5 交代行列の標準形への変形
前節で見たように交代行列 の固有値を
とする。このとき定理 3.4 より、
(2)
となるようなユニタリ行列 が存在する。
実は、この を用いて、(1) の標準形へ直す が
ほぼ作れるのであるが、そのために順番にその性質を見ていく。
まず、 の列ベクトルを、
と書くことにすると、これらは互いに垂直な (複素) 単位ベクトルで、
(3)
となる。以下、これらを実部と虚部に分けて、
と書くことにする。
補題 5.1
-
、
()
- に対して
、
、
(
)
- 任意の
に対し、
,
()
証明
まず、
より、
(4)
となることに注意する。
1.
に対し、
なので、(4) より、
となるから、 より
が得られる。
ここで、
は単位ベクトルだから、
なので、よって
が得られる。
また、
となるので、 より
となり、
が得られる。
2. 仮定より、複素ベクトルとして
なので、
より、
(5)
となる。また、1. と同様にして、(4) より、
となる。これに (5) を代入すると、
となるが、
より
, そして (5) より
も言えて、
,
が
得られる。また、
となるが、これに (5) を代入すると、
となるので、
,
も言える。
3.
より、
となるので、 より
、よって
、また
より
となる。
なお、補題 5.1 は、
の
実部、虚部のみについて述べているが、同様のことは、
の実部、虚部についても成り立つ。
ただし、それらは今後の議論では必要ないし、
の両辺の共役を取れば、
となるので、実は
を
と
取りかえることも可能である。
また、補題 5.1 の 3. より、
,
も
,
に
垂直であることが言えることになるが、
,
も今後の議論には直接は必要ない。
さて、 の固有値 0 に対する固有ベクトル
は 内の
ベクトルで、互いに垂直で、よって線形独立なので の
次元は 以上となる。
もし からさらにこれらに線形独立な
が
とれたとすると矛盾が起きることを示す。
は
の
基底なので、
と書けるが、
と (3) より
となる。
,
は線形独立だから
となり、よって
となるが、これは
(
),
が線形独立、という仮定に矛盾する。
よって、 にはこれ以上線形独立なベクトルを取ることはできず、
の次元は となることがわかる (
が正規直交基底)。
よって補題 4.1 より の次元も となり、
その 個の実ベクトルからなる正規直交基底
を取ることができる (これは
の代わりの の正規直交基底にもなる)。
また、補題 5.1 の 1.,2. より、
() の 個の
実ベクトルは互いに垂直な単位ベクトルとなる。
よって、補題 5.1 の 3. より、 個のベクトル
は、互いに垂直な単位ベクトルで、
(6)
を満たす。よって、
とすれば、 は直交行列で、(6) より
(1) の に対して と
なることがわかる。
これで、交代行列の標準形 への変形が、
各固有ベクトルを元にして作れることがわかった。
竹野茂治@新潟工科大学
2024-03-28