3 2 次の正方行列の累乗の逐次計算

ケイリー・ハミルトンの公式 (1) を用いると、 2 次の正方行列の累乗 $A^n$ を、 行列の積を用いずに行列のスカラー倍と和だけで計算することができる。

例えば、

  $\displaystyle
A=\left[\begin{array}{rr}2&-4\\ 3&-5\end{array}\right]$ (3)
に対しては、 (1) より $A^2-(2-5)A+(-10+12)E=O$、 すなわち
  $\displaystyle
A^2=-3A-2E$ (4)
が成り立つので、
$\displaystyle A^2
= \left[\begin{array}{rr}-6&12\\ -9&15\end{array}\right]+\le...
...&-2\end{array}\right]
= \left[\begin{array}{rr}-8&12\\ -9&13\end{array}\right]
$
と、行列の積を用いずにスカラー倍と和のみで $A^2$ が求まる。 $A^3$ は、(4) の両辺を $A$ 倍して、
$\displaystyle A^3 = A(-3A-2E)=-3A^2-2A
$
となるが、これに再び (4) を代入すれば、
$\displaystyle A^3 = -3(-3A-2E)-2A = 7A+6E
$
となり、よって
$\displaystyle A^3
= \left[\begin{array}{rr}14&-28\\ 21&-35\end{array}\right]+\l...
...&6\end{array}\right]
=\left[\begin{array}{rr}20&-28\\ 21&-29\end{array}\right]
$
と求まる。$A^4$ も同様に
$\displaystyle A^4 = A(7A+6E) = 7A^2+6A = 7(-3A-2E)+6A = -15A-14E
$
となるので、積を計算せずにスカラー倍と和のみで $A^4$ が計算できる。 以下同様にして、$A^n$ はすべて
  $\displaystyle
A^n = p_nA+q_nE$ (5)
の形に表せることになる。 なお、この $p_n$, $q_n$ は、
\begin{eqnarray*}A^{n+1}
&=&
p_{n+1}A+q_{n+1}E
\\ &=&
A(A^n)
= A(p_nA+q_nE)
= p_nA^2+q_nA
= p_n(-3A-2E) + q_nA
\\ &=&
(-3p_n+q_n)A - 2p_nE\end{eqnarray*}
より、漸化式
  $\displaystyle
p_{n+1}=-3p_n+q_n,\hspace{1zw}q_{n+1}=-2p_n,\hspace{1zw}(p_1,q_1)=(1,0)$ (6)
を満たし、これを用いて計算することもできる。 例えば、($p_2,q_2$)=($-3,-2$), ($p_3,q_3$)=($7,6$), ($p_4,q_4$)=($-15,-14$) といった具合で、 これを利用する方が、前の計算よりはらに少し楽になる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-11-27