4 三角関数の有理関数の積分

次は、三角関数の含まれる有理関数の積分、例えば $1/(2+\cos x)$ のようなものの不定積分を考える。 少し一般化して、
\begin{displaymath}
I_2 = \int\frac{dx}{p+\cos x}\hspace{0.5zw}(p>1)\end{displaymath} (13)

を考えることにする。

この積分の標準的な求め方は、$\tan(x/2) = u$ ($-\pi<x<\pi$) とする 割と面倒な置換積分であるが、 $x = 2\arctan u$ より

\begin{displaymath}
dx = \frac{2du}{1+u^2},
\hspace{0.5zw}\cos x=2\cos^2\frac{x}{2}-1 = \frac{2}{1+u^2}-1
=\frac{1-u^2}{1+u^2}
\end{displaymath}

となるので、
\begin{eqnarray*}I_2
&=&
\int \frac{2/(1+u^2)}{p+(1-u^2)/(1+u^2)} du
=
\int...
...2)+1-u^2}
 &=&
\int \frac{2}{p-1} \frac{du}{u^2+(p+1)/(p-1)}\end{eqnarray*}


となる。ここで $u=\sqrt{(p+1)/(p-1)} t$ とすれば
\begin{eqnarray*}I_2
&=&
\int \frac{2}{p-1} \sqrt{\frac{p+1}{p-1}} \frac{p-1...
...\sqrt{p^2-1}} \arctan\left(\sqrt{\frac{p-1}{p+1}} u\right)
+ C\end{eqnarray*}


となり、結局
\begin{displaymath}
I_2 = \frac{2}{\sqrt{p^2-1}} \arctan\left(\sqrt{\frac{p-1}{p+1}} 
\tan\frac{x}{2}\right)+C\end{displaymath} (14)

が得られる。

ただし、(14) は、$-\pi<x<\pi$ で考えていて、 より広い範囲で考えると (14) の右辺は $x=\pm\pi$ では 不連続になってしまう。 一方で、定義 (13) よりわかるが、 $I_2$ はすべての $x$ で連続につながる原始関数を持つはずなので、 ここでそれを先に考えておく。

そのために、定数 $k>0$ に対し、 以下のような関数 $g_0(x, k)$, $g_1(x, k)$ を考える。

$\displaystyle g_0(x, k)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \arctan(k\tan x)$ (15)
$\displaystyle g_1(x, k)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \mathop{\rm arccot}(k\cot x)$ (16)

なお、 $x = \mathop{\rm arccot}y$$0<x<\pi$ での $y=\cot x$ (図 1) の逆関数で、すべての実数 $y$ で定義され、 $\displaystyle \lim_{y\rightarrow \infty}{\mathop{\rm arccot}y}=0$, $\displaystyle \lim_{y\rightarrow -\infty}{\mathop{\rm arccot}y}=\pi$ となるもの (図 2)、 また $g_0(x, k)$, $g_1(x, k)$ の定義域は、 それぞれ $\tan x$, $\cot x$ の定義域と同じものとする。
図 1: $y=\cot x$ のグラフ
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{qf5-cot1.eps}
図 2: $y=\protect\mathop{\rm arccot}x$ のグラフ
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{qf5-acot1.eps}
$x = \mathop{\rm arccot}y$ とすると、$y=\cot x$ ($0<x<\pi$) で、
\begin{displaymath}
y
= \frac{\cos x}{\sin x}
= \frac{\sin (\pi/2-x)}{\cos (\pi/2-x)}
= \tan\left(\frac{\pi}{2}-x\right)
\end{displaymath}

で、 $-\pi/2<\pi/2-x<\pi/2$ より $\pi/2-x = \arctan y$ となるから、よって
\begin{displaymath}
\mathop{\rm arccot}y = \frac{\pi}{2} - \arctan y
\end{displaymath}

