6 上からおさえる可積分関数の存在

本節では、ルベーグ収束定理の、$f^{(j)}_n(u)$ ($j=1,2$) を上からおさえる 可積分関数 $h_1(u)$ の存在を、実際にそれを構成することで示す。 なお、 $\beta_n\leq\alpha_n$ より $f^{(1)}_n(u)\geq f^{(2)}_n(u)$ なので、 本節では主に $f^{(1)}_n(u)$ のみを考える。

まず、 $S(n)/(S(k)S(n-k))$ については、 (35) を満たす $n$ $1\leq k\leq\alpha_n$ に 対しては $k\leq n-1$ なので、(23) より

  $\displaystyle
\frac{S(n)}{S(k)S(n-k)}\leq \frac{M_2}{M_1^2}$ (37)
と上から評価できる。

次は $J_k$ であるが、$J_3$ は各点収束では単純であるが、 上からおさえるのは案外難しい。

まずは、$-1/2$ 倍がついていることで対数部分を上からおさえることが できなくなっているため、 $J_1+J_2=-k\log(1+y_n)-(n-k)\log(1+z_n)$ の 定数倍を利用する。$k\geq 1$ であり、また (35) を 満たす $n$ については $k\leq n-1$ なので、 $k/2\geq 1/2$, $(n-k)/2\geq 1/2$ であるから、

  $\displaystyle
J_3' = - \frac{1}{2}(J_1+J_2)+J_3
= \frac{k-1}{2}\log(1+y_n) +\frac{n-k-1}{2}\log(1+z_n)$ (38)
とすると、対数の前の係数はいずれも 0 以上となる。 一方、
$\displaystyle g_1'(y) = \frac{y}{1+y}
$
$g_1(0)=0$ より $g_1(y)\leq 0$、すなわち $\log(1+y)\leq y$ が 得られるので、(29) より、
$\displaystyle J_3'$ $\textstyle \leq$ $\displaystyle \frac{k-1}{2} y_n+\frac{n-k-1}{2} z_n
 =\
\frac{np(1+y_n)-1}{2} y_n + \frac{nq(1+z_n)-1}{2} z_n$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2}(npy_n^2+nqz_n^2)-\frac{1}{2}(y_n+z_n)
 =\
\frac{\tilde{u}_n^2}{2}-\frac{1}{2}(y_n+z_n)$ (39)
と評価される。

また、 $J_0-J_3' = (3/2)(J_1+J_2)$ については、 (30) の変形を用いるが、ここで $g_3$ に対して、

  $\displaystyle
g_3(y)\leq \frac{y^3}{6} %\msp (y>-1)
$ (40)
となることを示しておく。 5 節の計算により、
$\displaystyle \left(g_3(y)-\frac{y^3}{6}\right)''
= \frac{y}{1+y}-y = - \frac{y^2}{1+y}
\leq 0
$
となるので、 $(g_3(y)-y^3/6)(0)=(g_3(y)-y^3/6)'(0)=0$ より (40) が成り立つことがわかる。 これを用いると、 $(3/2)(J_1+J_2)$ は、(29) より
$\displaystyle \frac{3}{2}(J_1+J_2)$ $\textstyle =$ $\displaystyle - \frac{3}{4} \tilde{u}_n^2+\frac{3}{2}(npg_3(y_n)+nqg_3(z_n))$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle - \frac{3}{4} \tilde{u}_n^2+\frac{1}{4}(npy_n^3+nqz_n^3)
 =\
- \frac{3}{4} \tilde{u}_n^2+\frac{1}{4} \tilde{u}_n^2(y_n+z_n)$ (41)
と評価される。よって、(39), (41) より、
  $\displaystyle
J_0
= J_3' + \frac{3}{2}(J_1+J_2)
\leq
- \frac{1}{4} \tilde{u}_n^2+\frac{1}{4} \tilde{u}_n^2(y_n+z_n)
- \frac{1}{2}(y_n+z_n)$ (42)
となる。

(42) の右辺の真ん中の項の $y_n+z_n$ は、 係数が 0 以上なので上から評価すればよいが、 3 番目の項は係数が負なので、下から評価しなければならず、 それで難易度がだいぶ変わってしまう。 まずは、$y_n+z_n$ の上からの評価から。

$\tilde{u}_n$ は、 $k=\mu_n+\tilde{u}_n\sigma_n\leq \alpha_n\leq \mu_n+t\sigma_n
$ より

  $\displaystyle
\tilde{u}_n\leq t$ (43)
の上限があるので、
$\displaystyle y_n+z_n = \tilde{u}_n \frac{q-p}{\sqrt{npq}}
\leq \frac{t(q-p)}{\sqrt{npq}}
$
と評価でき、
  $\displaystyle
n\geq\frac{4t^2(q-p)^2}{pq}$ (44)
を満たす $n$ に対しては、
  $\displaystyle
y_n+z_n
\leq\frac{t(q-p)}{\sqrt{4t^2(q-p)^2}}
=\frac{t}{2\vert t\vert}
\leq\frac{1}{2}$ (45)
となり、よって
$\displaystyle - \frac{1}{4} \tilde{u}_n^2+\frac{1}{4} \tilde{u}_n^2(y_n+z_n)
\leq - \frac{1}{8} \tilde{u}_n^2
$
がいえる。

