本稿で一番基本的で重要な定理は以下のものである。
1. 帰納法を用いる。 なら で成立する。 次以下なら成立するとして、 の場合に成立することを示す。
の固有値 を 1 つ、 その固有ベクトル を 1 つとる。 なお、 としてよい。
この を含む の正規直交基底 を取り、 とすると、 この はユニタリ行列で、
2. 1. のユニタリ行列の代わりに直交行列を取ることができることを 見ていけばよい。
上の証明のうち、固有値 と 固有ベクトル を取る部分は、仮定より と なるから、 の成分もすべて実数なので、 固有ベクトルも のものが取れる。 あとは、 も の正規直交基底が 取れるので、帰納法の仮定も直交行列に書き換えれば、 上の証明でそのまま示すことができる。
この定理 3.2 は、 になんら仮定をしておらず、 任意の正方行列について成り立つところが重要であり、 すなわち対角化については、それが可能になるには色々な制限がつくのであるが、 三角行列に直すだけなら制限なく常に可能で、 しかもユニタリ行列や直交行列のような都合のいいものでそれができる、 という非常に有益な定理である。
そして、我々が考える対称行列、交代行列、さらにより一般のエルミート行列、 歪エルミート行列に対しては、 この定理 3.2 から直ちにそれらの対角化可能性が得られる。 その前に、それらの固有値に関する補題を一つ紹介する。
1. をエルミート行列とする。その固有値を , 固有ベクトルを とする。
2. を歪エルミート行列とすると、上と同様の計算で、
この補題 3.3 と定理 3.2 を組み合わせれば、 次の結果が得られる。
1. に対して定理 3.2 の 1. より、
が歪エルミート行列の場合も、 より、
2. 対称行列 の固有値は、補題 3.3 より すべて実数なので、定理 3.2 の 2. より、
これで、複素数の範囲ではエルミート行列、歪エルミート行列が対角化可能、 実数の範囲で対称行列が対角化可能であることがわかったことになる。 このように、対称行列の対角化定理は比較的シンプルに得られるが、 交代行列の方は固有値は実数ではなく、よって実数の範囲で対角化は できず、ここから先は少し面倒である。
なお、 がユニタリ行列で対角化可能ということは、 の (複素) 固有ベクトルで正規直交基底が作れることを意味することに 注意する。
竹野茂治@新潟工科大学