次正方行列に対しては、ケーリー・ハミルトンの公式が成り立つことが 知られている。すなわち、 の固有多項式を ( 次式) とすると、
となる。これにより、 が の一次結合、 すなわち の 次以下の多項式として表され、 さらに任意の () も同様に 次以下の の多項式で 表されることになる。よって、そのような項の無限和である も の 次以下の多項式で表される、 ということが想像されるが、それを考えてみる。
まず、「無限次の多項式」のような解析関数 (ベキ級数) に対する剰余計算 に関する定理を紹介する。
関数 が
で定義され で収束する解析関数であるとし、 を 次多項式
とする。このとき、解析関数 (商) と 次以下の 多項式 (余り) が存在して、 が成り立つ。なお、, は一般に複素数とする。
証明
を (の範囲で) 1 次式の積に因数分解する。
この定理 8.1 により、
となるような解析関数 と 次以下の 多項式 が存在することになる。今、 の固有値を とすると、 なので、(32) に代入すると
が成り立つことになる。 は高々 次式であるからその係数は 個以下で、 よってもしすべての固有値 が異なれば、 (33) からその係数を決定でき ( で表され)、 が求まる。 すなわち、未定係数 を用いて次に固有値に重解がある場合を考える。 固有値 が の 重解である場合、 (33) の方程式のうち 本が 1 本の同じ方程式に なってしまうが、 この場合 は で割り切れるので、 の 階までの導関数に対して
以上により、固有値に重解がある場合も含めて が求められ ることになり、 そして (32) に を代入すると、 (30) により
のように、行列乗が の 次以下の多項式で表されることになる。前節で計算した を、この方法で計算してみる。 まずは、
次に、
こちらの計算では、固有ベクトル、広義固有ベクトルの計算はないが、 を求める連立方程式の計算と の計算が必要で、 さらに による表現を求める場合は (37) の行列の 定数倍の和の計算が必要になる。 理論展開にはジョルダン標準形の方が良いかもしれないが、 具体的な の計算をするには、 こちらのケーリー・ハミルトンの公式を利用する方が最終目的にも少し近く、 計算もやや易しい気がする。
なお、 を経由せずに直接 が計算できればもっと楽になるが、 そのような計算法があるかどうかまではわからなかった。
竹野茂治@新潟工科大学