10 積分
最後に、 の積分について紹介する。
簡単なものは既に計算しているが、本稿ではより一般の について考える。
通常の関数からの類推で、
(38)
となることが容易に予想されると思う。実際、 が正則であれば、
となるので、確かに (38) が成り立つ。
しかし、 は が正則ではない場合も存在し、
そして積分もできるので、その場合どうなるかも考えてみる。
ジョルダン標準形による表現 (15) より、
となるので、個々のジョルダン細胞に対して考えればよい。
なので、
ジョルダン細胞 が正則であることは と
同値であり、その場合は
が存在し、
(38) により
となる。この
をここで求めておく。
定理 10.1
のとき、
(39)
証明
(39) の右辺を とすると、 より、
よって、 のときは、
の積分は、
となる。例えば、
等となる。
一方 の場合は、
と単純な の多項式になるのでむしろ積分は容易で、
となる。これは当然 の逆行列では表現できないが、
これをあえて の場合の形に近い、
の形に表すとすると、 は
となるが、ここで最後の内側の和の部分を とすると、
となるので、よって
となる。
実際は、
を求めてからそれを に
かけることは、むしろ直接積分を計算するより面倒なので特に意味はないが、
これを使えば一応統一的に とある行列の積の形にすることができる。
例えば、 として、 のジョルダン標準形が、
である場合、
となり、
と、(38) に近い形で書けることになる。
ただし、 は定数ではなく、
0 の固有値の部分は の多項式を含むところが異なる。
より一般のジョルダン標準形の場合も同様である。
竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-02