次は $-(y_n+z_n)/2$ の上からの評価。 この場合、(43) に対応するような、$n$ に よらない $\tilde{u}_n$ の下限は存在しないが、

$\displaystyle -\frac{1}{2}(y_n+z_n)
= -\frac{\tilde{u}_n}{2}\frac{q-p}{\sqrt{npq}}
$
であり、これはほぼ $u$ の 1 次式なので、そのように評価する。 (20) に従い、次のように $n$ によらない場合分けを 行って考える。
  1. $u\leq 0$ の場合

    この場合は (20) より $\tilde{u}_n\leq 0$ で、 $-\tilde{u}_n\leq 1/\sigma_n-u\leq 1/\sigma_1-u$ なので ( $\sigma_1=\sqrt{pq}$)、$q-p\geq 0$ より、

    $\displaystyle -\frac{1}{2}\,\tilde{u}_n\,\frac{q-p}{\sqrt{npq}}
\leq \frac{1}{...
...q}}
\leq \frac{1}{2}\left(\frac{1}{\sigma_1}\,-u\right)\frac{q-p}{\sqrt{pq}}
$
    $n$ によらない $u$ の一次式でおさえられる。
  2. $0\leq u\leq 1/\sigma_1$ の場合

    この場合は、(20) より $u-1/\sigma_1\leq u-1/\sigma_n\leq\tilde{u}_n\leq u$ なので、

    $\displaystyle -\tilde{u}_n\leq \frac{1}{\sigma_1} -u \leq \frac{1}{\sigma_1}
$
    となり、よってこの場合は
    $\displaystyle -\frac{1}{2} \tilde{u}_n \frac{q-p}{\sqrt{npq}}
\leq \frac{1}{2\sigma_1} \frac{q-p}{\sqrt{npq}}
\leq \frac{q-p}{2pq}
$
    と定数でおさえられる。
  3. $u\geq 1/\sigma_1$ の場合

    この場合は、 $\tilde{u}_n\geq u-1/\sigma_n\geq u-1/\sigma_1\geq 0$ なので、

    $\displaystyle -\frac{1}{2} \tilde{u}_n \frac{q-p}{\sqrt{npq}}
\leq 0
$
    と 0 でおさえられる。

$-\tilde{u}_n^2$ も、ほぼ $-u^2$ であるが、 上と同じ場合分けで考える。

  1. $u\leq 0$ の場合

    この場合は $\tilde{u}_n\leq u\leq 0$ なので、 $-\tilde{u}_n^2\leq -u^2$ となる。

  2. $0\leq u\leq 1/\sigma_1$ の場合

    この場合は $-\tilde{u}_n^2\leq 0$ と評価する。

  3. $u\geq 1/\sigma_1$ の場合

    この場合は、 $0\leq u-1/\sigma_1\leq u-1/\sigma_n\leq\tilde{u}_n$ なので、 $-\tilde{u}_n^2\leq -(u-1/\sigma_1)^2$ と評価される。

以上をまとめると、(35), (44) を 満たす $n$ に対して、$J_0$ は、以下のようなもので評価されることになる。

  $\displaystyle
J_0\leq h_2(u) = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle -\,\fra...
...}{8}\left(u-\,\frac{1}{\sigma_1}\right)^2
& (u>1/\sigma_1)
\end{array}\right.$ (46)
なお、この評価は、 $1\leq k\leq\alpha_n$ を仮定しているが、 $k\leq 0$, $k\geq \alpha_n+1$$u$ に対しては、 $f^{(1)}_n(u)=0$ となり、 その場合は $J_0=\log I_0 = -\infty$ と見ることができるから、 上の評価は、すべての $u$ に対して成り立つことになる。 これらは $\vert u\vert$ が大きいところでは $u^2$ の係数が $-1/8$ の 2 次式なので、 $e^{h_2(u)}$$u$ に関して可積分となり、これで $I_0=e^{J_0}$ が上から おさえられることになる。

結局、(35), (44) を 満たす $n$ に対して、

  $\displaystyle
f^{(1)}_n(u)
= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\frac{S(n)}{S(k)S(n-k)} I_0
\leq
\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\frac{M_2}{M_1^2} e^{h_2(u)}$ (47)
とおさえられることになり、この右辺は $u$ に関して $\mbox{\boldmath R}$ 上可積分なので、 これでルベーグ収束定理の $h_1(u)$ に相当するものが取れたことになる。

よって、ルベーグ収束定理と (12), (18), (36) により、

\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow \infty}{\mathrm{Prob}\left\{\frac{x-\mu_n}{\...
...}}f_0(u)\chi_{(-\infty,t]}(u)du
\\ &=&
\int_{-\infty}^tf_0(u)du\end{eqnarray*}
となり、これで (3), (9) が 証明されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-09-09