、$A$ の $n$ 乗根 $\sqrt[n]{A}$ も複素数ではただひとつには 決まらず、$n$ 個存在し、そのうちの 1 つを $\alpha$ と書くと、

$\displaystyle
\sqrt[n]{A} = \alpha,\hspace{0.5zw}\varepsilon _n\alpha,
\hspac...
...psilon _n^2\alpha,\hspace{0.5zw}\ldots,\hspace{0.5zw}\varepsilon _n^{n-1}\alpha$ (7)
となる。ここで、 $\varepsilon _n$ は、1 の $n$ 乗根 (のひとつ)
$\displaystyle \varepsilon _n = e^{2\pi i/n} = \cos\frac{2\pi}{n}+i\sin\frac{2\pi}{n}
$
とする。通常は、(7) のうちのいずれか一つを $\sqrt[n]{A}$ と 書くが、それらも代数的には区別はできない。

「累乗根による解の公式」という場合には、 (7) のうちのひとつというよりは (7) の 累乗根すべてを用いて解を表すことになるので、 $n$ 乗根を追加する際に自然に 1 の $n$ 乗根である $\varepsilon _n$ も 追加される (使ってよい) ことになり、よって解の公式では、 その式の係数には有理数以外にも、 追加する $n$ 乗根に付随する $\varepsilon _n$ も自然に追加されることになる。

なお、本稿では、 $a_k = (-1)^k s_k$ より、 元の方程式の $a_1,\ldots,a_n$ の代わりに $s_1,\ldots,s_n$ を用いて、

$\displaystyle
x^n-s_1x^{n-1}+s_2 x^{n-2} - \cdots + (-1)^ns_n = 0$ (8)
の形で考えることにする。

なお、本稿ではこの後 1 の $n$ 乗根 ($n>2$) は 3 乗根しかでてこないので、 慣習に従って $\varepsilon _3 = \omega$ と書くことにする。 $\omega$ は良く知られているように以下を満たす。

$\displaystyle
\omega^3=1,
\hspace{1zw}\omega^2+\omega+1=0,
\hspace{1zw}\omeg...
...\sqrt{3}\,i}{2},
\hspace{1zw}\omega^2 = \bar{\omega} =\frac{-1-\sqrt{3}\,i}{2}$ (9)

竹野茂治@新潟工科大学
2026-09-25