5 複素数を利用した三角関数の有理関数の積分
三角関数は、複素数を用いて指数関数に直す方が、
式の操作が容易になる場合が多い。
例えば、 のような関数の積分は、
通常は 2 回の部分積分により元の積分の定数倍の式を導いて、
とし、右辺の の項を左辺に移行して、
より
という形で求めるが、これを複素数を用いて、
とする方が部分積分による方法よりも直感的、機械的で分かりやすい。
これと同様のことを に対して考えてみる。
オイラーの公式
より、
と書けるから、
となる。形式的には、 と置くと なので、
となるが、このようにすると は実数変数ではなく、複素数変数となり、
厳密には複素関数論の線積分になってしまい、
実数変数の複素数値関数の範囲を越えてしまう。
よって、ここではそれを避け、(9) を
利用することにする。
すなわち、分子の は使わずに、
の形の部分分数分解を行い、それにより を
のように変形して (9) を適用して
複素対数で表す、という方針である。
まず、 の解は、
( より
実数解) なので、
,
とすれば、
と因数分解される。
なお、解と係数の関係より は
と
書けることに注意する。
これにより、
となるので、 は
と書ける。
ここで、 より
であり、 は、
中心の半径 1 の円周上を動くので、実軸の左半分とは
交わらない (図 5 の右側の円)。
一方、 も 中心の半径 1 の円周上を動くが、
だからその円周の内部に原点があり、
実軸の左半分とこの円周とは交わる (図 5 の左側の円)。
図 5:
と の描く円
|
よって、とりあえず の範囲で考えることにすれば、
は実軸の左半分とは交わらない。
この範囲では、(9) により
となる。ここで、命題 1 より、
であり、
より、
なので、いずれにせよ
となり、よってこれは主値の範囲なので、
|
(20) |
となることがわかる。
なお、このような の差や主値の範囲の議論は不定積分では省略し、
として、最後の定数の部分は積分定数に含めて済ませてしまうことも多い。
結局 (20) により、(19) は
|
(21) |
となる。次は、このそれぞれの項を見てみる。
まず、
であるが、
であり、
だったので、
となる。よって、この対数の項は
|
(22) |
と定数になり、この部分は積分定数に取り込まれることになる (実際は
倍がつくので純虚数の定数)。
なお、この計算は、, に直さなくても、
最初から
を使って、
|
(23) |
とすることもできる (少し高度) し、元々 は実数値なので、
(21) の実数部分のみ考えればよく、
よって の方の項は最初から不要である、と見ることもできる。
次は、
の偏角であるが、
正の実数 に対して
となること、
および
,
,
であることに注意すると、
となるが、 より は、 の範囲、
および の範囲で符号が変わりうるので、
(6) ではなく (7) を
用いると
|
(24) |
と書くことができる。ここで は、
ならば
,
ならば
である。
なお、(24) の右辺は一見 で不連続なようだが、
となり、連続になっている。
(21), (22), (24) より は、
|
(25) |
となる。しかし、この式と (14) とは
かなり違った形になっている。
偏角の計算で他の方法を取ると、また違う式が得られる。
を用いると、
と書けるが、
より
なので、
となる。
なお、 のとき
より
で、
のときも
より
となるから、
この式には は必要ない。
よって、 は
|
(26) |
とも書けることになる。
さらに、最初から (14) を意識し、分子分母を で
割って
と変形すると、この分母は分子の共役なので、
となる。 より なので、
(6) より、
となるが、
|
(27) |
なので、結局
となり、よって、(21), (22) よりこの場合は直接 (14) が得られることがわかる。
さて、(25), (26) と (14) の
関係についても見ておこう。
まず、(25) であるが、 と書くこととし、
倍角の公式を用いると、
となるので、
と書ける。ここで、
と
すると、
となる。
なら より 、よって
となるので、
となる。
同様に、 なら より 、
よって
となるので、
となる。よって、いずれの場合も、
となるので、よって の範囲で (25) は
確かに (14) に一致することがわかる。
次は (26) と (14) の関係を見る。
となるが、次の加法定理によりこれを一つにまとめることができる。
命題 4
,
に対して、
-
のとき、
|
(29) |
ここで は、
ならば ,
ならば ,
ならば 。
-
のとき、
|
(30) |
ここで は、
ならば ,
ならば ,
ならば 。
証明
, より、
のとき、
となる。よって、
ならば、
より
なので、
となり、よって
が得られる。
の場合、
の場合も同様である。
(30) は、(29) で を と
すれば得られる。
今、 として (28) の の差を
考えると、 ならば ,
より
それらの の値はそれぞれ から の間にあり、
その差は から の間にある。
の場合も ,
より
それらの の差は から の間にある。
よって、命題 4 により
となる。
ここで、前と同様に とすれば、
より、
(27) より、
となることがわかる。
これと (28) により、
では (26) が (14) に
一致することがわかる。
しかも、(26) の右辺のかっこの中の式を と
すると、 より はすべての に対して滑らかであり、
明らかに ,
が成り立つので、
この は実は (18) の
に等しく、
つまり (26) は、 の、すべての で連続な
原始関数を与えていることがわかる。
(14) の式は元々 に対してしか成り立たず、
すべての に対して滑らかな原始関数を持つはずの を
表現するためには、(18) のように を
導入しなければいけなかったが、
それは実は (26) のような式で容易に表わされることがわかり、
よって (14) よりも (26) の方が
むしろ優れていると見ることもできる。
しかし、逆に複素数を使わずに普通に置換積分による不定積分を行っても、
なかなか (26) の式にはたどりつけない。
竹野茂治@新潟工科大学
2016年12月22日