6 N 次の場合
5 節の方法は、 次の正方行列にも拡張できるが、
固有方程式に重解があるとかなり煩雑になる。
本節では、まず固有方程式に重解がない場合の一般的な結果を紹介し、
重解がある場合も簡単な場合に限って説明をする。
まず、固有方程式の解を (
) とし、
これらはすべて互いに異なるとする。
このとき、固有多項式 は
と因数分解されることになるが、
そこから を抜いた 次式を と書くことにする。
(19)
これに対し、次の恒等式が成り立つことに注意する。
(20)
これは、形式的には、
と置いて、 とすると、 以外の右辺の項は 0 に
なるので、
となり、そこから (20) が得られる。
一方、(20) の両辺はいずれも 次式で、
個の異なる値 () で両辺の値は一致するので、
等号が恒等的に成り立つことが保証される。
さて、 は、
と書けるので、
ケイリー・ハミルトンの公式より、
となるから、
(21)
が成り立つ。
これが前節の (12), (13) に対応する。
よってここから、 に対して
(22)
が得られ、これがすべての に対して成立する。
(20) は恒等式なので、
当然 を にした式も成立し、よって、
(23)
となるが、両辺に をかけると (22) により、
となり、よって任意の に対して、
(24)
が成立することになる。
右辺の は の 次式なので、
これで が の 次式として表されたことになる。
なお、これは では (16) の最後の式に対応している。
次は、 の場合で、固有方程式に重解が含まれる場合を考える。
その場合の考察には、
- 上と同様の方法
- 重解が含まれない場合の、
解が
の場合の を表す式
で、
の極限を取る方法
- 割り算による方法
などがあるが、ここでは、少し面倒だが上と同様の手法で考えてみる。
まずは、固有方程式の解が
(
) の
場合を考える。
この場合、
となるので、
(22) と同様にして、
から、 に対して
(25)
が得られる。1 本目の 倍から 2 本目の 倍を引くと、
より、
(26)
が に対し得られるが、これは でも成立する。
ここで、もし ならば、少し戻って (25) の 2 本目の式から、
となり、
よって
() となることがわかる。
の場合は、
(26) の左辺を展開して で両辺割ると、
となり、これを から まで加えると、
となり、よって
となる。これが、 が重解の場合の式となる。
さらに、 が の三重解、すなわち
の
場合は、
より、
しか得られないが、左辺を一つ展開して で割ると、
となるので、これを から まで加えると、
が得られる。さらにこの を として、
両辺を で割って左辺を展開すると、
となるので、再び から まで加えると、
となり、結局
(28)
が成り立つ。
なお、これは で成り立つが、 でも成立する。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-11-27