5 一般項の決定
ここまで、ケイリー・ハミルトンの公式を利用して、
の次数を下げて計算する逐次計算を見てきたが、
2 次の正方行列の場合には、その係数 , の一般項を
初等的に求めることもできる。
それは、, に関する漸化式を解く方法でも求めることは
できるが、ここではケイリー・ハミルトンの公式から
考えてみることにする。
固有多項式のゼロ点を求める方程式
(10)
を固有方程式と呼ぶ。この固有方程式の解によって場合分けして考える。
まず、(10) が 2 つの実数解 (
) を持つときを考える。
この場合、
と因数分解され、
であるから、
(11)
が成り立つことになる。
ただし、行列の場合には、ここから
が
言えるわけではない。
(11) を半分展開すると、
となるから
(12)
が得られる。同様に の方を半分展開すると、
(13)
となる。
(12) の左から 倍すると、
となるので、再び (12) を用いれば、
となる。これを繰り返すと、すべての に対して
(14)
となることがわかる。同様に、(13) を用いれば、
(15)
が得られる。
(14) の 倍から (15) の 倍を引けば、
となるので、
より、
(16)
のように書け、, の一般項が得られることになる。
例えば、3 節の (3) の の場合、
なので、, で、よって (16) より
となり、3 節の計算結果にも一致する。
(10) が 2 つの虚数解を持つ場合も、
であれば上と同じ議論が行えるので、
(16) が成立する。
最後に、(10) が重解 を持つ場合を考える。
もし、 ならば、(11) より なので、この場合は に対して となる。
よってあとは が重解で の場合を考えればよい。
この場合は、(14) と同様にして、
が成立することはわかるので、これを展開して で割ると
(17)
となる。これは、行列の「数列」として、
が
この右辺を公差とする等差数列であることを意味するので、その一般項は
となり、よって、
(18)
が得られることになる。例えば、
の場合、(10) は
なので重解 を持ち、よって (18) より
となる。実際、 より、
となる。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-11-27