9 行列式

(12) の $A$ のジョルダン標準形 $J$ に対し、 (15) より、
$\displaystyle \vert e^{At}\vert=\vert Qe^{Jt}Q^{-1}\vert=\vert Q\vert\vert e^{Jt}Q^{-1}\vert=\vert e^{Jt}Q^{-1}Q\vert=\vert e^{Jt}\vert
$
となる。一方、$e^{Jt}$ は三角行列なので、 その行列式は対角成分の積に等しい。 $e^{J(\lambda_j,k_j)t}$ の対角成分は、 定理 6.1 より $e^{\lambda_j t}$$k_j$ 個 並ぶので、よって、
$\displaystyle \vert e^{Jt}\vert
=\prod_{j=1}^s(e^{\lambda_j t})^{k_j}
= e^{(k_1\lambda_1+\cdots+k_s\lambda_s)t}
$
となる。ここで、
$\displaystyle k_1\lambda_1+\cdots+k_s\lambda_s
$
$J$ のトレース $\mathrm{tr}(J)$、すなわち対角成分の和に等しい。 また、一般に正方行列 $A,B$ に対して、
$\displaystyle \mathrm{tr}(AB)
= \sum_{j=1}^n\left(\sum_{k=1}^na_{jk}b_{kj}\right)
= \sum_{k=1}^n\left(\sum_{j=1}^nb_{kj}a_{jk}\right)
= \mathrm{tr}(BA)
$
となるので、よって、
$\displaystyle \mathrm{tr}(J) = \mathrm{tr}(Q^{-1}AQ) = \mathrm{tr}(QQ^{-1}A) = \mathrm{tr}(A)
$
であるから、結局以下が成り立つ。

定理 9.1 $\vert e^{At}\vert=e^{\mathrm{tr}(A)t}$

竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-02