5 マクローリン展開による表示

2 節、3 節の途中でも 少し触れたが、実は $I_1$, $I_2$, $I_3$ の最終的な形は、 $e^{-x}$$\sin x$, $\cos x$ のマクローリン展開の 有限部分を持っている。この節で、その表現を見ておこう。 そのため、関数 $f(x)$$n$ 次のマクローリン展開を、便宜的に
  $\displaystyle
[f(x)]_n = \sum_{k=0}^n\frac{x^k}{k!}f^{(k)}(0)$ (23)
と書くことにする。なお、本節も $\alpha = 1$ の場合のみを考える。

まず、巾乗と指数関数の積の (6) には $e^{-x}$ の マクリーリン展開が含まれていて、

  $\displaystyle
\frac{(-1)^n}{n!}I_1(x;n,1)
= \int\frac{(-x)^n}{n!}e^x dx
= e^x[e^{-x}]_n + C$ (24)
となる。

三角関数の $I_2$, $I_3$ の展開形式の表現は、 (14), (15) から得るか、または (17) と (19) (と加法定理) から 得ることもできるが、ここでは前者でやってみる。

まず、(13) より

\begin{eqnarray*}I_2(x;0,1) &=& \int \cos x dx = \sin x + C
\\
I_3(x;0,1) &=&...
...\\
I_3(x;1,1) &=& I_2(x;0,1) - x\cos x
= -x\cos x + \sin x + C\end{eqnarray*}

となる。(14) より、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{(-1)^n}{(2n)!}I_2(x;2n,1)}
\\ &=&
\frac{(-1)^{...
...\left(\sum_{k=1}^n\frac{(-1)^kx^{2k-1}}{(2k-1)!}\right)\cos x + C\end{eqnarray*}

より
$\displaystyle \frac{(-1)^n}{(2n)!}I_2(x;2n,1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int \frac{(-1)^nx^{2n}}{(2n)!}\cos x dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle [\cos x]_{2n}\sin x -[\sin x]_{2n-1}\cos x + C$ (25)

が得られる。同様に、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}I_2(x;2n+1,1)}
\\ &=&
\frac{(-...
...
+ \left(\sum_{k=0}^n\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!}\right)\cos x + C\end{eqnarray*}

より
$\displaystyle \frac{(-1)^n}{(2n+1)!}I_2(x;2n+1,1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int \frac{(-1)^nx^{2n+1}}{(2n+1)!}\cos x dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle [\sin x]_{2n+1}\sin x +[\cos x]_{2n}\cos x + C$ (26)

となる。

$I_3$ の方は、(14) と (15) より、 $I_2$$\sin x$$-\cos x$ に、 $\cos x$$\sin x$ にすればよいので、

$\displaystyle \frac{(-1)^n}{(2n)!}I_3(x;2n,1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int \frac{(-1)^nx^{2n}}{(2n)!}\sin x dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -[\cos x]_{2n}\cos x -[\sin x]_{2n-1}\sin x + C$ (27)
$\displaystyle \frac{(-1)^n}{(2n+1)!}I_3(x;2n+1,1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int \frac{(-1)^nx^{2n+1}}{(2n+1)!}\sin x dx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -[\sin x]_{2n+1}\cos x +[\cos x]_{2n}\sin x + C$ (28)

となる。 なお、(25) と (28)、 (26) と (27) の形が 似ている (実際 1 項しか違わない) のは、 (13) がその理由である。

なぜ、このようなマクローリン展開が含まれるのかを少し考えてみる。 マクローリン展開 $[f]_n$ の性質として、次の 2 つが容易にわかる。

$\displaystyle [f]_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle [f]_{n-1} + \frac{x^n}{n!}f^{(n)}(0)$ (29)
$\displaystyle {}
[f]_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle [f']_{n-1}$ (30)

なお後者は、$f$$n$ 次のマクローリン展開の導関数が、 $f'$$(n-1)$ 次のマクローリン展開となることを意味している。

これらを用いれば、例えば (24) は、右辺を微分すると、

\begin{eqnarray*}(e^x[e^{-x}]_n)'
&=&
(e^x)'[e^{-x}]_n+e^x([e^{-x}]_n)'
\ =\...
...ght\vert _{x=0} \frac{x^n}{n!}e^x
\ =\
\frac{(-1)^nx^n}{n!}e^x\end{eqnarray*}