となる。これにより、
\begin{displaymath}
g_1(x, k)
= \frac{\pi}{2} - \arctan\left(-k\tan\left(x-\f...
...t)\right)
= \frac{\pi}{2} + g_0\left(x-\frac{\pi}{2}, k\right)\end{displaymath} (17)

となるので、 $g_1(x, k)$ のグラフは、$g_0(x, k)$ のグラフを平行移動したもの になる (図 3)。
図 3: $g_0(x, k)$, $g_1(x, k)$ のグラフ ($k=1/\sqrt {3}$)
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{qf5-g0g1.eps}

いずれも周期は $\pi$、そして $g_0(x, k)$ は奇関数で、 $x=(n+1/2)\pi$ ($n$ は整数) で不連続:

\begin{displaymath}
\displaystyle \lim_{x\rightarrow (n+1/2)\pi+0}{g_0(x, k)}=-\...
...displaystyle \lim_{x\rightarrow (n+1/2)\pi-0}{g_0(x, k)}=\pi/2
\end{displaymath}

となっている。

また、$0<x<\pi/2$ では、$y=g_1(x,k)$ とすると $0<y<\pi/2$ で、

\begin{displaymath}
\cot y = k\cot x,
\hspace{0.5zw}
\tan y = \frac{1}{k} \tan x,
\hspace{0.5zw}
y = \arctan\left(\frac{1}{k} \tan x\right)
\end{displaymath}

となり、よって $0<x<\pi/2$ では $g_1(x, k)=g_0(x, 1/k)$ が 成り立つことがわかる。 $\pi/2<x<\pi$ では、この性質と周期性、および (17) により
\begin{displaymath}
g_1(x, k)
= \frac{\pi}{2} + g_0\left(x-\frac{\pi}{2}, k\righ...
...{2}, \frac{1}{k}\right)
= \pi + g_0\left(x, \frac{1}{k}\right)
\end{displaymath}

となる。

ここから、$g_0(x, k)$, $g_1(x, k)$ の段差を解消した関数 (図 4):

\begin{eqnarray*}G_0(x, k) &=& g_0(x, k) + n\pi\hspace{0.5zw}((n-1/2)\pi<x<(n+1/...
...\
G_1(x, k) &=& g_1(x, k) + n\pi\hspace{0.5zw}(n\pi<x<(n+1)\pi)\end{eqnarray*}


図 4: $G_0(x, k)$, $g_0(x, k)$ のグラフ ($k=1/\sqrt {3}$)
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{qf5-G0.eps}
は、いずれも連続で (定義域の境界では極限で考える)、 上の考察からすべての $x$ に対して $G_1(x, k)=G_0(x, 1/k)$ で あることがわかり、よって、すべての $x$ で滑らかであることもわかる。

$G_0(x, k)$ の導関数は、

\begin{eqnarray*}G_0'(x, k)
&=&
\frac{k/\cos^2 x}{1 + k^2\tan^2 x}
=
\frac{k}{\cos^2 x + k^2\sin^2 x}
=
\frac{2k}{1+k^2+(1-k^2)\cos 2x}\end{eqnarray*}


なので、
\begin{eqnarray*}\left\{G_0\left(\frac{x}{2}, \sqrt{\frac{p-1}{p+1}}\right) \rig...
...^2-1}}{2p+2\cos x}
=
\frac{\sqrt{p^2-1}}{2} \frac{1}{p+\cos x}\end{eqnarray*}


となり、よって (13) の滑らかな原始関数による積分は、
\begin{displaymath}
I_2 = \frac{2}{\sqrt{p^2-1}} 
G_0\left(\frac{x}{2}, \sqrt...
..._1\left(\frac{x}{2}, \sqrt{\frac{p+1}{p-1}}\right) + C
\right)\end{displaymath} (18)

であることがわかる。これが、$x=\pm n\pi$ で不連続性の 段差を持つ (14) を、 すべての $x$ に対して滑らかに拡張したものになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年12月22日