5 巾乗関数

最後は巾乗関数 $y=x^\alpha$ ($x>0$) の導関数の公式
\begin{displaymath}
(x^\alpha)' = \alpha x^{\alpha-1}\end{displaymath} (15)

を示す。 まずは、2 節同様のスケール変換の手法で $x=1$ に帰着させる。 $f(x)=x^\alpha$, $g(x)=f(x)/p^\alpha$ とすると ($p>0$)、 $y=g(x)$$x=p$ での傾き $g'(p)$ $f'(p)/p^\alpha$ に等しい。 一方、
\begin{displaymath}
g(x)
= \frac{f(x)}{p^\alpha}
= \frac{x^\alpha}{p^\alpha}
= \left(\frac{x}{p}\right)^\alpha
= f\left(\frac{x}{p}\right)
\end{displaymath}

より、$y=g(x)$$y=f(x)$$x$ 方向に $p$ 倍したグラフなので、 $y=g(x)$$x=p$ での傾き $g'(p)$$y=f(x)$$x=p/p=1$ での傾き $f'(1)$$1/p$ 倍となる。 よって $g'(p)=f'(1)/p$ となるので、
\begin{displaymath}
g'(p) = \frac{f'(p)}{p^\alpha} = \frac{f'(1)}{p}
\end{displaymath}

より、$p$ の任意性により
\begin{displaymath}
f'(x) = f'(1)x^{\alpha-1}\end{displaymath} (16)

となることがわかる。後は、$f'(1)=\alpha$ であることを示せばよい。 しかしここからが難しい。

ここでは両対数グラフを利用する。 両対数グラフは良く知られるように $x$ 軸、 $y$ 軸の目盛を指数的 (通常底 $a$ は 10) に取って 表現するもので (図 7 左)、 言いかえれば見た目の位置を表す軸 $(X,Y)$ の平面に写像した グラフを書くものである (図 7 右)。ここで、

\begin{displaymath}
X = \log_a x,\hspace{0.5zw}Y = \log_a y
\end{displaymath}

である。
図 7: 両対数グラフ (左) と対数軸と見た目の軸 (右)
\includegraphics[height=0.3\textheight]{nlm-power1.eps}

このグラフ上では、$y=x^\alpha$

\begin{displaymath}
Y
= \log_a y
= \log_a x^\alpha
= \alpha\log_a x
= \alpha X
\end{displaymath}

となり、つまり両対数グラフでは傾き $\alpha$ の直線となる。

これが、元の $xy$ のグラフではどのような傾きになるかを考えてみる。

まず、$x$ 軸と $X$ 軸の長さの変化を考えてみる。 $X=\log_a x$ のグラフを考えればわかるが (図 8)、

\begin{displaymath}
\frac{dX}{dx} = \frac{1}{x\log_e a}
\end{displaymath}

より、$x$ 軸の $x=p$ での短い長さ $\ell$ は、 $X$ 軸の $X=\log_a p$ の場所での $\ell/(p\log_e a)$ の長さに変わる。
図 8: 対数軸での傾きと長さの変化
\includegraphics[height=0.3\textheight]{nlm-power2.eps}

$y$ 方向も同様であるので、 ここから、$xy$ 平面の $(x,y)=(s,t)$ での傾き $\beta$、 すなわち $x$ 方向の底辺 $\ell$、高さ $\beta\ell$ は、 両対数グラフの $XY$ 平面の位置 $(X,Y)=(S,T)=(\log_a s, \log_a t)$ では、 $X$ 方向の長さは $\ell/(s\log_e a)$ に、 $Y$ 方向は $\beta\ell/(t\log_e a)$ になるので、その傾きは

\begin{displaymath}
\frac{ \displaystyle \frac{\beta\ell}{t\log_e a} }%
{\displaystyle \frac{\ell}{s\log_e a}}
=\frac{\beta s}{t}\end{displaymath} (17)

へと変わることになる。

$f(x)$ の場合、$(x,y)=(1,1)$ での傾き $f'(1)$ は、 両対数グラフでは傾きが $\beta s/t = f'(1)$ になっているはずで、 それが $\alpha$ に等しいので、よって $f'(1)=\alpha$ であることがわかる。 これで (16) より (15) が 示されたことになる。

なお、(17) を使うのであれば、 スケール変換を行って (16) を導かなくても、 最初から $y=f(x)$ $(x,y)=(p,f(p))$ での傾き $f'(p)$ が 両対数グラフでは $f'(p) p/f(p)$ に変わることがわかり、 それが $Y=\alpha X$ の傾き $\alpha$ に等しいので、

\begin{displaymath}
f'(p) = \alpha \frac{f(p)}{p} = \alpha p^{\alpha-1}
\end{displaymath}

となり、(15) が得られる。 なお、この (17) を用いる証明法は、 いわゆる「対数微分法」に相当する。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年4月11日