となり、確かに (24) の左辺の被積分関数に一致することがわかる。

同様に、例えば (25), (26) も

\begin{eqnarray*}\lefteqn{([\cos x]_{2n}\sin x-[\sin x]_{2n-1}\cos x)'}
\\ &=&
...
...n-1})\cos x
%\\ &=&
\ = \
\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}x^{2n+1}\cos x\end{eqnarray*}

となって、それぞれ左辺の非積分関数に一致することがわかる。 $I_3$ の方も同様に直接これらが成り立つことを証明できる。

ただし、これらはあくまで「証明」であって、 マクローリン展開が現われることの説明や理由にはなっていない。 そしてそれを考えていて、もう一つ、$I_1$, $I_2$, $I_3$ の 計算方法を見つけることができたので、まずそれを以下に紹介する。

$x^nf^{(n+1)}(x)$ の積分を部分積分すると、

$\displaystyle \int x^nf^{(n+1)}(x)dx = x^nf^{(n)}(x) - n\int x^{n-1}f^{(n)}(x)dx
$

となるので、両辺 $(-1)^n/n!$ 倍すれば

$\displaystyle \frac{(-1)^n}{n!}\int x^nf^{(n+1)}(x)dx
= \frac{(-1)^n}{n!}x^nf^{(n)}(x)
+\frac{(-1)^{n-1}}{(n-1)!}\int x^{n-1}f^{(n)}(x)dx
$

となり、よって、
$\displaystyle {\frac{(-1)^n}{n!}\int x^nf^{(n+1)}(x)dx
\ =\
\sum_{k=1}^n\frac{(-1)^k}{k!}x^kf^{(k)}(x)
+\int f'(x)dx }$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{k=0}^n\frac{(-1)^k}{k!}x^kf^{(k)}(x) + C$ (31)

となることがわかる。これを用いると (24) は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{(-1)^n}{n!}I_1(x;n,1)
\ =\
\frac{(-1)^n}{n!}\...
...um_{k=0}^n\frac{(-1)^k}{k!}x^ke^x + C}
\\ &=&
e^x[e^{-x}]_n + C\end{eqnarray*}

のようにして得られ、 同様に、$I_2$ の (25), (26) は

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{(-1)^{n}}{(2n)!}I_2(x;2n,1)
\ =\
\frac{(-1)^{...
...j}\sin x + C
\\ &=&
[\cos x]_{2n}\cos x+[\sin x]_{2n-1}\sin x+C\end{eqnarray*}

として得られることがわかる。

ここから考えると、(31) の式は若干マクローリン展開の式に 似てなくもないが、実際には $x=0$ を代入した微分係数も含まれておらず だいぶ違っていて、 よって $I_1$, $I_2$, $I_3$ にマクローリン展開が含まれるのは、 $e^x$$\sin x$, $\cos x$$n$ 階導関数で 形が変わらないことによる偶然で、たまたまそのような形になっている、 と思われる。 すなわち、$f(x)=e^x$ ならば

$\displaystyle f^{(k)}(x) = e^x = e^xf^{(k)}(0)
$

$f(x)=\cos x$, $g(x)=\sin x$ ならば

\begin{eqnarray*}f^{(2k)}(x) &=& (-1)^k\cos x = f^{(2k)}(0)\cos x - g^{(2k)}(0)\...
... &=& (-1)^{k-1}\cos x = f^{(2k-1)}(0)\sin x + g^{(2k-1)}(0)\cos x\end{eqnarray*}

なので、これらの高階導関数が高階微分係数で表されて、 たまたま (31) がマクローリン展開の形となる、 といった具合である。

そのことを示す例を一つ紹介する。 部分積分が良く使われる例として、次のようなものもある。

  $\displaystyle
I_5(x;n,p,\alpha) = \int x^n(x+\alpha)^p dx\hspace{1zw}(\alpha\neq 0)$ (32)
これも、$(x+\alpha)^p$ の方を積分する部分積分で $x^n$ の 次数を一つずつ下げることで積分できるものであるが、 例えば $p=5$, $\alpha = 1$, $n=2$ の場合を考えると、 (31) により

\begin{eqnarray*}\lefteqn{I_5(x;2,5,1)
\ =\
\int x^2(x+1)^5 dx
\ =\
2\cdot...
...8-x\cdot 8(x+1)^7+\frac{x^2}{2!}\cdot 8\cdot 7(x+1)^6\right\}
+C\end{eqnarray*}

となることがわかるが、 これは $(x+1)^p$ のマクローリン展開は含まれてはいない。

よって (31) の積分結果にマクローリン展開が含まれるのは、 微分によって形が変わらない $e^x$$\sin x$, $\cos x$ だけに起こる 特別な現象であることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-03-12