3.3 多変数関数による確率分布

$n$ 次元連続分布 $(\mbox{\boldmath R}^n,f,\vec{x})$ に対し、 $\mbox{\boldmath R}^n$ 上の実数値関数 $\phi:\mbox{\boldmath R}^n\rightarrow\mbox{\boldmath R}$ に対して $y=\phi(\vec{x})$ によって 連続確率変数 $y$ が決まるかを考える。

$y$ の分布関数 $G(y)$ は、(24) より

  $\displaystyle
G(t)=\mathrm{Prob}\{y\leq t\} = \mathrm{Prob}\{\phi(\vec{x})\leq t\}
=\int_{\{\vec{x}\vert\ \phi(\vec{x})\leq t\}}f(\vec{x})d\vec{x}$ (32)
となる。

$y$ が連続分布となるためには、一点の確率 $\mathrm{Prob}\{y=t\}$ は 0、すなわち

  $\displaystyle
\mathrm{Prob}\{y=t\}=\mathrm{Prob}\{\phi(\vec{x})=t\}
=\int_{\{\vec{x}\vert\ \phi(\vec{x})=t\}}f(\vec{x})d\vec{x}
= 0$ (33)
となる必要があるが、 これはすべての関数 $\phi(\vec{x})$ に対して成り立つわけではない。 例えば、$n=2$ の場合に、ある面積を持った領域の上で $\phi(x_1,x_2)$ が 定数 ($=c$) であれば、$t=c$ のとき (33) の 積分領域はその領域を含み、よって (33) の 積分値は正となりうる。

つまり、 $y=\phi(\vec{x})$ が連続確率変数となるためには、 すべての $t\in\mbox{\boldmath R}$ に対して (33) が 成り立つことが必要条件となる。

逆にそれを満たしていれば、(32) で定まる 分布関数 $G(y)$ が条件 (16) を満たすことは、 連続性を除いては容易にわかり、 連続性についても積分論のやや難しい定理 (ルベーグ収束定理) と (33) から示すことができる。 これにより密度関数 $g(y)=G'(y)$ も決定し、 連続分布 $(\mbox{\boldmath R},g,y)$ が確かに決定することになる。

なお、より細かいことを言えば、$G(y)$ が連続というだけでは その微分可能性は得られないが、$G(y)$ は単調なので、 「ほとんどの点で」微分可能であることが保証される。

この場合も、離散分布の場合と同様に、平均の計算が $g(y)$ の代わりに $f(\vec{x})$ の方で計算できることを示す。

連続分布 $(\mbox{\boldmath R}, f, x)$ の平均は、

  $\displaystyle
E[x] = \int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}} xf(x)dx$ (34)
と定義されるので、よって、 $(\mbox{\boldmath R},g,y)$ の平均は、
  $\displaystyle
E[y] = \int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}}yg(y)dy$ (35)
となるが、これが $f(\vec{x})$ による計算
  $\displaystyle
E[\phi(\vec{x})] = \int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}^n}\phi(\vec{x})f(\vec{x})d\vec{x}$ (36)
に一致することを、次の節で詳細に示すが、おおざっぱな「説明」を 以下に紹介する。

非常に小さい正数 $\Delta y$ を取り、積分を

$\displaystyle E[y]
= \int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}}yg(y)dy
= \sum_{j=-\infty}^{\infty}\int_{j\Delta y}^{(j+1)\Delta y}yg(y)dy
$
と分けると、 $j\Delta y<y<(j+1)\Delta y$ では $y\doteqdot j\Delta y$ なので (32) より
\begin{eqnarray*}E[y]
&\doteqdot&
\sum_{j=-\infty}^{\infty}j\Delta y\int_{j\D...
... j\Delta y<\phi(\vec{x})\leq (j+1)\Delta y\}}
f(\vec{x})d\vec{x}\end{eqnarray*}
と書ける。 ここで、 $j\Delta y<\phi(\vec{x})\leq (j+1)\Delta y$ では $j\Delta y\doteqdot\phi(\vec{x})$ なので、
$\displaystyle E[y]
\doteqdot \sum_{j=-\infty}^{\infty}
\int_{\{\vec{x}\vert j\D...
...\vec{x}
=\int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}^n}\phi(\vec{x})f(\vec{x})d\vec{x}
$
となる。近似をした部分が 2 箇所あるが、 それは $\Delta y\rightarrow +0$ とすることで等号となる、 といった具合である。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-07-28