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7 その他の証明

5 節では $\varepsilon$ - $\delta$ 論法を用いて (3) のような基本的な定理を証明したが、 実際の計算を伴うような式ではむしろその基本的な定理の結果の方を利用し、 $\varepsilon$ - $\delta$ 論法自身は直接は使わないように思われるかもしれない。

しかし、$\varepsilon$ - $\delta$ 論法自身を具体的な問題で利用することも 可能だし、一見基本的な定理の利用や計算で証明できそうなものでも、 $\varepsilon$ - $\delta$ 論法を利用しないと証明が難しいものもある。 そのようなものを 2 つ程紹介する。


例 5

まずは、関数 $\sqrt{x}$ $(x>0)$ の連続性を証明する。 関数 $f(x)$$x=a$連続 であるとは、 感覚的にはグラフがつながっていることを意味するが、 数学的には次の条件を満たすことである。

そして、関数 $f(x)$連続関数 であるとは、 定義域内のすべての $x$ で連続であること、と定義される。

$f(x)=\sqrt{x}$ の定義域を $x>0$ とすれば ($x=0$ は除いておく)、 定義域のすべての $x$ でもちろん $f(x)$ の値は有限なので、 すべての $a>0$ に対して、

\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow a}\sqrt{x}=\sqrt{a}
\end{displaymath} (13)

を証明すればよい。 もちろん、これは高校の教科書等では証明せずに利用している事実であるが、 $\varepsilon$ - $\delta$ 論法を利用しないとこれは証明は難しい。

$\varepsilon$ - $\delta$ 論法からすると、証明すべきことは、 どんな $\varepsilon$ ($>0$) に対しても、

\begin{displaymath}
\vert x-a\vert<\delta\mbox{ ならば }\vert\sqrt{x}-\sqrt{a}\vert<\varepsilon
\end{displaymath} (14)

であるような $\delta$ をとることができればよい。

まず、 $\delta\leq a/2$ とする。そうしておけば、

\begin{displaymath}
\vert x-a\vert<\delta\leq \frac{a}{2}
\end{displaymath}

なので、

\begin{displaymath}
-\frac{a}{2}<x-a<\frac{a}{2}
\end{displaymath}

となり、よって

\begin{displaymath}
x>a-\frac{a}{2}=\frac{a}{2}>0
\end{displaymath}

なので、$x$$\sqrt{x}$ の定義域にちゃんと入ることになる。

また、

\begin{displaymath}
\vert\sqrt{x}-\sqrt{a}\vert
=
\left\vert\frac{x-a}{\sqrt...
...\vert}{\sqrt{x}+\sqrt{a}}
<
\frac{\vert x-a\vert}{\sqrt{a}}
\end{displaymath}

なので、 $\delta\leq\varepsilon\sqrt{a}$ とすれば、

\begin{displaymath}
\vert\sqrt{x}-\sqrt{a}\vert <\frac{\vert x-a\vert}{\sqrt{a}...
...\sqrt{a}}\leq\frac{\varepsilon\sqrt{a}}{\sqrt{a}}=\varepsilon
\end{displaymath}

となる。

よって、どんな $\varepsilon$ に対しても、 $\delta$ $\varepsilon\sqrt{a}$$a/2$ の小さい方とすれば (14) を満たすことができることがわかり、 (13) が言えたことになる。



例 6

次の命題は、一見基本的な定理の利用や計算で証明できそうなもので、 $\varepsilon$ - $\delta$ 論法を利用しないと証明が難しいものの一つである。


命題 7


\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}a_n = \alpha \mbox{ のとき、 }
\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n} = \alpha
\end{displaymath}


証明は煩雑なので紹介しないが、 興味があるならば参考文献 [1] を参照するといいだろう。



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竹野茂治@新潟工科大学
2006年3月31日