4 三角関数

この節では、$\sin x$$\cos x$ の導関数の公式
$\displaystyle (\sin x)'$ $\textstyle =$ $\displaystyle \cos x$ (12)
$\displaystyle (\cos x)'$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\sin x$ (13)

を示す。そのために、まずは三角関数のグラフの作り方について考え直す。

通常高校の教科書では一般角の三角関数の定義は、 単位円の円周上の点の座標と中心角の関係による。 今回は、後の説明を考えて、 次のように三角関数のグラフを以下のように考える。 なお、以下の方法による三角関数のグラフの作成は、 以前私が使用していた教科書 [2] の表紙で紹介されていたものである。

図 3: 正方形のフィルムを丸めて $\sin x$ のグラフを作る
\includegraphics[height=0.3\textheight]{nlm-sin1.eps}
縦横 $2\pi$ の長さの正方形の透明なフィルムの対角線に 1 本線を引き、 そのフィルムの横軸を $X$ ( $0\leq X\leq 2\pi$)、 縦軸を $Y$ ( $0\leq Y\leq 2\pi$) とする (図 3 左)。 この場合対角線は $Y=X$ となる。 このフィルムの $Y$ 方向を丸めて円筒にして (図 3 右上)、 そのつなぎ目が水平軸となるように側面から見ると、 元の対角線が $y=\sin x$ のグラフの形の曲線として現れること が以下のようにしてわかる。

この円筒を側面として見る際、つなぎ目が手前の真ん中に来るようにして、 その元の $X$ 軸 (と同じ向きの軸) を丁度 $x$ 軸と見て、 見た目の縦方向を $y$ 軸と見ることにする (図 3 右下)。 円筒断面 (または底面) の円は、円周が $2\pi$ なので半径 1 の円となる。 よって、この円筒は $x$ $0\leq x\leq 2\pi$, $y$ $-1\leq y\leq 1$ の範囲に収まっている。

この曲線上の $x=p$ の点を考えると、 それは元の正方形では $(X,Y)=(p,p)$ という点に対応する。 よってその点は円筒断面の円では出発点 (つなぎ目) から言うと 円弧が $p$ だけ進んだ点ということになり、 その円の半径は 1 なので、中心角としてラジアン単位で $p$ だけ 進んだ点 ($Y=p$) ということになる (図 4)。 よって、そのときの高さ ($y$ 座標) は $y=\sin p$ となるので、 $xy$ 平面では元の対角線は $y=\sin x$ のグラフを表すことがわかる。

図 4: $x=p$ でのグラフの高さ
\includegraphics[height=0.2\textheight]{nlm-sin2.eps}
図 5: $y$ 軸への射影による縮小
\includegraphics[height=0.2\textheight]{nlm-sin3.eps}

次は、このグラフ $y=\sin x$ の傾きを考えてみる。 元のフィルムの上の対角線は、$Y=X$ なので傾きは 1 であるが、 $y=\sin x$ のグラフはそれを丸めてつなぎ目の方向から見たもの、 すなわち $xy$ 平面への射影となっていて、その際に傾きが変化する。 丸めて射影しても $X$ 方向から $x$ 方向への線分の長さの 変化はないので、変化があるのは $Y$ 方向から $y$ 方向への対応であり、 その分傾きが変わることになる。

$x=p$, $y=\sin p$ ($0<p<\pi/2$) の位置では、 $Y$ 方向の短い長さ $\ell$ は 円筒では円筒断面の短い円の弧の長さになり、 それで射影した $y$ 方向ではほぼ $\ell\cos p$ という 長さに変わるので、$\cos p$ 倍に縮小されることになる (図 5)。

ここから、$y=\sin x$$x=p$ での傾きは $\cos p$ になることがわかる。

$\pi/2 <p<\pi$ では、対角線は裏側の面に行って負の傾きになり、 $Y$ 方向の長さ $\ell$$y$ 方向には $\ell\cos(\pi-p) = -\ell\cos p$ となる。よって、$p$ での傾きは、 $-(-\cos p) = \cos p$ となる。 $\pi<p<3\pi/2$, $3\pi/2<p<2\pi$ の場合も 同様に $p$ での傾きが $\cos p$ となることが示される。

なお、この方法だと、$p=0$ では、円筒を真正面から見ているので、 $y$ 方向への長さも変化はなく、 よって傾きが 1 のままであることが直感的にわかるが、 これは $y=\sin x$$x=0$ での傾きが 1、極限で表現すれば

\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow 0}\frac{\sin x}{x}=1\end{displaymath} (14)

であることを意味する。 通常の三角関数の導関数は、(14) を出発点にして、 (12), (13) を示すのであるが、 良く知られているように (14) の証明には 循環論法の批判もある。 しかし、本稿の方法ならば (14) を必要としない。

$\cos x$ の導関数 (13) の方は、円筒のつなぎ目を上にして 横から見れば $y=\cos x$ のグラフになるので、 上と同じ考察をそれに対して行ってもよいが、 $y=\sin x$ のグラフを $x$ 方向に $-\pi/2$ 平行移動すれば $y=\cos x$ グラフになるので、 (12) より $y=\cos x$ のグラフの $x=p$ での 傾きは $\cos x$$x=p-\pi/2$ での値となり、

\begin{displaymath}
\left.(\cos x)'\right\vert _{x=p}
= \cos \left(p-\frac{\pi}{2}\right)
= -\sin p
\end{displaymath}

より (13) が得られる。

なお、上のような「ほぼ $\ell\cos p$」よりもう少し直接的な説明も可能である。 それは、元々のフィルムに底辺と高さが 1 の直角二等辺三角形の三角定規を貼る、 と考える方法である (図 6)。

図 6: 長さ 1 の三角定規を貼る
\includegraphics[height=0.3\textheight]{nlm-sin4.eps}
元々の図の、$(x,x)$ の位置を左下にして三角定規の底辺部分のみテープで 止める。当然定規の傾きは 1 であるから丸める前は黒線に接している。 このままフィルムを丸めて三角関数のグラフを作ると、 三角定規の斜辺の部分はグラフに接したままで、 正面から見た三角定規は底辺は 1 のままであるから、 よってこの三角定規の正面から見た高さが $\sin x$$x$ での グラフの傾きを表すことになる。

その位置は横から見れば中心角が $x$ の位置で、 横から見た定規の長さは、定規の元の高さの 1 に等しいから、 よってその定規の高さは $\cos x$ となる。

これにより $\sin x$ の傾きが $\cos x$ となる、という説明である。 これなら「ほぼ $\ell\cos p$」という議論は不要であるし、 $\sin x$ の傾きが $\sin(x+\pi/2) = \cos x$ であることも かなり直感的にわかるのではないかと思う。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年4月11日