右手系とは、右手の親指、人差し指、中指でそれぞれ 軸、 軸、 軸を 自然に表すことができるものを指し、そうでないものを左手系と呼ぶ (図 1)。 また、これらは必ずしも直交軸だけではなく、 同一平面上にない 3 つのベクトルに対しても同様の意味で用いられることもある。
又は、指ではなく右ねじを使って 「 軸の正の方向を 軸の正の方向に 回転する向きに 右ねじを回したときに、ねじの進む方向が 軸と一致する場合が 右手系」という表現もある (図 2)。
これらはいずれにせよ、視覚的な説明であり、数式による定義ではない。 では、数式で右手系か左手系かを定義することはできないのだろうか。
例えば、3 次元ベクトルの外積
は、 , に垂直なベクトルで、 という性質が知られているので、それを利用すれば、 軸、 軸、 軸の正の方向の単位ベクトル , , に対して とすれば図を用いずに右手系を数式で定義できそうだが、 残念ながらこれはうまくいかない。 それは、 , , が右手系か左手系かに関わらず、 常に と は同じ向きとなる (より詳しくは となる) からである。つまり、「 , , 」は、 実は右手系になるのではなく、 常に軸方向 , , と同じ手系になり、 よって、座標軸が右手系なら , , も右手系、座標軸が左手系なら左手系になる だけなのである。
だから、(4) の性質を持つためには、 元々「座標系が右手系である」という前提が必要であり、 どの本でも、外積を定義する前 (あるいは少なくとも外積の基本性質を述べる前) に、 必ず「座標系は右手系と仮定する」という意味の文言が書かれているはずである。
逆に外積を図形的に定義して、そこから (3) を 導く順番で説明する本もあるが、 それもやはり座標系が右手系という仮定がなければ、 (3) を得ることはできない。
外積によって、任意のベクトルの組が、規準となる座標系と同じ手系か 異なる手系かの判断はできても、座標系の規準自体を決めるのに 外積を用いることはできない。
他にも、行列式
は、ベクトル , , のスカラー三重積 に一致し、 それは , , が作る平行六面体の 符号付き体積となり、その符号は、 , , が右手系ならばプラス、 , , が左手系ならばマイナスとなる、 ということが知られている (4 節 補題 2) が、 これもあくまで座標軸が右手系である、という前提の話で、 座標軸が左手系ならば、手系と行列式の符号の関係は逆になる。つまり、外積と同じで、座標軸の手系と同じか違うかは確認できても、 それを座標軸の手系を定義することには使えない。 実際、 , , の手系に関わらず となってしまう。
実は、数式で座標系の手系を規程することはできず、 例えば座標軸を「左手系」にしても、外積などで出てくる手系の話をすべて逆にすれば 「左手系のベクトル解析」は矛盾なく成立するのである。
本稿も、図 1 のような図による手系の定義により、 座標軸は右手系と取ることとしておく。
竹野茂治@新潟工科大学